第37話 仮説
これはまだ、私の仮説に過ぎない。
しかし、病室で眠っているあの子がクロであるなら、ここに居るクロは生霊となる。
あの子が意識不明になり、記憶を失うことで生まれたもう一人のクロ。
だとすると、最近のクロが消える現象は、あの子が意識を取り戻しているからということになる。
「ねぇ、クロは本当に、お母さんの記憶はないんだよね……?」
私は、おやつを食べるクロに尋ねた。
おやつの時間を欠かさないのは相変わらずである。
「あるよ!!」
クロが自慢げに言った。
いや、クロは自分で記憶がないと言っていたはずだが……
私は思わず驚いた声を上げてしまった。
「かおるが、クロのママだよ」
クロは満面の笑みを浮べながらそう口にした。
「かおるとたくさん楽しい事。いーっぱいクロの中にあるよ」
そう言うクロの表情は心から楽しんでいるような無邪気なものだった。
確かに、私とクロの間には、長いとは言えない期間だが、思い出が沢山積み重ねられてきた。
人生、積み重ねることは出来ても、切り捨てることは出来ない。
たとえ、切り捨てたい思い出があったとしてもそれと付き合っていかねばならない。
問題は、その付き合い方にある。
このクロとの思い出も決して捨てることの出来ない私の大切な思い出だった。
「なんかクロ、テンション上がったよ!!」
そんな事を言いながらクロは、はしゃいでいた。
そうして私は確信した。
やっぱり、クロに記憶はない。
このままじゃいつかクロは……
『消える』
あの子が意識を取り戻したとしても、あの子が私の知っているクロである保証なんてどこにも無い。
アオイの言う通りだ。
この仮説が的中することを恐れて、逃げたとしても結果は同じ……
だとしたら、今の私に出来る事をしよう。
「クロ、ママに会いたい?」
私ははしゃいでいるクロに尋ねた。
クロは私の言葉に驚いた表情を見せた。
そして、数分の静寂が流れた後……
クロは静かに頷いた。
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