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壊れた少女  作者: きのじ
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壊れた少女の噂

 小さな片田舎。

 人口は町と言える程度しかなく、主な産業もない。ショッピングモールも地区内にはなく、直近の大型量販店ですら車で40分もかかる寂れた町。

 誇れるものもがなく、大地を安売り、切り売りする才能だけに恵まれ、土地が安いだけの町。

 ベッドタウンを目指したものの、碌な産業も誘致も出来ず、大枚を叩いた古い私鉄すら鉄屑の廃線となって久しい。

 自治体の泣きの申し出により国鉄が出来たければ、それも1日に数える程しか走らない。

 ここはそんな寂れた街。

 誇れることなんてない。

 恥ずべきことであれば沢山。

 その恥ずべきことの一つとして…この町には小さな噂がある。

―死神の出る町。

 蜃気楼の先に浮かぶ、廃線となって久しい私鉄。

 その中でも黄色の花の海に浮かぶ、拡張をしていないから…ありはしないはずの駅のホーム…

 0番ホーム

 そこで死神に会える―と。

 0番ホームの死神―彼の者に会えれば…×××に死ねると。

 そんな噂に…会いたいと願い、私は今日も…

 …やっと見慣れた白い天井を見上げ目を閉じる。



「私の魂は、あなたに縋り。あなたの右の手は、私を支えてくださいます」

 私はいつもの…一番好きな部分を口に出して、手を差し出しその手が空を切る。

 虚空を切った手を引っ込め、私は背負うランドセルのベルトをしっかりと握る。

 いつもの帰り道。

 夏のうだる暑さと夕暮れ前の白い光が私を容赦なく照らす。

 帰り道のすぐ横にある森からは、少し涼しいのかひぐらしが鳴き始め、その物悲しい声だけが私におかえりと言ってくれている気がする。

 私は…何もない帰り道をただ、ランドセルを揺らして歩く。

 アスファルトを踏む音も、風が草を横切る音も、車が道路を蹴る音もする。

 それらが、騒がしく私を包んでくれるけれど、何処か遠くに感じる。

 太陽の強い光が私を照らしている。だけど、影が伸びるばかりで私の心は翳るばかりだ。

 私に当たるべき日の光なんて何処にないと分かる。

「あぁ―」

 私は口を開き、その言葉を言えず噤む。

 言っても一緒だ。それなら、ため息に交えて消してしまう方がいい。

 きっと、それが正しいから。

 私の隣を誰かが通り過ぎる。

 ぴかぴかのランドセルを背負った誰かは、楽し気に走っていく。

 アスファルトが喜ぶように彼女の足音を弾ませ、声を反響させていく。その口から出た言葉を私に見せつけるように。

 私に見せつけるように―

 私に見せつけるように―

 ぴかぴかのランドセルが背中から手へと移り、その先で持ち主の頭よりも高い位置へと運ばれる。

 ランドセルの持ち主は楽し気に、どうだっていいような、何も不安なんてないようなそんな楽し気な表情で。

 ぴかぴかのランドセルのことなんて気にも止めずに、渡した人へただ笑顔を見せていた。

 私はそれを見ないようにただ、俯いて通り過ぎる。

 車が通ればいいな…そう思いながら私はアスファルトに嘲笑われながら道を歩くしか出来ない。

 歩いて…

 歩いて…

 ただ歩いて…

 曲道を壁を全部無視して、私は歩いていく…。

「私の魂は、あなたに縋り。あなたの右の手は、私を支えてくださいます」

「私の魂は、あなたに縋り。あなたの右の手は、私を支えてくださいます」

「私の魂は、あなたに縋り。あなたの右の手は、私を支えてくださいます」

 私は祈りを繰り返す。

 触れあえたら、届いたらと…そう願う手はついぞ伸ばす気すらなくなり、虚空であることを認めるしかない。

 虚しい…ただ、虚しい…。

 空を掴むように、ただ空を切る手を私は握ることしか出来ない。

 私はランドセルを揺らして…そこを目指す。

 噂なんて信じていない。

 敬虔で善良であるべきと教えられた。

 人は優しく、正しいと教えられた。

 だから…人を信じ、優しさを信じ、神を信じていれば―いつか分かり合えると―信じていた。

 胸に下げた皆の物とは違う金属製のお守りを握り、祈りを口に出す。

 その言葉が懺悔と後悔に変わらぬように、人を信じ、優しさを口に出す。

 風が吹いた―。

 私の祈りが風に消える―。

 空…全ては空…。

「あぁ…そっか…」

 心に水底と水面が映り、そこに私からこぼれた一滴が落ち揺れる。

