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第2話 やっぱり可愛いメインヒロイン

 学校までは徒歩だ。

 俺は姉さんと同様、歩いて登校できる距離にある新星(しんせい)高校を選んだ。


 ということだが、これもシナリオ通り。


 特に入学する高校にこだわりはなかった。

 そんな時、姉さんは俺に、こだわりがないなら新星を受けなさいよ、と結構強めの態度で言ったのだ。


 今考えれば、これはまさにツンデレの現れだった。


 最高じゃん。


 姉さんはどうしても俺と一緒の高校に行きたかったんだよね。


 学校に着くまで、姉さんの愚痴を聞かされる俺。

 受験勉強のために開かれた講座。そのせいで夏休みの半分がなくなってしまったらしい。


 俺は普通にそういうの嫌だから、3年生での講座は適当な言い訳をしてサボろうかと思っている。


 だって、夏休みは休みであるべきだし。

 学校が言葉の矛盾を引き起こすようなことをしてはならない。


「それじゃあ、また」


「今日は放課後講座とかないから。先に帰らないでよね」


 学校に着くと、生徒玄関で姉さんに別れを告げる。


「え、俺と一緒に帰りたいの?」


「あんたが言ってきたんでしょ。仕方ないからお姉ちゃんが一緒に学校に行ってあげるって――」


「でもそれ、登校の時の話だよ? 下校のことは一切話してないけど」


 少し意地悪かもしれないが、事実ではある。


 俺は一緒に行こうとしか言ってない。

 そもそも、姉さんが受験勉強で放課後忙しいことはわかっていたので、一緒に下校できるとは思っていなかった。


「なにそれ。急に正論持ってこないで。普通にキモいから」


 姉にそこまで言われるのは逆に苦しいんですけど。


 キモいって言われるの本当に嫌だよね。

 せめて気持ち悪いって言ってほしい。言葉のチョイスは大切だ。


 姉さんは限界まで顔を紅潮させると、陽キャ感満載の女子生徒と共に教室へと向かっていった。




 ***




 俺の教室は校舎4階にある。

 2年B組の教室だ。


 B組はざっくり言うと、水越(みずごし)のクラス。


 水越という圧倒的美少女が注目を集めすぎて、あとはモブにしかならないという異質な学級だ。


 そして俺も、そのモブの中の1人。


 俺が他と異なるのは、モブの中でもモブを極めているという点。


 自分でもブサイクじゃないと思う。今までの人生でブサイクと言われたことは一度もないし、その代わりイケメンと言われたことも一度もない。


 というか、誰も俺の顔を見ないのだ。

 印象に残らない顔立ちのせいで、背景キャラを16年以上も任されてきた。


風野(かぜの)君、おはよう」


「あ、おはよう」


 ザ・背景キャラの俺に、話しかける猛者がいる。


 それはなんと、このクラスの主役、水越莉虎(りこ)だった。実は夏休み前の席替えで隣になってしまっている。


「夏休みはどうだった?」


「まあ、それなりに」


「どこか行ったの?」


「買い物とかは行ったかな」


 派手な夏休みじゃなくてごめんな。


「そうなんだ」


 基本的に、水越はクールなヒロインだ。

 頭が良くて運動もできる完璧超人でありながら、クールなのだ。


 ちょっと切れ長の瞳に、真ん中で分けた髪。


 その艶やかな髪は後ろで1つに結んである。最上級のポニーテールだ。


 涼しげで整った容姿もまた、彼女のクールさを際立てる要因にはなっているんだろう。


 でも、ポイントはそこじゃない。


 水越は普段、友達とベラベラ喋るようなタイプではなく、授業などで積極的に発言するタイプでもない。


 一匹狼。

 水越の人気が高い大きな要因が、まさにこれ。


 男子からは男絡みが少ない孤高のお姫様ということで最高評価。女子からは自分を持った大人な女性ということで最高評価。

 ちなみに、高校に入学してから今日に至るまで、100人以上の男女(・・)に告白されたらしいが、全て断ったとのこと。


 さすがはメインヒロイン。


 ラノベの主人公が好みそうなステータス。


「宿題は終わった?」


 まだ水越は話を終わらせてくれない。


「一応」


「その……数学の問題でわからないとこがあったから、少し見せてくれない?」


 実力テスト及び定期テストで毎回学年1位の水越。


 そんな水越が、俺に宿題を見せてと言ってくる。


 実はこれ、危険信号だ。


「俺もまったく数学わかんなかったから、見せるの恥ずかしいかな」


 そう言って、話を強制的に断ち切る。

 もう話しかけてくるなと言わんばかりに、生徒鞄から本を取り出して読み始めた。完璧だ。


 ここで言うのもアレかもしれないが、俺は勉強ができる。


 もしかしたら水越以上かもしれない。


 俺は平凡であるということに誇りを持っていながらも、非凡に憧れている時期があった。

 それもドラマのシナリオ通りなんだが、とりあえず、俺は中学生の頃に勉強を頑張った。それなりに過酷な努力シーンを終え、俺は勉強が得意なモブへと進化したのだ。


 でも高校でそれをひけらかすことはない。

 悲しいかな。それがラノベの主人公の宿命なのだ。


 しかーし、そんな時、水越と席が隣になった。

 学力平均を目指してテストを受ける俺だが、一度だけ、数学で満点を取ったことがあった。単なる気まぐれ。


 どうやらその時、水越はちらっと見てしまったようだ。

 俺の満点の解答用紙を。


 そこからかな。水越が俺に話しかけるようになったのは。夏休み前までワンチャンあるかも!とか思ってたのに、付き合ったら激重ヤンデレという破滅が見えている時点で幻滅だ。


「ほんとはできるくせに」


 ボソッと。

 隣の席でないと聞き取れないような声で、水越が呟いた。


 唇を尖らせ、普段絶対に見せないような表情で。


 ちょっと待って。

 可愛すぎるね。


 思わず惚れてしまいそうになったが、コイツは将来ヤンデレだ、と何度も自分に言い聞かせることで平静を装った。

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