第一章1 『もう見慣れた展開でしょ?』
サブタイトルから煽っていくスタイル。では、楽しんで~。
何が起きた何が起きた何が起きた何が起きた何が起きた何が起きた何が起きた何が起きた。
『何が起きた』と繰り返すだけで、そろそろ脳の容量オーバーで頭がパンクしそうになってくる。
「え、何これ? 何が起こったんでしょうか? あまりに非科学的すぎて、頭故障しちゃうぞ?」
冷静に自分の脳がおかしくなっていることを実況しながら一歩後退りし、中世ヨーロッパ風の建造物が立ち並ぶ街を見渡す。
日本の文化とは遠くかけ離れた服装の人々が闊歩している。その中には動物の頭を持った、いわゆる獣人もいて——
「じゅーじん!? なんですと!? ええと、『半魚人』に『蜥蜴人』に……うわすげぇ!! あれ本物かよぉ!!」
道のど真ん中でぴょんぴょん飛び跳ね、まるでゲームの世界のような情景に驚きを隠せない様子。その割にはどこか楽しそうだ。
勝太郎は日本のサブカルチャーにも詳しい。
ゆえにこういう展開は、彼の中でもはやお決まりになっている。
「ラノベとか漫画とかアニメとか、そういうものでしかあり得ないと思ってたけど……まさかこの俺がかの有名な異世界転せ……じゃなくてこれ、異世界召喚だよな?」
勝太郎は妙に冷静だった。
「さてさて~? 異世界に送り込まれた主人公が見慣れない中世ヨーロッパ風の街並みに驚く、っていうテンプレはこれくらいにしておいて、俺に与えられた『チートスキル』でも模索するとしますかぁ!!」
彼がこうして意気揚々と見知らぬ街を歩けるのには、既に確立された『お決まり』があるからだ。
——『お決まり』。つまりは『テンプレ』。異世界転生ならば、神の手違いで転生することになったからお詫びに神様からチートスキルが与えられる。
異世界召喚は、召喚された瞬間から当人に能力が付与されていることが事例の大多数を占めている。
創作の話だというのに、どこからその自信が湧いてくるのだろう?
もしや、彼がヒーローに憧れているからとかいう曖昧な根拠を持ってくるとは言わないだろうな。
「待ち受けているのはどんな展開だ~!? 美少女ヒロインが襲われてるところで能力が覚醒!! その力を使って勇者として魔王討伐の旅に出るとか、ハーレムものとかもありだなぁ!! 夢が膨らむなぁ!! わっくわくしちゃう!!」
バレエ未経験なくせしてあのステップの軽やかさは何だ。ヒーローになるために毎日欠かさず取り組んできたトレーニングが功を奏したのだろうか。飛び跳ねながら、見知らぬ大地を散歩しに行くのだった。
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「夕日が…………沁みるぜェ。泣きたくなるなぁ……。能力の一つも見つからないし発動しないしさぁ……。つかここどこだよぉ……」
自分が今いる現在地すら把握できないほど、彼が降り立った街は道が入り組んでいるようだった。ちなみに今は街の全貌を見渡せる、高台のような場所にいる。当然、名称も知らなければ街まで下りられる道すらわからない。
「あれ、おかしいな。俺が読んだり見たりしてきた作品はもっとこう……全人類の夢みたいなさ、華やかで楽しいものだと思ってたんだけど。どうしてこうなった? 泣くぞ? 主人公にこんなことしていいのか神様?」
こうなったのが自業自得なのは能天気な勝太郎でも理解できたが、自分がこの世界に召喚された意味が分からない。大体こういう展開って、召喚者が見つけに来てくれるか脳内に直接語りかける的なことで目的を説明してくれると思っていたのだ。
どうやらこの世界は元居た世界と同様に、『緋色 勝太郎』を拒絶するらしい。じゃあどこなら彼を受け入れてくれるのだろう。
「これじゃあヒーローどうこう言ってる場合じゃないぞ……。どこの世界でも『夜は危険』っていう共通認識があるだろうからな。特に異世界は何が起こるかわかったもんじゃない。……しかし、どうしたものかね? 俺このままじゃ野宿だぞ?」
おそらくこの国の王の物であると思しき巨城に、オレンジ色に輝く太陽が隠れていく。次第に辺りは暗闇に包まれ、夜の帳をかけていくことだろう。
