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異世界からの勇者召還に係る担当者会議 会議録

作者: よしよし

●特殊国防担当者会議録情報

 (音声の録音情報を自動筆記したもの)


【日時】

 王国歴3670年黒月2日中3時

【出席者】

 第二王子、防衛省長官、魔術省長官、法務省長官、医務部局長

【本日の会議に付した案件】

 異世界からの勇者召還

【会議録】

〇議長(防衛長官/国防担当)

これより会議を開催します。

開会に先立ちまして、現在の王国の状況について、皆様既知のこととは存じますが、改めて御説明申し上げます。

王国南西の海洋上に、突如として異形の建造物が表出、当該建造物に居住するとみられる魔王と自称する存在及びその配下が、我が国を含めた周辺の国家に対し、明確な敵対行為…侵略を行っています。

なお、我が国及び周辺諸外国については、国際的な平和を希求し、他国への侵略が可能となる程度の武力を恒久的に放棄したことにつきまして、皆様御存じのとおりです。

このような中、周辺諸外国と連携をしたところで、この新興勢力を退けることができない状況と考えられます。


〇第二王子(王族防衛担当)

待ってくれ、前回会議ではそこまでの絶望的な状況であるとは聞いていない。

それでは王国存亡の…この世界存亡の危機ではないか?


〇議長

然り。それにより、本日の議題でございます。

皆様お手元の資料を御確認ください。

異世界からの勇者召還でございます。

概要といたしまして、こちらとは異なる世界から、敵対者に匹敵する力を持つ者を召還し、これにより魔王を自称する者及びその一派を一掃しようとするものでございます。

資料に従い、御説明をいたします。

まず、召喚により見込まれる効果でございます。


〇法務長官(調整担当)

お待ちを。こちらは前例がないものになるので、資料に従い説明いただいたところで、理解できるものとは到底思えません。要点を御説明いただきたい。

当然の疑問として、我が国及び周辺諸外国が協同しても倒せない存在を、異世界…が本当にあるかも疑問ですが…まぁ、異世界からの一個の生命体を召還した程度で、対応ができるものですか?召還の技術も確立していると?


〇魔術長官(特殊国防担当)

では、わたくしのほうから御説明申し上げます。

まず、異世界についてですが、存在します。

わたくしが複数の異世界を観測いたしましたことにより、その存在を証明するものでございます。

こちらについては直接議題とは関わらないため、本会議終了後に御説明いたします。

召還の技術については、余剰魔力がないため、試行ができない状況ではございますが、私の全ての魔力と引き換えることで対応可能と考えます。


〇第二王子

あなたの全ての魔力と引き換えにするだって!?

考えられない。あなたは歴代最高の魔術師ではないか。

魔力量も最も多いと聞く。あなた個人が一個大隊に匹敵する戦力であるとも。

そうだ、あなたが前衛に立てば、この闖入者たちも一掃できるのではないか?


〇議長

試算では、周辺諸外国も合わせた全戦力の投入により、駆逐できる可能性はあります。しかし、敵は我々が確認した以上の戦力を有していると考えるべきでございます。

引き続き、魔術的見地からの御説明をお願いいたします。


〇魔術長官

はい。続きまして、異世界からの適正を持つ者を抽出して召還することについてにございます。

こちらは召還の術式に条件を組み込むことにより、特定の条件を満たす者の抽出が可能でございます。

なお、抽出の条件については資料の別表を御確認ください。


〇法務長官

なるほど…戦力的な条件と、人格的な条件により抽出すると。

これらの要件に合致する人材がいる異世界の数が…16?異世界とは、そんなにあるのですか。


〇魔術長官

はい。また、その異世界の数につきましては、現状わたくしが観測できた範囲での数値であるという旨を申し添えます。

しかしながら、空間を超越し召還を実行するにあたっての技術的な部分から、ある特定の異世界…便宜的にワールドAと名付けたこちらの世界のみが召還可能区域となっております。


〇法務長官

であれば…召還はある程度現実的な路線と見てよろしいですね。

万一儀式に失敗した場合でも、魔術長官の魔力はすべて無くなってしまうでしょうから…危惧としてはその部分が残りますが。


〇第二王子

当代の魔術長官が、魔術を用いた儀式に失敗したという話は聞いたことがない。

私は信頼してよいものと思う。


〇議長

では、本議題につきまして、これを実行してよろしいか、皆様にお諮りいたします。


〇医務部局長(救護担当)

あの…お待ちください。

技術的に可能だとして、人道的には如何でしょうか?

