第13話 ブラコンヒロインと休日デート
「今日もいい天気だね」
「わたしは休日忙しいんだから、しっかり楽しませなさいよね」
「はいはい」
土曜でも姉さんのツンデレは変わらない。
せっかくの休日。
俺はツンデレ美少女の義姉とデートをしている!
きっかけは俺の一言だった。
昨日の夜、パジャマ姿でソファに寝転がる姉さんのところに行き、デートに誘った。我ながら姉とのデートに積極的すぎる。
『良かったら明日デート行かない?』
『ででででデート!?』
この時の姉さんの動揺は凄まじかった。
この世界の真実に気付いてから――前世の記憶を思い出してから――姉さんを意識することになった俺にとって、デートの誘いは必須事項。
この休日に姉さんこと犬織との距離をグッと縮め、勝ちヒロイン候補にまで持っていくつもりだ。
覚悟しておけ。
もちろん、姉さんはツンデレだから素直に『うん』とは言ってくれなかった。
高校2年生にもなって彼女のいない弟が可哀そうだから、仕方なく一緒に行ってあげるわよ……という流れである。
それを言うなら姉さんは高校3年生で恋愛経験ゼロだ。
一緒じゃん!
運命かな。付き合いたい。
「今日もいい天気だね」
「天気以外の話題はないの? あんた、女の子とデートしたことないでしょ」
そりゃあないさ!
隣を歩く姉さんがあまりに魅力的すぎて、天気の話題しか振れないんです!
ちなみに、今日の目標は名前呼びである。
姉さんのことは姉さんとしか呼んでいなかった。だからここで変化を加える。
姉さん→犬織。
姉弟とは言っても、義理だ。
そろそろお互い前に進むべきではなかろうか。俺はもうすでに、姉さんのことを女性としてしか見ていない。
美人のお姉さんであり、バリバリの恋愛対象。
だが、ここで問題が生じる。
「ほら、白狼、チャック開いてるから」
「姉さんに閉めてほしいな」
「それって……そういうこと?」
これは完全に第1話であった流れのオマージュだ。
ちなみにチャックが開いていたのは意図的なものなんかじゃなく、一種の放送事故だ。
姉さんは顔を紅潮させながら、俺のズボンのチャックをキュッと上にあげた。
うん、死ぬほど恥ずかしいね。特に俺が。
周囲の通行人はひょっとこみたいな顔をしてこのやり取りを見ていた。
問題はここにある。
姉さん――いや、犬織は俺を弟として見ているただのツンデレブラコンなのか、それとも男として見ているツンデレむっつりなのか、ということ。
ドラマでは俺を男として見始めたきっかけみたいな描写がわかりにくく、結局よくわからなかったので、もういっそのこと今日意識させよう選手権。
「それで、今日はどこに連れていってくれるの? まさか、何も考えてなかったなんてことはないでしょうね?」
何も考えてなかった。
とりあえず家を出て50メートルくらい歩いてみたが、これじゃ素敵な異性とのデートにはならない。
「ちゃんとプランがあるよ。姉さんを満足させるためのプランが」
「――ッ。ふぅーん、そこまで言うなら期待してあげてもいいけど」
犬織、顔が真っ赤だぞ。
可愛すぎるな、おい。
付き合いたい。
ていうかどうしよう。
俺の家普通に田舎だし、電車とかバスとか使わないとそれなりのところには行けないな。
「……まずは電車に乗ろう」
決めた。
適当に電車に乗って、モールとかレストランとかいっぱいありそうな街に出て、適当にランチでもして帰ろう。
その間に犬織呼びに変えることと、手を繋ぐことを今日のミッションとする!
いやぁ、そう考えたらドキドキしてきたね。
手汗がキモくならないようにハンカチで入念に拭いておく。
3分に1回くらいはやった方が良さそうだ。
***
電車はそこまで人が乗っておらず、スカスカだったので普通に座ることができた。
犬織とは隣だ。
超絶美女が隣に座っていることを考えると心臓がバクバクして話題が何も思い付かず、適当な駅に着くまでの15分間、お互いに無言だった。
犬織も変に意識してしまっているのかもしれない。
それか、ツンデレだから自分から話題を作ることができないのか。
まあ、これからいくらでも挽回できる。
電車を出るとそこには街が広がっていた。そんなに広い街ってわけではないし、観光名所でも何でもないけど、人はそれなりに多い。
カップルもそこら中にいるね。特に高校生の。
当然俺と犬織は隣を並んで歩くわけだが、傍から見るとそれは初々しい高校生カップルではなく、セレブと付き人Aである。
「今日の姉さんはいつも以上に綺麗だね」
「うるさい……ばか」
そんな付き人Aが、セレブの機嫌を取るためにお世辞を言う。
俺の場合、これはお世辞なんかじゃなくてガチだ。
いつもはメイクなんてほとんどしていないのに、今回はバッチリメイクして、売れっ子女優のように輝いている。
でも、元の素材を上手く生かしたナチュラルメイクだ。
犬織の化粧は薄くて十分。
十分すぎるまであるよね。
しかーし、そんなヒロインとモブAのデート現場に、アイツの姿が見えてしまう。
――ヤバいぞ……どうにかして回避しないと……。
「え……風野君……?」
おいおい、なんでここにメインヒロインを配置するんだよ!