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第15話 ヤンデレヒロインVSブラコンヒロイン

 メインヒロインの魅力には抗えない。


 どうにかしてこの遭遇(エンカウント)から逃れようとするも、俺の体が分子レベルでメインヒロインから離れることを良しとしないのだ。


 ここで、俺は姉さんとデートだからもう失礼するよ、と言うことができればいいんだが……。


白狼(しろう)、今日はわたしを満足させてくれるんでしょ。早く行くわよ」


「あ、うん」


 ここで犬織(いおり)からのナイスフォロー。


 彼女は俺をヤンデレから助けてくれたのだ。


 それにしても、俺の返事があまりにダサすぎる。

 可愛い女の子に話しかけられたらこうなっちゃうんだから仕方ないよね。


 犬織は俺の腕を強引に引っ張り、そのままアーケード街の方へ向かおうと足を動かし始める。


「良かったら、私もご一緒していいですか?」


 ここで、メインヒロインからまさかの一言。


 俺の中で、水越(みずごし)は孤高のヒロイン。

 自ら好んで1人を望み、群れることを避けるクールな女性だ。


 そんな一匹狼が俺たちとご一緒(・・・)したいと言う。


 断れるわけないじゃん! まったく、罪な女だ……。


「もちろん――ッ」


 二つ返事で了解しようとして、気付く。


 ――これは罠だ。


 物語としてはメインヒロインを話の大まかな流れから離脱させるわけにはいかない。

 そこで普段は孤高のメインヒロインの性格を少し曲げてまでも、休日デートイベントに配置しようとしているのだ、多分。


「悪いけど、今日は家族(・・)での交流を楽しみたいの。わかってくれるわよね?」


「……」


 犬織、なんてことを言ってくれるんだ……水越と犬織に囲まれ、ハーレムデートがしたかったのに!


 少しお嬢様っぽい口調になった犬織の牽制に、水越は一瞬(ひる)んだ。


 一方俺は空気だ。


 モブとして生きることで培ってきた経験により、まさに文字通り背景と化している。


 クローズアップされるのは水越の完璧な顔と、犬織の端正な顔。

 平凡な顔の俺が切り抜かれると、視聴者諸君はガッカリするだろうね。


「でも、犬織さんと白狼君は血の繋がりがないから、本当の姉弟(きょうだい)ではありませんよね?」


「だから何? 同じ屋根の下で暮らす家族ですけどぉ?」


 なんか喧嘩が始まった。


「実は白狼君のこと、男性として意識しているのでは?」


「――ッ。そんなわけないでしょ! ちょっと何? あんた、礼儀ってものを知らないの?」


 さっきまで真逆のこと言ってたじゃん。


 まあ確かに水越がやりすぎな気はするけど。


「その反応、図星ですね」


「急にわけのわからないこと言われても知らないから! 歌星だか流れ星だか知らないけど、もう話しかけてこないでよね!」


 犬織さん、それは図星です。


 高3受験生、図星の意味くらいは知っていてほしい。


「白狼、早く来なさい」


 喧嘩イベントが終了する。


 俺は一瞬にしてモブからメインキャラの義理の弟へとジョブチェンジ。


 犬織はあり得ないほどの強さで俺の腕を引っ張り、モールの中へと連れていく。水越が追いかけてくることはなかった。

 もしかして、一件落着?


 そう思ったのも束の間――。


 ――ストーカーじゃないか……やっちゃってるよ、水越さん。


 今の水越はきっと、世界で最も尾行が下手な探偵だ。

 そもそもその美貌が注目を集めすぎて、絶対にモブに扮することができない。


 メインヒロインとして生きることもまた、過酷な運命なのだ。ヤンデレヒロインに堕ちてしまうのも仕方ないのかもしれない。




 ***




「それで、どこに連れていってくれるの? ちゃんと考えてるのよね?」


「もちろんだよ」


 犬織と並んでモール内を歩く。

 

 プランなんてないが、適当に歩いておけば大丈夫だろう。

 それに、犬織とどこかに行く時には、必ずあそこ(・・・)に行くと決まっている。


「映画観ようか」


 モール内にある映画館。


 犬織はドン引きするほどの映画好きで、週に2回以上は映画を観にいっている。

 基本1人で行っているらしいが、月に1回、俺も付き添いみたいな感じでついていくように強要されるのだ。


 だから俺もいつの間にか映画に詳しくなっていた。


 ちなみに、犬織は映画(・・)であればなんでも好きだ。

 だから好きなジャンルとかはない。あらゆるジャンルが好きで、あらゆるタイプの映画も観る。


 珍しいよね。

 俺は洋画のかっこいいアクションものか、アニメの映画化くらいしか一緒に行かないんだが。


「そこはわかってるのね。及第点をあげる」


「どうも」


「何の映画を観るつもり?」


「んー、『ダンラブ』かな」


 適当に言ってみる。

 何個か観たい映画の候補はあるものの、変に悩んだらまだ減点されそうだ。


 ただでさえ及第点なのに。


「センスあるじゃない。ちょうど今日が公開日だし、ネタバレを避ける意味でもちょうどいいわ」


 上機嫌の犬織は、慣れた操作でチケットを買うと、ポップコーンのキャラメル味とうすしお味のLサイズを2つずつ買った。


 うん、ツッコミたいならお好きにどうぞ。

 それが犬織流、映画の楽しみ方だと言っておくよ。


「半分は俺が――」


「わたしが勝手に買っただけだから、お金はいらない。食べきらないとお金もらうから、覚悟してなさいよね」


 なんて優しいお姉さんなんだ。

 付き合いたい。


 俺もまた上機嫌になり、微笑みながら会場の席に着く。


 左側後方がお気に入りのポジション。

 もちろん犬織は隣だ。


 だが――。


「え、白狼?」


「あ……」


 犬織とは反対側の隣、つまり俺の左隣。

 そこにイケメンが腰掛けたかと思ったら、まさかの知り合いだった。


栗涼くりす……」


 ボーイッシュ系ヒロイン、空賀(くが)栗涼。


 今度はまさかのサブヒロイン×サブヒロインのイベントが巻き起こったぁぁぁあああ!

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