 一滴は水面を叩き、水面を揺らし、真っ直ぐに堕ち―水底を歪める。

 気付けばそこにいた。

 黄色い花の海。

 鼻腔をくすぐる甘い香りと、突き抜けるような鉄錆びた刺激臭。

 埃が舞い、灰を侵し、喉笛を喰らい、熱とともに息を吐き出させる。

 夏の日差しに照らされた、生気のないコンクリートと、一部むき出しとなり乾いた血のような色をした鉄筋をのぞかせた建物。

 既に使われなくなった茶錆びたレールと腐った枕木…。

 ここは廃墟―元私鉄だ。

 私は気付けばホームに上がっていた。

 ゆっくりと埃を舞わせながら、蝉と花の香りに導かれゆっくりとホームの縁へと歩く。

 来るはずのない電車を待ち、瞳を閉じる。

 ため息も出ない。

 もう―何も信じたくない。

 右耳がいつものように高い音を鳴らす。

 金属が擦れ合い続けるような音。

 私を守ってくれる音。

 それでも聞こえてくる。脳の奥にこびりついた音が私に声を囁く。

―なんで?

―なんで?

―なんで?

―なんで?

―なんで?

―なんで?

 …もう聞きたくない声達から私を守ろうと、母よりも、父よりも、偉大なる天上に召します父よりも…ただ、身近で慈悲の心で私の耳をつんざく。

「あぁ…」と声が漏れる。

 その時には甲高い耳鳴りに誘われ、体を投げ出していた。

 遠くから聞こえるはずのない地鳴りと、何重にも重なる笛の音、草を切る風の音―それらが”電車”の到来を教えてくれているようだったから。

―お願い。

 私はすべきではない祈りと共に体を手放す。

 堕落した祈り。冒涜的な祈り。穢れた私に相応しい祈りをただ、口に出す。

「聞こえたよ―」

 体がフワリと浮く。

 投げ出した体が上へと引かれる。

 触れられた間隔はないのに、ただゆっくりと糸で絡められるように、私の背を押し上げる。

 怖くて目が開けられないのに、それでも温かな光が眼を打つ。

 それと同時に温かな光は強烈な七色の光となり、私の眼をこじ開ける。

 黄色い波が見えた。

 どこまでも広がる…地平線どころか世界を埋め尽くさんばかりの黄色い海のうねりが、風に揺れ、地に支えられ、意志を持つようにうねりを上げる。

 私の体を風が抱き留めているのか、まだ足がつかない。

 数メートルだったのに、いつまでも足が、体が、頭が地面につかない。

 風が吹いている―温かな風に混じって、湿った冷たく海を思わせる風が私を通り抜ける。

「私は―死にた……い」

 堕落の祈りを口に出し、胸の十字を握り込む。

「そう―思いつめるものでもないだろうに」

 しわがれた声と共に、花の優しい香りと、潮風が吹き抜ける。

 魚の腐敗臭と汗と血が混じった…私と似た臭いがする。

 臭いの元を探し目線を泳がせると、サカナがいた…。

 それは…人だった。

 黒いコートを来た、大人…。

 ぬめぬめとした鱗で覆われた体。ギョロリとした遥か彼方を見つめるような焦点の合わない瞳が、頭部の横に付き。尾びれで立つ奇妙な魚をした…人だった。

 言葉を失っていると、風が吹き、声が響く。

 地鳴りのような強い音…それが波のさざめきのように押し寄せ、数多の言語で私を打つ。

 言葉の乱調が押し寄せ、騒音となり、やがて一つの言葉が私の耳に届いた。

―ここは、海だよ。

 その言葉と共に私は地面に降り立った。

 湿った、土の感触の無い地面。波が足元に感じられるのに、足は沈まず、濡れない。

 波もあるから、大地ではない。だったら、ここは、海なんだ…とそう納得させられる。

 私の前にいた人は、そのコートを翻し私の前へと降り立つ。

 よく見ると…サカナではなかった。

 人だった。

 コートを着た、駅員のような恰好をした、目の鋭い普通の男性。

 でも、何処か神父を思わせるような黒いコートを羽織っており、それを助長させるのは彼が胸に十字架を提げているからだと思う。

 ただその十字架も、十字架に見えるものの、よくよく見ると修学旅行のお土産屋で見た、剣に龍が纏わりついているアクセサリーだった。

 男性は後ろ手に組み、鋭い瞳で、何処か虚空を見つめるように空を見上げる。

 私も空を見上げると、空は茜色に染まり、空には波がただよっていた。

「あなたは?」と私が口を開くと、神父のような駅員の男性は、静かに口元を歪め、細い牙をのぞかせた。

「懺悔かね?ならば、お互いに名乗る名はない。お互いに顔も必要もない。お互いを知る一時もいらぬ。目も入らぬ。足も手も何もいらぬ。声のみしてあれ響けば、それで十分だ」