本案は、異世界からの人的な略取でございます。

また、当事者に対する誘拐及び従軍への強制でございます。


〇第二王子

確かにその部分は気がかりではあるが、召還したら状況を説明し、ことが終わったら帰還できるということで納得してもらうしかないだろう。


〇魔術長官

御説明は省略いたしましたが、資料にも記載のございます通り、召還者の送還はできません。

召還可能となる魔力保持者がわたくしのみであり、送還には召還と同等の魔力を必要とするためでございます。


〇医務部局長

それではなおさらのこと承認できません!


〇法務長官

お待ちいただきたい。

魔術長官、異世界からの召還者は、一人のみであるという理解でよろしいか?


〇魔術長官

はい。複数人の召還は、魔力的な問題から不可能でございます。


〇法務長官

それであれば、たった一人の召還と


〇医務部局長

たとえ一人でも、これは拉致です!到底承認できるものでは


〇法務長官

たった一人の命と、この世界の住民全ての命。

あなたはたった一人の命のほうが重いと


〇医務部局長

詭弁でございます!


〇議長

落ち着いてください!御発言は、前のかたの御発言がお済みになってからお願いいたします。

医務部局長、どうぞ。


〇医務部局長

はい。失礼いたしました。お詫び申し上げます。

本来我々の世界で解決すべき問題に、他の世界の人を強制的に呼び立て、しかも帰還の保障もないと。

数の多寡が問題ではないと存じます。


〇法務長官

本来我々の世界で解決すべき問題ではあるが、解決できないから異世界に頼ろうというのではありませんか。医務部局長殿は、王国が滅びても良いと。世界が壊れても良いと仰せですか?


〇議長

法務長官。本議題とは直接関わらない部分での糾弾はお控えください。


〇法務長官

失礼をいたしました。


〇医務部局長

…王国法では、誘拐や強制労働を禁止しております。

法務長官として、立法部門及び司法部門がこれを破ることは問題ないとお考えでしょうか?


〇法務長官

それは王国民を守るための法でしょう。

よろしいですか、王国民による王国民の誘拐、王国と協定を結んだ国家の国民による王国民の誘拐、王国民による王国と協定を結んだ国家の国民の誘拐。法ではこれを禁じています。

召還者は王国民ではない。協定を結んでいる国家の国民ではない。

従って、御指摘の部分に対する法的な問題はありません。

付け加えれば他の関連法も基本的には王国民及び協定国家の国民が対象となっています。

法的には何ら問題がない。それを、感情的な部分から反対なさると。法治国家において。


〇議長

法務長官、議題の検討にあたり必要となる御意見のみ御呈示願います。

…本議題については、皆様に十分に御検討いただく時間が…なんだ!?この光は


〇第二王子

魔術長官が光って…


〇魔術長官

なっ…これは、引っ張られ…まさか


(爆発音)


〇第二王子

く…なんだ、今のは…

…魔術長官が消えた!?

魔王とやらの攻撃か!?


(悲鳴)

(複数の靴音、その他の雑音)


〇議長

部下が確認中ですが、敵襲ではないようです。


〇???(魔術省幹部と思われる音声)

…大規模な、空間の揺らぎを観測しました。


〇第二王子

どういうことだ!?


〇???(同幹部と思われる音声)

…おそらくは、本省長官は、異世界に召喚されていったものと。

(轟音とともに録音機が破損)

(自動筆記の終了)

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