第10話 超人ヒロインのヤンデレ覚醒レベル1
完全に終わった。
陽キャ女子軍団を敵に回してしまった俺。
もうこれから何を言ってもこの事実が覆ることはない。一生クラスのゴミとして生きていくことになる。
まだ2年B組でのスクールライフは半年残っているんだが……もうダメだ。
「君、名前知らないけど、今ウチらのこと醜いって言った?」
「言ったね」
正確には――言ってやった。
もうこれ以上怖いものなんてないのだ。
吹っ切れた俺。
これからは好き放題に言ってやろうじゃない。そうそう、俺はこういうカスの集まりみたいな群れが大嫌いなんだった。
「え、ヤバくない? ウチら敵に回すってこと?」
「それな! 危機感持った方がいいって!」
「厳しいって!」
そんなの言われなくてもわかってるよ。
「この際だから言っておくけど、俺は君たちみたいな女子が嫌いだ。ちなみに、君らよりずっと、水越さんの方が素敵だし、魅力的だね」
よし、ここまで言ったらスピーカー運びに専念しよう。
女子たちからの反撃を受ける前に、モブはモブらしく退場。
そして名前も覚えられないまま忘れ去られる――そのパターン。
「そこまで言って平気で済むと思ってるわけ?」
陽キャ女子Aがガチで睨んできた。
普通に怖いし、せっかくのちょっと可愛い顔が台無しだ。
「あ、そうだ。瀬奈、コイツにレイプされたって担任に言ってきて」
「えー、それあたしじゃなくてもいいじゃん」
「あんたがこの中だと1番担任に気に入られてるしさ」
「わかったよー。で、証拠はどうする?」
「そんなのいらないって。こんなクソ雑魚モブと、瀬奈の言うこと、どっちが信用できるかってこと」
「それな!」
これはまずい。
担任教師は男だし、下手をすればクソみたいな作戦で丸め込まれてしまう可能性がある。
この軍団ならやりかねない。
スピーカーを運ぶどころじゃないね。
絶体絶命のピンチが、俺に迫っていた。
***
水越莉虎は体育終わり、校内を歩き回っていた。
ここ連日、昼休みに白狼の姿が見当たらないのだ。
例の空き教室とは別のところで昼食を取っていることが予想できたが、もしそうだとしたら……簡単には受け止められないかもしれない。
――どうして私を避けるの?
夏休みが明け、白狼は莉虎に対してそっけなくなった。
どこか意図的に避けているような感じも見受けられる。
莉虎は不意に焦りを感じていた。
パーフェクトヒロインが感じるはずのない、特定の男子に対しての焦りだ。
――私は……もしかして風野君と過ごす昼休みを……。
「はぁ。ねえ君、この中と誰かと寝させてあげるから、さっきの会話聞かなかったことにしてくれる?」
視聴覚室の裏側の廊下に出た時だった。
聞き覚えのある、意地悪な声が莉虎の耳に入る。
反射的に柱に隠れ、声のする方を確認した。
そこには、機材を運ぼうとしている白狼と、彼を囲んでいる6人の女子たちの姿が。
その6人は少し前に莉虎と口論した女子たちだった。
一定数の男子からは人気があるようだが、他の女子からは嫌われていたし、ほとんどの男子からは恐れられていた。
教師でさえも、彼女たちの生徒の間での強大な権力に畏怖するほど。
そんなスクールカーストの上位層たちに対抗できるのは、水越莉虎以外には存在しない。
「あのさ……」
白狼が口を開く。
彼も彼で、かなり怒り心頭に発しているようだ。普通の男子はそれなりに可愛い彼女たちの誰かと寝られるという条件を出されれば、食い付く者がほとんどだろう。
少なくとも、莉虎はそう思っていた。
しかし、白狼はそんな誘いに一切なびかなかった。
「そういうのやめた方がいいと思うよ。水越さんは努力してあれだけ凄い人になれてるんだと思うし、そんな人を陥れようとする君たちって凄く醜いと思う」
――ッ!
莉虎の胸が高鳴る。
ここで、頭の回転が速い彼女には、この状況の詳細をある程度把握することができた。
あの女子たちは自分の悪口か何か良くない考えを言っていて、白狼はそれを偶然聞いてしまった。
その口止めであんな提案をされていた……。
莉虎の中でふつふつと怒りが湧いてくるのと同時に、白狼への熱い感情が膨れ上がっていく。
自分が絶対的にピンチな状況の中で、彼は莉虎を庇ったのだ。
――私のために怒ってくれたんだ……風野君、優しい。
さらに白狼と女子たちのバトルは続く。
「この際だから言っておくけど、俺は君たちみたいな女子が嫌いだ。ちなみに、君らよりずっと、水越さんの方が素敵だし、魅力的だね」
――み、魅力的!
白狼の言葉の1つひとつに、キュンと胸をときめかせる。
少しずつ、感情が膨らみ、重くなっていく。
――風野君……風野君……。
ここまで言ってくれているのだ。
この女子たちに対抗できる唯一の存在である、莉虎がここで出ないわけにはいかない。
――そして一緒にお昼ご飯を……。
そこには下心もあった。
これまでの人生で、男子になど興味はなかった。ただ自分を高めることに焦点を置いてきた。
しかし、この日、莉虎は気付いたのだ。
――私、風野君のことが好きなのかもしれない。
まだはっきりとしたことはわからない。ただ、純粋な好意と、そこから派生する可能性を秘めた何かが、そこには存在していた。
そして――。
「話は全部聞いた。絶対に、あなたたちを許さないから」