 駅員の男性が老齢のしわがれた顔で私にそう告げる。

 真っ黒で何も見えないのに、老齢のしわがれた顔で、私に優しく聞いてくれる。

「死神―ですか?」

「答えるに能わず。それ故に、聞くに及ばず…だ」

 男性の言葉に私は俯く。

 私に懺悔等…赦されてないのだから。

 男性は虚空のような表情を浮かべる。木の板で張り付けられ、目張りされた顔で私を見つめる。

「懺悔ではないのであれば、答えるがいい。汝は誰ぞや、我は誰ぞや、と。それすら持ち合わせぬサカナを飼えぬ羊飼いに、私は名乗る名などなければ、聞くに必要な耳もない」

 男性はぬらりとした手で、自分の腕から鱗を一枚剥がし、私の瞳に張り付けた。

「ましてや、人の身如きに、語るも騙るも、ないであろう?」

 その言葉が終わると同時にそれは黄色い花びらとなり、空に舞う。

 花弁は空の彼方、波打ち際でサカナとなり、海面から飛び立つと鳥となり羽ばたいていく。

 男性は鱗を目から外しながら、真っ黒な瞳で空の上の波をぼんやりと優し気に見つめる。

「鳥は飛び、サカナは泳ぐ。蓄え等無くとも生きているのだ。それを下等と呼ぶなど、人とは哀れだ。生きとし生ける者へ、ただ愛を与える…ただ、尊重し…互いを理解し合う。それは美しいではないか?」

 男性は溢すようにそう告げると、サカナの顔を私に向ける。

「改めて聞こう…人の業は、人の蓄えは意志の罪、積み、摘み…だ。汝が降ろすべきは、ここですべきは、望むべきは…」

 男性の顔が、人になった…。

 私はその顔を…知らない。なのに、温かさを感じる。

「―懺悔かね?」

 私は自然と両手を胸の前で組んで、彼に跪く。

 地面に座り込むと、優しくもねっとりと絡みつく海の水が私の膝と足を飲み込む。

 濡れない水に、私の水が跳ねる。

「いいえ、違います…!私は…」

 私は声を張り上げる。

 思い出す…。

 ただ正しいことを信じているのに…教えられたことをしているのに…

 神様を信じてるのに!


―あいつ臭くね?


―変な奴


―おもしろくない


―きっしょ


―あいつの親、狂ってるらしいぜ


 声が響いて来る。

 海の底から私の体を絡めとり、喉を侵し、体の至る所から刺し貫いて来る。

 血が出ないのに、喉から声も出ないのに、もっと大切な物が体からこぼれていって、体の中に何も残らないくらいに流してしまった。

 ―私は乾いている。

 なのに、この海は私は何も与えても、潤してもくれない。

 でも…あの人達は悪くない。

 この海も悪くない…。

 だって…

 …………………神様がそう言うから。

 私が悪いだけだから。

 そんな声に…負けた…私が…悪いだけだから…。

 諦めた…私が悪いだけだから。刈り取るまで待てなかったから…

「哀れだ」とサカナの声が耳打った。

 水かきのある、私の頭もよりも大きな手が私に落ちてくる。

 湿りはない。そこには乾いた大地にしみ込んだような淡い光だけがあった。

「そうまでして赦しを請わんか…愚かだ。」

 男性は手だけを残し、背を向け、「強情だな」と笑みを浮かべ黄色い海底の波間へと消えて行く。

 私は彼に向かって手を伸ばしていた。

 黒いコートをはためかせる、初老の男性に…求めるように、縋るように、堕落するように。


私を見てよ―


 その言葉は私の言葉じゃなかった。

 あの男性の声だった。それと同時に男性の声が…人になった。女の子になった。

 重なりが消え、海の音も、泡の音も、風の音も…消えて行く。

 泡沫が割れ、海が割れ、乾き、砂浜に太陽が差し込む。

 差し込んだ光により熱砂の大地が生まれ、灼熱と強すぎる光が、きめ細やかな砂の砂漠を産み出した。

 生まれ出でた砂漠に、鳥が堕ち、魚は灼け灰へとなっていく。

 私は―私の指先が白く霞み崩れて行く。

 風に乗る塵へと私の体が崩れて行く。

 こうなりたい…そう願っていたのに、風に乗る塵へと手を伸ばしてしまう。

 水を求めてしまう。

 声も出ないのに、涙も枯れているのに…私の体を侵す言葉が波のように溢れ包み込んでくる。

 ―もう、何もないよ…

 声が出ない。

 私から何も出ないと分かってるのに、元より出す気もないのに、声達は私を刺す。

 私の中には、もう流すべき物も、流せる物もないのに、ただ何度も何度も刺し貫いて来る。

 言葉の棘…その先端を探して体をまさぐっても、何もないのに、私の胸には痛みだけがただ生まれて行く。

 足元に熱を感じる。焼け焦げるような痛みが私の膝と足に伝わる。

 それで…ようやく気付いた。

 刺していたのは…私自身だった。

 私が…私を刺していたんだ…

 そう気付いた時には私の足に焼けたコンクリートの熱が痛みと共に伝わってくる。

 痛みを受け入れるように私はうつぶせになり、他からの痛みを求める。

 誰も悪くない。

 悪いのはいつだって、私なんだから。

 私だけが、悪いから…皆は正しいから。正しいことを言っているから。


 私を見て―


 私だって…頑張ってる。

 私だって…正しいことをしている。

 私だって…

私だって…私だって…私だって…私だって…私だって…私だって…私だって…私だって…私だって…私だって…私だって…私だって…私なんて…私だって…私だって…私だって…私だって…私だって…私だって…私だって…私だって…私だって…私だって…私だって…私だって…私だって…私だって…私だって…私だって…私だって…


