者ウカ向刃ニ界世
死に向かう、その刹那。
虚空。
(思)
生還。激戦。神化。逃走。転落。絶望。反逆。不穏。雷光。幸福。感動。平和。悠久。生活。交流。覚悟。恐怖。極寒。決意。脱走。
覚醒。
(い)
覆う麻を押し退け、極寒の牢で起き上がり、尾骨から尻尾が生えてくる悍しい嫌悪感。
(出)
死の間際、今までの記憶が遡っていく。これが走馬灯か。
(して)
最初の最期は、何時だっただろうか。
(しまった)
八〇〇万一五七七年前。
西暦ニニ七三年。
中華合衆国、日本州主都。
北海道新東京都中央区総合自衛隊札幌駐屯基地。
最下層。
第零人類研究所。
「選択の時だ」
「こんなの、嘘よね」
「現実を」
「どうして、どうして貴方が何十人も保管されているのッ」
「俺は最初から主上の影。お前に告げた言葉も捧げた行為も、全て虚像だ。お前が気付かないはずが」
「聞きたくない。止めて。私に貴方を殺させないで」
「止めておけ。新人類の王となるべく創出された俺に、旧時代の強化兵士如きがどう抗える。お前の兵眼と技は全て把握しているんだ」
「貴方に殺されるなら、本望だから」
「それがお前の選択か。流石だ、勝てないな」
「嫌、嫌。なんで。お願い。こんな記憶、なんか、要らないッ」
「計画終了を確認。主上、偽王の内部データのチェックを」
「へえ、やはり私を捨てたね。見なさい、感情制御機能をオフにしている。愛に殺される道を選んだか、偽王。実に興味深い。下がっていいよ、王子達」
「許さ、ない、貴様だけは」
「やはり君は特別だね。知っているかい。実は私が造ったんだよ。私こそが君の母だ」
「そんな。祖国をも私を、裏切って」
「這いつくばる赤子のようだ。愛おしいね。そんな君に褒美をあげよう。私はね、人類が火を生んだ時代よりも前から生きてきたんだ。
でも私はまだ、宇宙の法則のコンマ数パーセントも理解し切れていない。でも君のおかげでまた一つ、真実に近付いた。
魂を構成する要素の可視化。物質としての観測及び干渉が可能になれば、魂を資源として活用できるようになる。
不老不死も、死者の蘇生も、いやそんな程度じゃ済まない。宇宙の果ての、その先へ跳躍する事だって可能になるよ。なんて素晴らしいんだ。そう思うだろう」
「そんなもの、絶対に有り得ない。不可能よ。ふざけるのも」
「不可能は存在しないよ。真の無であれば、思いつくことすら有り得ないからね。
だから有り得る。叶わない夢など、ない。
そして私の夢が叶った暁には、君を偉大なる功績者として招待しよう。
何時になるかな。あと八〇〇万年ちょっと先かな。
生命は死なず、私の選んだ者だけが安らかな息を繰り返し、皆と永遠の時を生きて、宇宙が滅ぶ日を外側から優雅に眺めるんだ。ああ、すぐだろうね。もちろん君は私の隣だよ」
「貴様など要らない。私は、彼と、この子が、一緒に居れば」
「ふむ、なるほど、そうか。精素の培養が可能なら、その手があるか。もう少し待て。今とても面白いモデルを思いついた。あとほんの少し協力して、おっと」
「悪趣味なラボ諸共、滅びろ。こんな、人間を家畜化する狂ったテクノロジー、あってはならないッ」
「はは、まあいいか。ありがとう、君の任はこれにてコンプリートしたよ。証明したという事実さえ知れば、もはやエビデンスなど不要さ。東端の帝国が消し飛ぶくらい、ささやかな代償。むしろ研究材料が増えるかな。素晴らしい。またヒマを潰せる。死なないってのは、意外とヒマなんだ」
「何も、救えなかった。ごめんなさい。全てが終わる」
「ああ、また時代が終わるね。今まさに、破滅と創造の瞬間。私はいつだってこう宣告しよう」
「第 次終末より、新世界 」




