第一章4 『割とすぐバレる正体』
少し遅くなりました、すいません!!御託はここまで、さぁどうぞ!!
気づいたときには、勝太郎は一人で立ちすくんでいた。あたり一帯に濃い霧が立ち込めており、自分が今どこにいるのかさえも分からない。まさに五里霧中。
まぁ元より異世界召喚されている身なので、場所の把握はできても名称など知らない。特別取り上げてまで驚くほどのことではない。ここでも彼は妙に冷静だった。
「……あれからどうなったんだろ、『俺』。うおっ!? 一人称が戻ってる!? 髪長くねぇし、声高くないし、『エクスカリバー』も……あるッッ!! ってことは、男に戻れたってことか……。なんで俺があんな姿になったんだよ、俺がなんか悪いことしましたかってんだ」
相変わらずの独り言の多さで、孤独の寂しさは打ち消されているようだった。実際に高校でもこんな調子なので、友達の一人もできない。作る気もない。
「ふふっ。やっぱり面白い人だね、あなた」
ぶつくさ文句を垂れ流していると、どこからか声が聞こえてきた。透き通った、美しい少女の声だ。
「あ!! ああああああああっっ!! ……誰でしたっけ? えーとたしか、ファ、ファ……ファルコンみたいな名前の!!」
「ファルナ、だよ。『ファルナ・デュロークス』っていうの。初めまして、勝太郎」
「あーそうそう、それそれ!! で、なんで俺の名前知ってんの?」
濃霧の中から現れた美少女は、つい先ほど勝太郎が自分を映したつもりでいた鏡に映っていた人物と、どこも変わらなかった。見れば見るほど心が浄化されていくような美貌だ。
彼女が言うように、二人は初対面のはず。だのになぜか勝太郎の名前を知っている。
「それはね、私があなたをこの世界へと送り込んだ張本人だからだよ」
爽やかな笑顔。だがそれで相殺できるほどのものじゃない。爆弾発言もいいところだ。
「はあああああぁぁぁぁぁ!?!?!?!? お前、おま、お前ぇぇ!! ふっざけんなよ!! 来週までには元の世界に戻らないと、『ハイパーヒーロータイム』見逃しちゃうだろ!!!!」
スカッ……。
勝太郎の拳は身軽によけられ、空を切るのみだった。というかキレるポイントそこなんだね。
「いいじゃん。ご丁寧に毎週録画に設定してるんだから」
「そうだけども!! 異世界人にはわからんかもしれんけど、リアタイほどいいものはねぇんだよ!! SNSのみんなの反応見るのも楽しみの一つなんだ!! ……って、ちょっと待て。お前……なんで俺が毎週録画してること知ってんの……?」
あまりにもさらっと言われたのと、ぴょんぴょん跳ね回るファルナを追いかけるので精いっぱいだったため、違和感を見過ごしていた。
何度も確認するが、こんな美少女とは今までに会ったことがない。クラスメイトにも家に上がらせたことないのに、なぜ異世界出身の彼女が勝太郎の録画事情などを知っているのだろうか。
「なんでって、あなたのことをずっと見ていたからだよ。私の体を使うにふさわしい人間かどうか、見定めるために」
「うん、お尋ねしたいことは死ぬほどあるんだけどさ。……どこまで見てた、答えろ」
当たらない攻撃をやめた代わりに、声に凄みを聞かせて問い詰める。
「どこまでって……どこまでもだよ。そうだなぁ、『男の子の』はそんな風になってるんだとか、男の子は『そんな風』にする……」
「うおおおおおおおおおおおい!?!?!?!? ストップストップストップ!! てめぇ白髪女!! どこまで見てやがるんだこの野郎!?!?」
「だから、女の子とは『やり方』も全然ちがうんだなーって。あとは」
「やめろっつってんだよ教育に悪いんだよ口を慎めよあとちょっとは恥ずかしがれよなんで涼しい顔してド下ネタ言えるんだよおおおおおおぉぉぉぉぉ!!!!!!」
今世紀最大レベルの絶叫を浴びせると、少女は不思議そうな顔を浮かべて喋るのをやめてくれた。裏を返せばこうでもしなければ止まらないということだ。本当に危なかった、色々と。
肩で息をして、見るからに疲れている勝太郎を見るなり可愛らしく笑うのだから、また激怒しそうになる。だがファルナの笑顔はまさに『天使』そのもので、怒る気もどこかへ消え失せたようだった。
あぐらをかいて座ると、少女も礼儀正しく正座でちょこんと可愛らしく座った。口から出るワードは可愛いから程遠いものだが。
「落ち着いた?」」
「誰のせいで取り乱したと思ってるんだよ……。それで? なんで俺なんかを監視してたんだ? 自慢じゃあないけど、平凡すぎるほど平凡な男子高校生だぜ?」
「だって勝太郎、『変身』したいんでしょ? それなら私の体に変身させてあげようと思って。そっちのほうが、私の都合もいいし」
「……は? お前の都合? つかどうやって俺の体をお前の体にしたんだよ」
幾度となく続く質問の嵐に耐えかねたファルナは腕組をして後、何かを思いついたようで笑顔を浮かべて両手を勝太郎に突き出した。
「はい、勝太郎。私に触ってみてくれる?」
「お、おう……って、あれ? おいおいおい!! なんで……なんで透けて……っ!?」
掌を合わせるようにしてファルナの白い手に触れようとすると、あろうことか勝太郎の手はすりぬけてしまい、少女の美顔に近づいてしまうのだった。
何度も何度も彼女に触れようとするも、空気を裂く感触しか感じられない。彼女は確かに目の前でおとなしく座っているというのに、なぜ触れられないのだろうか?
