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エーリへの啓示。


「……教えてくれ、アズライア」


 エーリは、しばらく迷った後にそう呟いた。


「兄上は何を思い、あんな行動をしたのか……何を思って動き、父上を殺害したのか。私はそれを知る義務がある」


 アズライアは、彼の言葉に目を細めた。


 エーリは昔から聡い。

 デュロ程ではなくとも、十分に王の器を備えた者なのだ。


 『高貴なる者の義務ノブレス・オブリージュ』の精神を今もなお持ち合わせていることが、その言葉一つで分かる。


「何処から話そうかしら。……そうね、可能なら〝弐號(ツヴァイ)〟を、この場に持ってきて貰える? 幾つか記録してある情報が……デュロに預けられた資料があるの」

「要求としては過大だな」

「あら、この首輪があれば、わたくしは〝弐號(ツヴァイ)〟を起動出来ないでしょう? 何か警戒する必要がありまして?」

「……君や兄上に、どれだけ手こずったと思っている? ましてあれを作ったのは兄上だろう。どんな仕掛けが施されているか分かったものではない」


 思った以上に警戒されているようだ。

 当然と言えば当然なのだけれど、そうなると最初から話した方が良いのだろう、とアズライアは判断した。


「当然覚えていると思うけれど、何故デュロが9年前に特異魔導研究組織を設立したのかは、知っているでしょう?」

「ああ。【獄門デスペラティオ】と、そこからもたらされた魔導書を研究する為だろう」

「ええ。では、何故あれ程性急に【騎甲殻(マギア)】を実用化したか、その理由は?」

「……亜人国に対抗する為、ではないな。各国が立ったのは、兄上が【獄門】を研究していることが『魔獣化現象カデュート)』が頻発し始めた理由である、とされたことだったからな」

「そう。それまで諍いはあっても、亜人国が連合を組んで人族域に攻め入るような情勢ではなかったわ」


 大陸は、『教導特騎軍(ウェルギリウス)』設立に至るまでの間は、それなりに均衡を保っていた。


 勢力は大きく五つ。


 大陸南部を支配する、皇国を中心とした人族国家。

 大陸東部の大樹林を拠点とする長耳亜人(エルフ)国を中心とした森林亜人国家群。

 大陸北部の鉱山を含む山脈を支配する土中亜人(ドワーフ)国を中心とした山岳亜人国家群。

 大陸西部の平原を支配する猪頭亜人(オーク)国を中心とした熱帯亜人国家群。

 そして西部大海洋を支配する魚人(マーマン)人魚(マーメイド)を中心とした海洋勢力である。

 

 他には、極東に存在する竜頭亜人(ドラゴニュート)族国家などの少数勢力、あるいは単一民族による大規模支配圏を持たない、一角亜人(グレムリン)族や南西の高山に生息する有翼亜人(ハルピュイア)族が存在していた。


 現在は大きく勢力が動いているが、それなりに棲み分けていたのである。

 デュロが行動を始めるまでは。


「彼が動いた真の理由が『亡者(モルティ)』なのよ」

「それは一体何なんだ? 真の敵、と先ほど言っていたな」

「ええ。『亡者(モルティ)』は人族や亜人同様の知性を持ち、それを遥かに超える魔導技術を持つ者たちよ。……【獄門】の向こうから現れる脅威。デュロが見据えていたのは、彼らの侵攻によってこの世界が滅亡する危険だったのよ」


 その対抗手段として作られたのが【騎甲殻(マギア)】や【飛空獣艦(カロン)】、そしてデュロが到達点として目指した〝一號(ジ・アインス)〟と〝Ieヌル〟だったのだ。


「……人族や亜人よりも力を持っている存在がいる、ということか?」

「何もおかしな話ではないでしょう? そうでないなら、今この世に存在する【騎甲殻(マギア)】等の製造方法を記した魔導書は、どこの誰からもたらされたものなのか、答えを出せまして?」

「君の話を聞く限り違うようだが、私は元々【獄門】を古代文明の遺跡か何かだと思っていた。それが地震によって露出したのではないかと」

「つまり大昔にも、【騎甲殻(マギア)】が存在していたと?」

「それも、おかしな話ではないだろう? 私は兄上が立った後、各国を巡り伝承を聞いた。(いかずち)を操る槌や現在は滅亡したとされる巨人(ギガント)、空を飛ぶ船や天に届く知恵の塔(バベル)の伝説……そうした全てが、あるいは【騎甲殻(マギア)】や【飛空獣艦(カロン)】であったとしてもおかしくはない」


 アズライアは、彼なりの推測に思わずふふ、と笑いを漏らしてしまう。


「何がおかしい?」

「いいえ、貴方はやっぱり、デュロの弟だわ。貴方の推測は半分正解で半分間違っているのよ」


 エーリが眉を上げるのに、小さく首を傾げてみせる。


「古代に【騎甲殻(マギア)】が存在していたかも、という推測は、デュロと同じ……半分の正解はその点ね。一角亜人(グレムリン)族の教授陣が詳しいから、聞いてみると良いわ。けれど『亡者(モルティ)』は確実に存在するのよ。それが、半分間違いの部分」

「確信がありそうな口調だな」

「ええ。〝弐號(ツヴァイ)〟に記録されているのは、正にその点に関する資料なのよ」


 アズライアはデュロとの対話を思い出しながら、エーリに彼が知らないのだろう情報を告げる。


「デュロは、数年前に『亡者(モルティ)』に接触しているのよ。『魔獣化現象カデュート)』の増大とそれに伴う『魔獣大侵攻(フーガ)』の発生は、彼らが現れたことの証左なの」


 きっと亜人族の王らは、エーリを良いように利用する為に、まだその事実を秘匿しておきたかったのだろうけれど、こちらには関係ないのだ。


「こちらも、おかしいと思ったことはない? 人より長命であったり頑健な肉体を持っていたり多産であったりする亜人らが、何故『亜人』と呼ばれるのか。何故デュロが【獄門】を封じる方法を知っていたのか。あれ程短時間で〝一號(ジ・アインス)〟と対になる〝Ieヌル〟を作り出せ、片方を貴方に渡したのか。全ては繋がっているのよ」


 アズライアは、その情報の核心に触れる。


「ーーー亜人も【騎甲殻(マギア)】も、太古に現れた『亡者(モルティ)』を退ける為に作り出された兵器(・・)なのよ」

 


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