第14話 最強ヒロインのヤンデレ覚醒レベル2
「え……風野君……?」
サブヒロイン攻略中にメインヒロインが現れた。
珍しいのか、よくあることなのかよくわからん。
まあ、ラノベ原作だとよくあることだよね。
俺と犬織は手こそ繋いでいないものの、かなり近い距離感で歩いていた。
それが水越の目にどう映るのか。
彼女にはヤンデレの才能があるから、きっと普通には受け止めないだろう。
「水越さん……」
「そっか……お姉さんがいるんだったよね」
「あ、そうそう」
水越は俺に姉がいることを知っていたらしい。
しかーし、俺から話したわけじゃないので、どういう認識を持っているかは謎だ。
もしかしたら、血の繋がりのある本当の姉弟だと思っているのかもしれない。
「今日は姉弟仲良くデート?」
「まあ、そんなとこかな」
水越の目が笑ってないところが気になる。
今回のメインサブヒロイン(自分でも何が言いたいのかわからんね)である犬織は、私服姿の驚くほど可愛い美少女を見て驚いていた。
いやいや、犬織も同じくらい可愛いよ。
まあでも、実際水越の美しさに目を奪われるのはわかる。
通行人のモブたちは女神を見るような視線を水越に向けているようだし、近くにいたモブ男子高生のグループは下心満載の目付きで彼女を凝視している。
私服は至福。
普段制服姿に見慣れている俺からすれば、水越の私服姿はテンション爆上がりというヤツだね。
水色のショートパンツに、薄手の白いブラウス。
そして何より、健康的で艶のある脚と腕。
ほどよいエロさを兼ね備えつつ、神秘的なオーラを放っている。
もはや美しいを超越して、神々しい。
水越の素晴らしさを表すことのできる言葉なんて、存在しない。もしかしたら日本語以外だったらあるかもしれないが、俺は日本語しかしゃべれない。ごめんね。
「水越莉虎……この娘が……」
犬織も水越のことを知っているらしかった。
水越はメインヒロインだから、上級生の間でも絶世の美少女として有名っていう設定なんだろう。知らんけど。
水越のことを犬織に話したことはない。
同じクラスってことくらいは知ってるかもしれないね。
『おいおい、あっちの巨乳もやべぇ』
『まじか……オレあっち派だわ……』
『それな!』
人ごみから聞こえるモブ会話。
物語を盛り上げる、ナイスな効果音である。
そしてソレナ2号がいる件。
「ちょっとあんた、普通に聞こえてるから」
『あ……すんません』
『まじウケる! 撤収!』
『それな!』
犬織の冷酷な一言で、発言の存在感だけを残しつつ消えていくモブの諸君。
仕事ができるモブだ。
ちなみに、巨乳と呼ばれていたのは犬織の方だ。
スタイルがいいので、確かに巨乳なのかもしれない。別におっぱいフェチとかじゃないので、そこまで気にしたことなかった。
多分だけど、Eカップくらい?
てか本人がそんなことを言っていたような……。
『わたしEカップあるんだけど。あんたには胸なんてないでしょ』
思い出した。
男の俺に胸の大きさで勝負をしてきたんだっけ。
巨乳の犬織に対して、メインヒロインの水越はほどよい大きさだ。
大きすぎず、小さすぎる。
結局はここだと思う。
メインヒロインっていうのは、バランスが重要だ。
こうして犬織と水越を比較すると、ヒロインとしての格の違いっていうのがはっきりとわかる。
犬織は刺さる人には刺さる。
身長が高めで巨乳。ツンデレお姉さん。
水越は王道でありパーフェクトヒロイン。
身長は160くらいで平均的。乳の大きさもほどよくありつつ、女性的な曲線のある体を持ち、その他のスペックはかなり高く設定してある。
――でもヤンデレなんだよなぁ……。
そこさえなければ、本当の意味で完璧だった。
欠点があることはキャラクターにとって凄く大事なことだと思う。ただ、水越の場合、実は料理が苦手、とか、にんじん嫌い、とか。
そんな感じの欠点の方が良かったと思います!
「白狼、水越さんと知り合い?」
「同じクラスで、今ちょうど席が隣なんだ」
「白狼君にはお世話になってます。友達の水越莉虎です」
そう言いながら、ペコリと頭を下げる水越。
可愛すぎるだろ!
というか、犬織が同じ名字なせいで、俺の呼び方が名前になったんだけど!
白狼君はヤバい。
初めて言われた。
付き合いたい!
「ふーん、礼儀はしっかりしてるのね」
上から目線すぎるよ姉さん。
ツンデレなのはわかるけども。
「お姉さんの……お名前は?」
「犬織……風野犬織」
「犬織さんですか。素敵な名前ですね」
さすがはパーフェクトヒロイン。学校の先輩への礼儀もしっかりしている。
正直なところ、犬織の方はもう少し態度を柔らかくした方がいいと思う。
「ふんっ。そんな褒められても嬉しくないんだからねっ」
いやめっちゃ照れてるじゃん。
悪いけど、普通にお世辞だよ。
ここで水越が俺に向き直った。
なになに、急にドキドキしてきた。いや、そもそもさっきから心臓バクバクだったね。
「風野君――いや、白狼君。今日からお姉さんと知り合いになったから、これからは名前で呼ぶね」
「あ、はい」
「あと……少し聞いた話になるけど、白狼君と犬織さんって、血の繋がりがないって本当?」
「……本当です、はい」
「そうなんだ。へー」
え、多くを語らないんだが、なんか怖い。
異常なまでに笑顔だし、なんか狂気を感じる。
だが、そんなことは今はどうでもいい。
――やっぱメインヒロイン可愛いなおい! 付き合いたいなおい!
俺は意外にもチョロいのだ。