 海が消えた砂漠。

 なのに波が生まれる。私の口から声の波が生まれていく。

 流れるハズのない水が、もう既に枯れた水がこぼれて行く。

 砂漠に飲まれ消えて行くだけの水が、乾いた地面に堕ちて行く。

「…あぁ…」

 嗚咽しかでない。

「あああああぁ…」

 さらに声を出しても、私には誰もいない。

 私には誰もいないから…せめて神様だけは、私を見てくれる…そう信じていたのに…。

 見ていてくれたのに…

「1人は…もう…いや…」

 弱い私は…もうダメなんだ。

「寂しいよ…誰か…誰か…見てよ…私を…!」

 それでも私は波を産む。

 波を吐き出し、砂漠に波を産む。

 いずれ鳥が飛び、魚が泳ぎ、黄色の花が波打つと信じ、吐き出し続ける。

 乾いた私から生まれた波を嘲笑う砂達にたった一人で膝を折り、祈りも忘れて、ただ波を吐き続ける。

「ならば―」

 乾いた砂漠に影が堕ちた。

 邪悪な影でも、その足元に何かが生まれる。

 小さな白い花が影日向に咲いていた。

 小さな白い花には小さな水滴が付いている。その花から一匹の蜜蜂が顔を出した。

 蜂は暑さでマトモに動けないのか、それでも必死に体を動かしている。

 この砂漠に他に花があると…そう信じているように。

 帰るべき巣箱を、養うべき命がまだあると信じているように。

 影によりなんとか保っている…。

 そこに光が差す。

 影が奪われ、花と蜜蜂は死の光に晒される。

 花の水分は乾いていく。蜜蜂は暑さによりさらに弱り、羽も碌に動かせないのか、もがいていた。

 それでも―

 花は空を見上げ、祈りを。

 蜜蜂は自分の体を震わせ命あるモノの意志を。

 ただ二つの命はそれらを示していた。

 生きることを―諦めない。

「ああああああぁぁぁぁぁ!」

 気付けば叫んでいた。

 体を起こし、血を流しても私は花に縋りつき、体を折り曲げ強すぎる光から二つの命を庇うように影を作る。

 強すぎる光が私の背中を灼く。

 炎のような熱が私を燃やし、私の灰まで侵していく。

 声は出ない―出すべき声もない。

 それでも灰となっても、塵となっても、私は。

「助…けて」

 そう祈りと共に、二つの命の為に影を作る。

 私が燃え尽きたら…大地の一粒となったら、一握の灰となったら、風に乗る塵となったら、この子達は消えてしまう。

「その役目は死神でも、良いかな?」

 声が頭の中に響く。

 あの男性の声。

 私は這いつくばりながら、影を絶やさぬように…ただ燃え尽きるまでの時間に。

「この子達を…助けて下さい…」

 祈りではない。堕落を口に出す。

 それと分かっても、私は…穢れ切った私には、もう辿り着くべき天国などないから。

 それでも、温情で…矮小な私への無関心により辿り着けるかもしれない天国を捨ててでも、私は堕ちることを選んだ。

「お願いします…お願いします…この子達は…何も悪くないんです…悪いのは、罪人は私だけなんです…この世界にいちゃいけないのは私なんです…私だけなんです!神様を恨んだ…私が悪いんです…私が…悪いんです…」

 私は狂ったように吐く。

 元から狂ってる私だから…もう狂うことなんてないのに、それでも狂うしか出来なかった。

「何も求めません…何も欲しがりません…何も…何も…だから…お願いします。この子達は悪くないんです!」

 私は前も向けず、ただ消え行きそうな二つの命に影を作り続ける。

 熱風が二つの命をさらす。

 それだけで消え入りそうな二つの命を、風から守る為に体を小さく折り畳み、頭を地面に擦り付ける。

「日を摘みなさい…」

 男性の声と共に、熱風が勢いを増す。

 灰と肺を焼く程の炎に私の体が崩れて行く。

「毎日、生きるしかないのだ」

 さらなる寂しい声と共に、炎が私の足を焼き始めた。

「整然と正しく、正義だけが…世界を包む…なんて上手くはいかん。そうはならない。いや、なってならぬのだ。」

 男性の声に答えるように、黒い影が伸び私の足を掴み、腕を掴み、喉を締めあげる。

 私に諦めさせようと、本音を見せようと私を導こうとする。

「暗い悲しみも、燃える怒りも、冷たい涙も、光の喜びも、全てを失う虚しさも…全てがこの世界を包む、なくてはならぬ物だ」

 男性の声と共に私は足が腕が引かれ、ゆっくりと胸が地面へと近づいていく。

「だから、死も、無力感も、虚無も、喪失も…全てがなくてはならぬのだ」

 声が周りから響いて来る。

―あいつ臭くね?


