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第17話 ヤンデレの片鱗を見せる姉ヒロイン

 映画が終わった。

 最高に面白かった。


 まずは『ダンラブ』原作者のエース皇命(こうめい)にありがとうと言いたい。今回の脚本を担当してくれて、ありがとう。


 やっぱり原作者が監修すると、ちゃんとその世界観が守られて、全ての辻褄が合う感じがする。

 今回の場合、その原作者が有能だったからこそ成功したわけだ。


「別に泣いてるわけじゃないから。こっち見ないで!」


 犬織(いおり)は号泣していた。


 最後の方は感動シーンが多かったため、周囲にも泣いてしまっている観客が多い。だから別に隠すようなことじゃないと思うんだが。


 これがツンデレヒロイン。

 優しく抱き締めてあげたいが、ここは公衆の面前。


 俺は犬織に触れそうになった手を引っ込めて、代わりにポップコーンをつまんだ。


 ――あ、やっぱりポップコーン美味(うま)いね。


龍河(りゅうが)様……尊すぎる……白狼(しろう)もそう思わない?」


「えーっと……そうだね」


 栗涼(くりす)はすっかり推しに溶かされていた。

 確かに今回は龍河の活躍も多かったので、気持ちはわからんでもない。


 一応説明しておくが、龍河様こと西園寺(さいおんじ)龍河というキャラクターは、『様』を付けられるほど高潔でクールなキャラじゃない。


 大手企業の社長をしていて、普段はクール。

 しかーし、なんと裏ではふにゃふにゃ。


 どうすればいいのかわからなくなったら大泣きし始めるし、ソファにぐでーんと転がって駄々をこねるような奴だ。


「確かに西園寺はかっこいいけど……結構ネタキャラ感ない?」


「そこがいいんだよ! 龍河様がただの強くてかっこいいキャラだったら、絶対推してなかったと思うし!」


「あー、逆にそのギャップがいいのか」


「そうそう! 白狼って話わかる人だね!」


「え、あ、はい」


 そんなノリノリで言われると、こちらとしても反応しにくい。


 どうしよう。

 興奮しながら推しを語る栗涼が魅力的すぎる!


 これもまたギャップだ。


 彼女がオタクであることを知らない人からすれば、栗涼はクールでイケメンな王子様系女子。

 だから女子からモテるし、特定のモブ男子軍団から求婚される。


 そんな栗涼がこんなに推しを熱く語れるオタクであること。それは多分俺くらいしか知らないのでは?


 あれ?

 俺しか知らないこの()の秘密?


 もしかして、俺たち付き合ってる?


「良かったら、この後一緒にグッズ買いに――」


わたしの(・・・・)白狼に何か?」


 流れで俺を誘おうとした栗涼に、凍てつく波動が放たれる。


 犬織の表情が怖い。

 今にもナイフで刺しそうな目で栗涼を見ている。


 それに、いつの間にか俺、犬織の所有物になってたんですけど。


「せっかく映画を観たので、一緒にグッズでも買いに行きたいなーって思って。白狼とは話が合いそうだから――」


「白狼はこの後お姉ちゃん(・・・・・)と予定があるの」


「そうだ! お姉さんも『ダンラブ』好きってことですよね! 推しは誰ですか?」


 栗涼はやっぱり天然だ。

 犬織から放たれている殺気に気付かない鈍感ぶり。


「……才斗(さいと)


 あ、そこはちゃんと答えるんだ。


「才斗いいですよね! そこで主人公を推してるところが、1周回って主人公が好きって感じで、凄い尊敬します!」


「ふんっ。わたしを見習うといいわ。まあ別に、あんたを認めたってわけじゃないから」


 我が義姉がチョロすぎる。


「え、ボク、いつの間にか認められたんですか? 嬉しいです」


「認めたとは言ってないでしょ」


「ボクはまだまだってことですよね……もっとグッズ買って、『ダンラブ』に貢献できるように頑張ります」


 多分、話が嚙み合ってない。


 この2人だし、わざわざ指摘する必要もないか。


「白狼、そろそろ出るから」


「あ、うん」


 エンドロールも最後まで観たし、かなり満足度が高かったな。


 映画の最中で恋愛イベントはまったく起こらなかったが、2人が観ることに集中していたと考えれば当然のこと。

 正直なところ、イチャイチャしたかった!




 ***




 映画館を出ると、犬織と2人になる。


 栗涼は映画館限定グッズ購入に集中していたようで、『またね』とは言えなかった。


「いつもなら絶対グッズ買ってるよね? なんで買わなかったの?」


「別にいいじゃない。文句でもあるわけ?」


 おっと。

 不機嫌な犬織。


「珍しいなって思っただけだよ」


「どうしてもって言うなら、理由教えてあげるけど」


「いや、そんなに――」


 犬織の肘鉄が炸裂する。


「――どうしても気になるから、教えてほしいなー」


「仕方ないわね。そこまで言うなら教えてあげる。わたしはただ、あんたが浮気してると思ったのよ」


「浮気?」


「今日はお姉ちゃんとのデートでしょ? だったら弟はお姉ちゃんを楽しませるために全神経を集中させるべきなの。違う?」


 違うと思う。


「それなのに別に女にデレデレしてたから、お姉ちゃんとしてけじめをつけさせようと思ったのよ」


「栗涼は同級生で、たまたま――」


「名前呼び……なんで下の名前で呼んでるのよ……」


「それは本人がそう言えって――」


「わたしのことは下の名前で呼ばないくせに……」


 あれ、これはもしやチャンスでは!?


 今日のミッションは姉さんである犬織を名前で呼ぶこと。

 これで対等な男女の関係に発展させよう!という目的だ。


 ていうか、やっぱりツンデレの犬織は可愛いな! 付き合いたい!


「犬織」


「――ッ。別に嬉しくなんてないから。でも、これからもそう呼びなさいよね!」


 明らかに脈あり。


 だが、俺は今、非常に悩んでいる。


 もしかしたら、犬織にもヤンデレ因子があるのではないのか、という疑念について。

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