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「こっちだ」

「………………」

 片側だけ開けられた扉から一歩入ると、光沢を放つ石の床に出迎えられた。光を差し込む窓も、遠くまでの景色がクリアに見える。

「まず手を洗ってくれ」  

「えっ」

 酷く不機嫌そうな声。ハッとして急いで魔王の後をついて行く。

「何これ……」

 城よりも清潔感のある手洗い場!

 鏡も全然曇っていないし、水垢も無い。手洗いの淵も水が一滴も残っていない。

 どんだけ綺麗なの!?

 

 ガチャン!!


「え、何の音」

 すると瞬く間に蛇口から水が流れてきた。

「えっえっえっ、どうやって出てきたの!?」

 だって水を出すハンドルとか無いわよ!?

「足、ペダル式にしてある」

 彼の足元を見ると、手洗い場に足ひとつ分ぐらいの窪みがあって、銀色のペダルがあった。足でペダルを踏み込むと水が出るしくみっぽい。

「すごーい!」

「細菌が付着した手でハンドルを握って手を洗っても、ハンドルに付いた細菌が残ってしまう。ここは城内で最も清潔に保つべき場所だからな」

 ……………………ん?

「ほら、さっさと洗って」

「わかったわよ」

 彼が足で押さえて水を出してくれてる間に手を濡らし、石鹸を両手で擦らせてて泡立たせ、手の全体を泡で撫でたら水で泡を落として………

「短過ぎる! 30秒以上やれ!」

「ええっ!?」

「いいか、手洗いってのはこうやるんだ!」

 短いって何よ! これでもいつもより若干丁寧に洗ったわよ!

 突然、背後に立たれて両手をぎゅっと大きな手で包まれると、

「まずは水で汚れや細菌を表面に出す! 泡を立てたら、両手の指の間、爪、皺の間、手首、入念に洗う!」

 なんか、なんか、なんか、手の平で爪立てたりめちゃくちゃ激しい手洗いなんですけど!? ある意味後ろから手を握られてるっていうシチュエーションなのに、ぜんっぜんときめかない!!!

「で、水で洗い落とす。これで30秒は経っている。これくらい時間をかけないと手の表面に細菌が浮いて来ないから洗い落とせないんだ」

 ペダルを踏み込んでくれ、水で泡を洗い流した。

「魔王なのに潔癖症!?」

 思わず振り返ると魔王の顔がすぐ近くに!?

 観賞用だと思えば色男だし、睫毛も長くて綺麗に整っているし、あまり近くで見ると心臓に良くないかも…。

「病気みたいな言い方をしないでくれ。綺麗好きだと言って欲しい」

 呆れたような言い方をするとさらに手までタオルで拭いてくれた。

 っていうか、

「何このタオル。すっごいふわっふわ!?」

 柔らかくて超気持ち良い! 思わず顔ですりすりしたくなっちゃうわ。

「試行を重ね続けて作った究極の柔軟剤で洗ってる」

 え、手作り柔軟剤? 魔王が?????

「君の部屋はこっちだ。案内する」

 城内の中央にある階段も大理石がピカピカ。ガラス窓も大きいのに全然汚れてないのがわかる、外の景色が綺麗に見えるもん。

 階段を沢山上がって、城の最上階。よくあるお伽噺なら、ぼろぼろで牢屋のような狭い部屋に閉じ込められるんだろうけれど。

「ここだ。好きに使っていい」

 なんすかこの最上階VIPルーム的なゴージャス感。

 大きなガラス張りの窓は海が眺められ、ベッドはキングサイズ、枕やクッションもシルクのカバーで肌触りが良さそうだし、窓辺には小さなテーブルと机も用意されていて、化粧台も完備。

 勿論、蜘蛛の巣はおろかホコリ1つさえ無さそう。

「あの、お手伝いさんというか、使用人は?」

「フッ、ここは魔王城だよ? いるわけないだろう」

「ってことは、お部屋の掃除ってあなたが一人でしているの!?」

「ああ、僕の城だからな」

 魔王ってこんなにも綺麗好きなものなの!?!? 手洗いといい、掃除といい。向こうは向こうで住んでるからには自分で掃除するのが当たり前だろ、とでも言わんばかりの威圧感だけど。

「………残念だったね。この城には自分を攫った魔王と君だけしかいない。泣き喚こうが勇者が来るまで君は囚われの身だよ、お姫様」

 突然、低い声色でどんと世中を押されて部屋に入れられた。

「命が惜しければ大人しくしていて。わかったか?」

「え、あなた別に私を殺す気なんて全然ないでしょ?」

「は…?」

 だって……

「想像してみてよ。綺麗好きなあなたがその手で私を殺めるの。刺せば返り血は浴びるし、首を絞めれば跡が一時的に手に残るわ。ね、綺麗好きには無理でしょ?」

「こっちは魔王だぞ!」

「ええ、綺麗好きのね。私、あなたの事怖いとか全然思っていないわ。むしろ素敵なお部屋を用意してくれてありがとう。いつでも海を眺望出来るなんて夢のようだわ!」

「な…………」

 窓に近付きそっと手を添える。海は一面大きな水溜りと言うよりは、何列もの横長の波の列が重なって動いている感じ。不思議、生き物みたい。

「私、マリー・コルチカム。あなたは?」

「…………ルカ・マオウ」

「マオウって本名だったの!?」

「…………これ以上無駄話はしない。僕は忙しいんだ」

「あ、待って!」

 ぶっきらぼうに去ってしまった。追いかけたいところだけど。

「ドレスじゃ流石に転ぶわね、裾長いし」

 化粧台も用意されてるってことは、どこかにアレもあるかも。囚われのお姫様が時間潰しに使うド定番のアレ。室内にあるクローゼットを開いてみよう。

「わぁ」

 着替えも完備されてる。ドレスだったり膝下丈のワンピースもある。

「………こういうの好きなのかな」

 襟元でリボンを結ぶ服が多いような気が。お、下がチェストになってる。ここ怪しいぞ。

「あったあった!」

 裁縫箱み〜つけた!


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