―変な奴


―おもしろくない


―きっしょ


―あいつの親、狂ってるらしいぜ


 聞きなれた声だった。

 でも、いつも私を守ってくれていたはずの耳鳴りが消えて行く。

 私を諦めたように、守ってくれていた耳鳴りが消えて行く。


―あの子もおかしいもんね


 その声で息が止まる。

 それだけは聞きたくなかった。認めたくなかった。

「だから、その子たちは死ぬべきなのだ」

 私の首が下がる。

 二つの命が見える。

 枯れかけてしおれた花と、立つことも出来ず空を仰いで倒れている蜜蜂。

 もう助からない…。

 奇跡なんて起こらない。

 私は手と足に…力を込め、さらに小さく体を折りたたむ。

 枯れた涙を…守るべき二つの命に落し、

「…嫌です…嫌です!私は…私は…!私はそんなの嫌です!私だけで…どうか御赦しを…慈悲を…どうか…どうか!」

 叫ぶ。祈りでも堕落でもない。ただの叫び。

 それしか出来なかった。

 人の身では明日など分からず、全てが虚しい。

 それでも、私は…この罪なき子達には生きていて欲しい。生きていていいのだと伝えたい。

「通じたぞ」

 そう声が落ちた。

 気付くと影が消え、熱風も、声も…全てが病んでいた。

 耳鳴りも…何もない。

 ただ、透明な世界が広がっていた。

 何もない世界に私と小さな命達と、男性だけが立っていた。

 男性は荘厳だけどどこか優しさのある神父の顔をしていた。

 男性はゆっくりと屈んで右手を差し伸べて来る。

「君の欲しかったのは…これではないのか?」

 ―私の魂は、あなたに縋り。あなたの右の手は、私を支えてくださいます

 私は声と共に、冒涜をする。

 なんて酷い…私は魔女だ。

 それでも、私は求めた手を、差し出された手を受け入れるしか出来なかった。

「よかろう」と男性は頷き、私の手を受け取ると小さく十字を切った。

 それに応えるように、空が灰色に染まり雨が降り始めた。

 降った雨は透明な大地に吸い込まれ、海を作り、波を産む。

 それらが、大地を隆起させ草花が生まれて行く。

 空が青く染まる。

 風が優しく流れ、鳥が歌い、獣が走る。

 二つの小さな命はそれらに溶け込んでいき、仲間達と共に青く澄む空の下、優しい白い光を見上げる。

 私はいつの間にかへたり込んでいた。

 動くことも出来ずただ…空と海と大地と…命を見つめていた。

「…きれい」

 言葉を溢し、涙を溢し、感情を溢して…ただ、美しい何処にでもある世界を見ていた。

 男性は身を翻し、「…現へと帰るがよい」と少しつまらなさそうに呟いた。

 私はその言葉に気付き、男性がここから去っていくことを理解してしまう。

「いや…だ…私を…1人…しないで…」

 咄嗟だった。

 口に出すべきではない言葉だった。それでも、私の心は正直で、私の弱さは正直だった。

 男性は私の言葉に応える。

 恥ずべき答えなのに、応えて振り返ってくれた。

「そうだ…それでいい」

 男性はそう答えながら両手を広げ。

 彼の後ろが…彼の背中から先が闇に飲まれていく。

 赤い血が舞う。人々の悲鳴と狂喜と怨嗟が形となる。罪なき命を狂気の笑顔で奪う黒い影。魚の頭をした角を持つ有翼の怪物が舌をのぞかせる。笑顔でナイフを隠す影。仮面を付けた化物。

 そういった”人達”が彼の背中の先に控えていた。

「ここは果ての果て―善良で敬虔なる者達は通さない。救いを求める者も通さない。決まり…終わった…戻れぬ者は…通す。」

 男性は私を見つめ、手を広げたまま、ゆっくりとその世界に後ずさりで進む。

「ここから先は立入禁止だ。君”達”は通れないよ」

 その声と共に世界は白く光り消えて行く。

 混ざりあう。それでも、彼から先へは壁が生まれている。

 命を通さぬように。

 その小さな体で、出来る限り通さぬように彼は”底”に立っていた。

 目の前が反転する―

 何かが遠くに見える…


 光を放つ光源と、四角い鉄の箱。

 ―電車?