「あははっ、びっくりした? 実は私ね、勝太郎の世界で数えると……十年前に死んじゃったの。だから勝太郎の体を介して、姿を外に現してたってこと。もっとも、私の意志では動けないけどね。憑依って言った方が、分かりやすいかな。一種の変身でしょ? これなら勝太郎も喜んでくれると思って……」
「ちっっっっっっっっっっっっがああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああうううううううううう!!!!!!!!!!!!」
ついに我慢できなくなって、またもや大絶叫をぶちかます。得意げに変身のメカニズムについて解説していたファルナも背筋をピンと伸ばし、目を皿のようにして驚いていた。
「え、なに……? 違う……?」
苦笑いしているファルナをガンスル―して、鬼の形相で意味不明に発狂し始めるのだった。
「てめえ俺を監視してたんならわかるだろ!! 普通わかるだろうがよ!! 俺が言ってる『変身』っていうのはなぁ!?!? ベルトを装着したりして変身ポーズ決めて!! よくわからん多色発光する光に包まれて!! スーツなりアーマーなりがなんかこうシャキン、シャキン、ガシャン、ガシャアアアアンつって装着されてくようなことを言ってるんだよ!!!! 何をどう勘違いしたら『女装』したいって願望と間違えるんだよ!?!?!?!? 俺にそんな趣味はねぇ!!!!!!」
「えー? でも勝太郎、たまに『えーぶい』とかいうやつで……」
「だ・か・ら!!!! 少しは自重しろっつってんだよクソビッチがあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!」
十年前に死没したと言っていたので、おそらく精神年齢は低いのだろう。何度叱られようが、子供っぽい笑顔で笑っている。本当に精神がすり減るのでやめていただきたい。
カーラが言っていたように、彼女は一応『お姫様』なのだから、もう少し常識というものを兼ね備えているものだと思っていた。
ぜぇぜぇ息を切らし顔を青ざめさせる勝太郎をよそに、ファルナは何かを察知したようで、立ち上がって真上を指さした。
「勝太郎。ここでいったんお別れになるかも。あなたのお友達が、ほっぺたをつついてるよ」
「友達って……まさかカーラか? あの距離を追いかけてくるなんてやるなアイツ……。でも考えてみれば毎日のようにレッガルまで客寄せに来てるんだから、そこまで特別なことじゃないのか」
ファルナが細い指で指さした鈍色の空を見上げ、異世界召喚されてから初めてできた友人の顔を覆い浮かべる。
しかしよかった、カーラは生きていたのだ。あの時は、自分の姿がありえないことになっていたので素直に喜べなかったが、今となっては彼女の命を救えてよかったと、誇らしくなるのだった。
ただ、それを見ていた美少女の顔は、らしくない曇った顔をしていた。勝太郎は上を向いていたため彼女の表情の変化に気づけなかったが、今はそちらの方が都合がいい。
「それじゃあね、勝太郎。あ、そうだ。私の姿になったことは、誰にも言わないこと!! 私との約束だよ? 守ってくれる?」
「おうともさ。まぁ、思ってた『変身』とは違ったけど、みんなを救えるヒーローにはなれたんだし、それだけでもうれしいよ。ちゃんと約束は守るからな」
その言葉に彼女は安心したのか、天使のような笑顔を浮かべて、消えゆく勝太郎を見送るのだった。
「……タロー!! ショータロー!! ねぇ、ショータローってば!! 大丈夫!?」
「ん……? あぁ、カーラか……。わり、寝ちまってたみたいだ」
少女は、覗き込むようにして勝太郎の顔を心配そうに見つめる。彼は自然にまぶたを持ち上げると、自分がファルナに変身していたをごまかそうとした。
だが、勝太郎が言い終わるよりも早く、カーラは彼に迫り、問いただしてくる。
「あなた……今の今までファルナ姫の姿をしていたけど、一体全体どういうことなのっ!?」
絶望の味は、やはり口に合わない。一呼吸おいてから、
「……………………思いっきりバレてるじゃねぇかよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?!?!?!?!?!?!?!?」
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