見知らぬ大地で死ぬのだけは御免だ。死ぬならせめて、かき集めたコレクションの山に埋もれて死にたい。その一心で、何とか一夜を明かせる場所を探すのだった。
が、
「なぁぁぁんで一文無しなんだよ!! 普通ゲームとかだったら初期状態でも1000Gくらいは持ってるもんだろ!! 本格的にどこも泊まれねぇじゃねぇか!!!!」
こんなことなら「日本円を提示して、『そんな見たこともねぇ通貨は使えねぇよ!! 失せろ!!』と店員に言われるというテンプレ」がやりたかったと、よくわからない落ち込み方をするのだった。自分が今置かれている状況がいかほどの物なのか、理解できていないらしい。
「あなた……もしかして、泊まる場所に困ってるの?」
「……え? だ、誰っすか?」
みじめに四つん這いになって嘆いているところに、上から少女の声が降ってきた。
おもわず顔を上げて声の主を確認する。そこにはランタンを持って、赤ずきんのようにローブを羽織っているピンク髪の少女がいた。たぶん、『マッチ売りの少女』が現実にいたらこんな感じなんだろうなという服装とたたずまいだ。
「私はカーラ。カーラ・カーナードよ。街外れの『アイシ村』にある宿泊施設の娘で、いつもこの時間帯に『レッガル』まで客寄せをしに来るの。……もう一度聞くケド、あなた、泊まる場所に困ってる?」
──なるほど、この街はレッガルっていうのか。テンプレ通りの長々説明、感謝するぜ!!
カーラと名乗った少女は宿泊施設の娘といったが、こんなにも好都合な展開があっていいのだろうか。それと勝太郎を一目見て、泊まる場所に困窮していることが分かったということは、相当な「一文無しオーラ」がにじみ出ていたのだろうか。
実際にベルトやらフィギュアなどに有り金を費やしているのは事実だが。
「ねぇ、聞いてるの? 私も暇じゃないの。はっきりして頂戴」
「おっとっと、困ってます困ってます!! めっちゃ困ってるから!! ……でも、あいにく俺は、一文無しなんだよ。だから困りあぐねて、道端で土下座しかけてたってわけだ」
カーラは一瞬驚いたような表情を見せたが、すぐに穏やかな笑みを浮かべた。
「別に、いいわよ。うちのモットーはお客様にいい思いをしてもらうことだし。お父さんは特別に私が説得してあげる」
「え!? マジですか!? そりゃ助かりますわ~!! んじゃ、お言葉に甘えて……」
「うん。ついてきて。……別に怪しい商売とかじゃないから安心して。よく勘違いされるけど」
「親切心を向けてくれてる人にそんなことを思うやつがいるんだな」
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「いやぁ、ほんとに助かったよ。カーラ、だっけ。この御恩は一生忘れないぜ!!」
カーラにつれられるがままに入室した部屋は、決して狭すぎるなんてこともなく、最低限一夜を明かすには十分な設備がそろっていた。
親切な彼女に腹の虫が鳴ったところを聞かれたために用意された夕食とともに、彼女も入室する。
「これ食べていいからね。あ、食べ終わったらワゴンごと廊下に出してくれれば回収しに来るから気にしないで。それとお風呂はこっち、タオルは用意してあるから自由に使ってもらって構わないわ。窓は開けてもいいけど、寝る前には閉めてちょうだいね」
「りょーかい!! ヒーローたるもの、ルールはきっちり守るからな!!」
「面白い人ね、あなた。それじゃ、私はまだ仕事があるから戻るわね。ごゆっくり」
「おう、親切にありがとうな」
ピンク髪の少女を見送り、そろそろ空腹の限界が来そうなので用意された食事を食べ始める。日本でもなじみ深いパンと、ミネストローネっぽい豆のスープに、肉の香辛料炒め。
この世界での通貨の総称はわからないが、一円も払えない自分がこんな豪勢なものを無料で食べさせてもらっていることに若干の申し訳なさを覚えながらも、空腹を満たしていく。
その後は特にそれらしいイベントもなく、静かな夜がやってきた。勝太郎もベッドに入ると、疲れからかすぐに眠りについたようで、寝息を立て始めるのだった。
夜が来る、夜が来る。奴らが来る、奴らが来る。
『開幕』は、すぐそこだ……。
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