 そう気付いた時には私は宙に浮いていた。

 見えるのは赤さびたレールと腐った枕木。

 電車が近づいて来る。

 天使じゃない私には翼は無く、地面に堕ちるしかない。

「死…た……い…」

 望みを口に出す。

 ずっと願っていた望みを…いつまでも変わらなかった、本心をただ口に出す。

「死にた……い…」

 病気が分かって…もうどうしようもないと分かって…祈るしかなくて…

「死にた…ない…」

 痛くて、怖くて、辛くて…それでも…。

「死にたくない!生きたい!幸せになりたい!」

 私はこの世界で生きていたい―

 繋がれた体。動けない体。迷惑ばかりかけて、出来損ないで、どうしようもなくて、救われるはずもない私でも…。

「この世界が好きなの!だから…生きたい!」

「ようやくか。聞き届けた―」

 男性の声と共に私の体は引っ張られる。

 私のすぐ目の前を電車が通り過ぎる。

 ブレーキも、減速もせず、ただやるべきことを成すために通り過ぎる。

 黄色の海の先へと、真っ直ぐにレールに乗って進んでいく。

 きさらぎへと続く線路をただ進んでいく。

 手を引かれた私は、駅のホームへと降り立つ。

 顔を上げると、優しい…どこまでも優しい慈愛に満ちた悪魔の顔があった。

 しわくちゃの顔。白髪ばかりが目立つ短い髪。

 神父を思わせる、礼服のような物の上に。黒のオーバーロングコート。

 胸には鍵の形をした銀の笛を提げていた。

 男性は私を立たせると、静かに目を閉じた。

「君は善良で敬虔な…美しい心の持ち主だ。だが、ガラスの如く、弱く、透き通り、曇りやすい。何故ならガラスは固形を保つだけの水なのだからな。」

 男性はそういうと、首に提げた銀の笛を外し、私へと掛けた。

「私はカラスで、君はガラス。グラスとクロウは別だが、レイヴンなればレイバンとは通ずるだろうな」

 男性は小さく息を吐くと「忘れてくれd2)-hだ」と言葉にならない何かを呟いた。

 男性をただ見つめていると彼は寂しそうに肩を竦め、自分の胸にあった笛を握るように胸の前に手を置き。

「悪魔は―神を嫌う。神は人を愛し、人を高潔であろうと無理をさせ、人の死をも厭わないからだ」

「―悪魔は人を愛している。堕落させ、貶めても、ただ、人に生きていて欲しいからだ」

「神も悪魔も―人にはあるべきなのだ。この美しい世界には必要なのだ。純粋な命だけでは足りないのだ」

 男性は祈るようにその聞き覚えの無い三節を口に出す。

 歌うように男性は言い終わると、私へと向き直る。

「神のみに愛され、神のみを愛した聖女よ」

 男性は私を真っ直ぐに見つめ、堕落させようと優しい笑みを浮かべる。

 そして、紳士がするように跪き私の右手を取り傅いた。

「願わくば、君の心に…私という…悪魔にも、居場所をくれないか?」

 彼の寂しそうな声と祈り…

 それは本当に彼が悪魔なのかすら分からなくなる。

 私は…頷いて応えた。

 あと…数年…たったそれだけの間でも…一緒にいてくれるのなら…。

 私の答えに男性はゆっくりと瞳を閉じ、涙を溢した。

 嬉しさと悲しみが混じった、命のような透き通った…綺麗な涙だった。

「―あぁ…人は…美しいな」

 男性はそう溢すと、私を静かに抱き留めた。

 冷たいひんやりとした、闇のようで影のような、魚のような冷たさが私の体を包む。

 彼のコートからはお日様と、お月様の香りがし、彼の心音からは鳥の羽ばたき、虫のさざめき、水の流れ、風の音がする。

 優しい彼の者の手が私の頭を撫でる。

―子供なのだ。たまには我がままを言いなさい

 私に怒るように。

―人なのだ。耐えられぬ不義に怒りなさい

 私に悲しむように。

―小さいのだ。泣いてもいいんだよ

 私に笑顔を見せるように。

―君も、笑っていいんだよ


 誰もが幸せになってもいいんだよ


 楽しむように―彼の者達はそう言ってくれた。

「世界は美しいのだから…信仰の形ではなく、正しく生きた君をきっと愛するだろう。きっと、君の手を取り、助けてくれる。そう信じなさい」

 男性が私にそう告げ、私を胸から離した。

 男性を顔を見上げると、彼は楽しそうに、悲しんで、怒って、笑っていた。

 彼は【混沌】だと、私はようやく分かった。

「―悪魔だって、手を差し伸べるのだ。君が愛する神ならば当然、君を救うだろう」

 【混沌】は続けて、諭すように優しく、厳しく言葉を紡ぐ。

「君は…君たちは…人間達も…あらゆる命は…美しいのだ」

 私に…助からないと分かってる私に…それでも言い聞かせて来る。

 助からない私に生きろと矛盾した言葉続ける。

「空っぽで…この先に続く未来はどうなるか等分からぬのだ。王であれ、天才であれ何人であれど…この先は分からぬ虚無なのだ。なれば、生きるしかないのだ。生きて道を作るしかないのだよ」

 言葉がノイズになり、溢れ重なり、蠢き、私を救おうと手を伸ばしてくる。

「だから死を思いなさい…いずれ訪れる死を思う事で今を大切に生きなさい」

 ノイズが晴れていく。

「そして、日を摘みなさい。毎日をただ、転がるようにでも大切に生きなさい」

 溢れ重なった言葉の蠢きが消えて行く。

 彼が消えて行く。

 銀の鍵を失った彼は、ただそうあるべきところへ還るのだと…私は理解してしまう。

「君の虚無の夜は終わった…だから」

 消え行く言葉と、消え行く彼。私は自分から彼の右の手を取る。

 彼はゆっくりと微笑みを浮かべ、私が取った手を優しく握り返してくれた。



「おはよう―朝だよ」



 …消えて行く。

 消えて行く。

 消えて行く。

 私の命が…消えて行く…。

 それでも…私は重たい眼を開ける。

 見覚えしかない天井。

 白い清潔で、生気の感じない天井。

 私の周りはいつものように管ばかりで、電子音が鳴り続けている。

 体は動かない。

 目は何とか動くけれど、それで見えるのは壁のところに掛けてある、私の大切なランドセル。机に置かれた聖書。いつも首から提げていた十字架。

 手に…何かある…。

 それを握ることは出来ても感覚が遠い。

 でも、その冷たさで分かる…銀の鍵があることが。

 だから、気付かなきゃいけない。 

 言わなきゃいけない…。

 呼吸器が曇る…その所為でちゃんと見えない。それでも。

「お…あ…さん…私……」

 私が呟いた言葉を聞いてくれた。

 私のもっとも愛する人達。二人の顔も分からない。

 聞こえる。

 聞こえてる。

―君にも手を差し伸べてくれる者はきっといる。だから、信じなさい

―例え、君がその背嚢を降ろす時に死すとしても、今を大切に生きなさい

―君たちは美しいのだから

 生まれた時から病気で…どうしようもなくて、機械を付けてでも学校に行ってた。

 最後まで普通に生きていたかった…。

 救われると奇跡を信じていたから。

 なのに…

 

―違う。


 刺していたのは自分だったから。

―あいつ臭くね?

 機械を付けている私にそういった男子を…叱ってくれた友達がいた。

―変な奴

 そういった男子だったけど、それは私がホタテが形が嫌いで食べれなくて、美味しいのにと教えてくれただけだったのに…

―おもしろくない

 一緒に遊ぼう…そう誘ってくれただけなのに…断ったから言われただけ。

―きっしょ

 私は虫が好きだから…虫を素手で捕まえたのに驚いた男子が言っただけなのに…

―あいつの親、狂ってるらしいぜ

 私が勝手に悩んで、お母さんが勘違いして虐めにあってると思って…先生に怒鳴り込んだだけなのに…。

―あの子もおかしいもんね

 私が…勝手に書き換えた…。本当の罪…。だから目を逸らしていた。

 あの子…様子がおかしくない?

 そういえば、ちょっとおかしいもんね。先生に言ってくるね。

 そうやって、ただ、私の機械の不調に気付いてくれただけなのに…優しい人達だったのに…

 どうしてなんて分かってる…。

 自分が死ぬから…不幸だから…こんなに不幸なんだから、奇跡を起こして欲しくて…勝手に恨んでいただけだから…。

 可哀そうだと思いたくて、思って欲しくて…私は皆を傷づけた。

 それでも…こんな、救われない、救われてはいけない魔女だとしても…。

 悪魔に魂を売った…堕落した者でも…

 最後の救いが欲しい―

 幸せになっていいのなら…救われたい。

 だから、前に進まなきゃいけないのに。

 …我儘を…言わなきゃいけないのに…。

 声が出ない。涙も出ない。乾いて、乾き切っている。

 諦めたい。痛みだけが伝わる。

 それなのに、銀の鍵がまだ私に痛みと熱を与えて来る。

 ありもしない…銀の鍵が、諦めるなと私を導こうとする。

 それでも、私は…何も出来ない。呻くことも、もう出来ない。

―最期に…奇跡を下さい。

 私は銀の鍵に祈るしか出来なかった。

【私の魂は、あなたに縋り。あなたの右の手は、私を支えてくださいます】

 私の祈りに…声が響いた。彼の者達の声が。

 手が…熱い。

 頭は動かない…何が起こってるのかは見えない。

 でも。分かる。

―言わなくても、分かってるんだ。

 奇跡なんて…なくても、分かってくれるんだ。

 じゃあ…もういいんだ。

 そうと分かったら、私は最期の言葉を振り絞れた。

「あり…がとう」

 声を振り絞り、最期に伝える。

 それと同時に電子音が強くなり、一緒に眠たくなり、暗闇が降りてきた。

 誰かが慌ててる。暑さも、冷たさも、痛みもない。

 でも…温かさだけはある。

 伝わってる。

 温もりは…伝わっているよ。

 繋がれた右手の温もり…二人の手の温もりはしっかりと私に届いているから。

 お父さん、お母さん…ありがとう。


 





 眼に光が当たる。

 白い光じゃない。青い優しい光が目を打つ。

 瞳を開けると、窓の外に大きな青い月光が輝いていた。

 真っ白の、何もない部屋を照らす青い月の光。

 機械もついていない体は軽い。足がふわりと浮く。

 私は真っ白のワンピースのような服を纏い、私はゆっくりと窓辺へと歩く。

 窓を開けると、風が吹き抜け私のワンピースのような服を揺らす。

 青白い月光が、病院の壁を、学校を、街を、私の家を照らしている。

 木々は生き生きと空に向かって伸び、鳥が光を浴びて歌い、虫たちは忙しそうに飛び回り命を繋ぐ。

 人々は楽しそうに希望を胸に抱き歩く人、少し物鬱気でも頑張ろうと前へと進む人、失敗して落ち込んでいても歯を食いしばって進んでいく人…

 色んな人達が未来を信じて歩いている。 

―あぁ…キレイ。

 声を出そうとしたけれど上手く出せない。

 それでも、私はその美しい世界を見ていた。

 青き月光が照らす、美しい世界を。

 もう、鼓動なんてないのに、胸が高鳴る。熱さなんてないのに、胸が高揚する。

 居場所のない私でも、それでも私はこの世界が好きだと分かる。

 机の上にあった銀の鍵を手に取り、私は病室を後にした。


―この世界は美しいから。


―私にも手を差し伸べたい人達がいるから。


―ありがとう








これにて、読み手は終わり。あとは蛇足の踏みにじり。

触れてなかれとの忠言を先に言わせて貰いつつも、続きがあれば終わりを見たいが人の業。

考え考察するが人の愚かさ。

故に空の空。一切は空であると分かっても、考えてしまう。


 つまり、これは、単なるこの寂れた町に伝わるただの噂に過ぎない。

 白い少女の噂話なる物は、元より困った人に…泣いている人達の前に現れ、手を差し伸べるだけのもの。

 そういっただけの、壊れた少女の噂話。

 この世ならざる者であろう無口な…壊れた少女の噂話。

 きっと、真贋など無意味で、その本質にも尾ひれも羽ひれもついて、魚の頭と牛の角が付き、火まで吹くほどに脚色され、テクスチャによって書き換えられ、真実かどうかなど分からない…。

 そして、なんともつまらない怪談だ。

 怪談というには、恨みもなく、ただの拙い、面白味もない物語。怪談というには、なれぬし、なり損ない。

 少女が少女であるが故に―

 その性質が性質であるが故に―

 恨みでは語られず、怖さも足されず、悲しみだけを添加され、美しく盛り付けられ彩られた―

 怪談にすらなり切れない半端なごみ

 アスファルトに咲く小さな白き花のような無価値な物。

 3文以下のくっだらない小噺。噂話でありましょう。

 クソ以下のゴミで、カスで、どうしようもない…くっだらない小噺以下。

 それでも、この噂を作った者達の優しさで出来ているとは存じます。

 せめて涙が彼女の慰めになれば、自分の優しい心への慰めになれば、と。

 そういった、血と涙しかない…くだらない噂話だ。

 怪談には血も涙もないが、画面の外では流行ると言うのに、流行りを知らぬは愚かでしょう。


 あぁ…本当にくだらない。

 夏なんだから、肝を冷やさないといけないのに。


 くだらない…。

 肝を冷やさず、頭を冷やせと書き手を叱るべきでしょう。それか、地球を寒冷化させる方がいい!


 …本当に…くだらない。

 書き手の脳を危ぶむべきでしょう。考えた頭の中にはきっとメロンパンでも入っているのでしょう!


 …これはそんな…くだらない…ただの噂話。

 そこに、壊れた少女がいるだけ。

 それにてお終い。嗚呼、不気味。それでよい。それでよいのに。

 考えてしまうのが人の業。

 良きものを…優しくあろうとする、慰めようとする、踏みにじってでも、蛇足でも彼女に救いを与えんとするのが、人の愚かさだ。

 これにて、語り手も終わりとし、お目を汚し、時間泥棒、誠に恐縮の限りでございます。


―そう、黒き男は騙り、今日も心を壊した少女達に中身のないジョークをする。

 それが救いとなれば、そう信じて。

 語り合うことで救われるのであれば、自分の切符はいらないだろう―

 そう信じて、今日も壊れた語れぬ少女と町を歩き、共に語る。騙る。語り合う。

 やがて、訪れるであろう最終話を信じて。

 書きながらホラーじゃないような気がしてきたのですが…う~ん…。

 まぁ、お化けは出ますし、ね?

 お化けが出るなら…コメディーでもいいような気もしますが、一応ホラーです。

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