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無知の行き着く先 12

 恐れ狩りの分隊長ケイラムの後に続き、裏手の幅広い天幕(テント)へゴクロウとアサメは入っていく。

 薄暗い中はあらゆる臭いが混じった雑味のある気配。いかにも倉庫といった形で、刀剣類、食糧、装身具などが整然と並んでいた。


「良いね。この機能美みたいな雰囲気、好きだぜ」

「どうも。これでも必要最低限なんすけどね。人員が少ないからってのもあるんですけど、それでも他の部隊と比べて物持ちが良いんすよ。ウチの自慢ですわ」

「素晴らしいね。道具を丁寧に扱う者はそれだけ意欲が高いんだからな。買い取れる余地があるのか心配なくらいだ」

「二、三人分くらいなら余裕すよ。物によりますけどね」


 備品と台帳とを交互に睨んでいた男がこちらに気付くと、ケイラムと幾つか会話を交わしてこの場を立ち去る。


「さて。何がご入用っすか」


 ゴクロウは腕を組んで見回す。火薬の臭いがしない。


「銃は、なさそうだ」

「ここにはないっすね。もしあったとしても銃火器の類は僕の独断ではちょっと。こういうのは別っすけど」


 そう言いながら棚から取り下ろした得物は(おおゆみ)だった。

 銃身と弓が組み合わさった武器で、専用の矢弾を射出し標的を穿(うが)つ。射程、威力共に弓よりも優れた代物である。


「ふうん。無いなら弓の方が良いな。手入れしやすいし、早撃ちできる」

「弓か。だったらこれはどうかな、よくある複合弓なんすけど、弦が、そうっす、ああ、なら」


 ゴクロウとケイラムはあれがいい、これはどうだと話し込みだした。

 一度話が盛り上がるといつまでも続く。


(ヒマ)


 いつでも蚊帳の外なアサメは嘆息しながら背後で指を組み、辺りを見回した。

 確かに必要最低限な物資のみといった形で、雑多に放られている様な物は一つもない。大抵の品を網羅(もうら)して取り揃え、そして盗難の恐れなどないこの地で在庫確認を部下に実施させている辺り、ケイラムという人物が誠実で几帳面(きちょうめん)な性格というのが見てとれた。


(使える物といっても)


 短躯(たんく)のアサメに扱える得物は小太刀や短剣といった軽い物のみ。

 長物は嵩張(かさば)り、重量と体積に振り回されてしまう。今の手持ちで精一杯だった。


(弓なんて使い熟せる気がしない。(おおゆみ)もあまりというか、使えても持ち運ぶには大きくて邪魔。せめて拳銃があれば)


 やはり求むは軽量かつ耐久と携行に優れ、高威力の近代兵器。

 そこまで考えたアサメはふと、素朴な疑問に至った。

 相方の顔を見上げる。


「いやしっかし何でも扱えるだなんて、よく言い切りますねえ」

「手に持てばなんとなくどう使えばいいかみえるもんなんだよ。長所も短所もな」


 ゴクロウは実に芸達者だ。

 杖術に通じた技術の槍や、扱い易いとされる刀剣がある中で、わざわざ戦斧(せんぷ)を選んだ。伊達や酔狂で選んだのではない。使い()せるから選んだのだ。

 そして今は弓を物色している。(おおゆみ)に比べて弓術は扱い難く、相応の技量が求められる。火急極まる戦場で動き回る敵を射止めるには、一朝一夕(いっちょういっせき)の修練では到底間に合わない。


「お、これは」


 手頃な弓を手に取ったゴクロウは軽く見定め、仮想の矢を手に射つ振りをする。

 何度も、機敏に、正確に。

 その所作は実に攻撃的で、身振りだけで脳裏に浮かぶ程には洗練されていた。


「ケイラム、試してもいいか」

「勿論すよ」


 すっかり打ち解けた調子で声を掛け、射つには狭い天幕内に簡易な丸い的と矢筒を用意させた。

 距離のほど約五〇(メートル)

 ゴクロウは左手に三本の矢を手にし。

 一つ番え、引き絞り、射つ。

 番え、絞り、射つ。番、絞、射。

 鋭く突き立つ音が三連。


「お見事っすね」


 瞬く間に放たれた三本の矢はその全てが中央を射抜いていた。


「疑いは晴れたかな」

「いやあ、まあ、はは」


 刺さった矢を引き抜く。角度を変えて傷みがないか確認し、矢筒(やづつ)に戻していく。


「とはいえ所詮(しょせん)木偶(でく)の的だ。血肉の的を射止めるにはもっと工夫がいる」

「ま、その通りですけど、初見でこうもすんなりと使い熟すなんてね。一体何者だって感じっす」

「記憶が無いんでね。旅芸人だったのかもな。なあ、見物料で安くなるか」

「良いっすよ。名無しのゴクさん」


 二人は調子づいた会話を弾ませながら、指を立てて金額を交渉していく。

 何気なく行われ、そして過ぎていく光景。

 アサメはこれといった答えを見出せず、ただ見つめていた。


(貴方は本当に、何者だったんですか)


 武器の調達を終えると恐れ狩りの面々と軽く挨拶する。

 ゴクロウが彼等と力比べをして軽く汗を流しているのを、木箱に腰掛けるアサメはつまらなさそうに眺めていた。腕相撲で全て圧倒し、相撲で(ことごと)く投げ飛ばしていく。勝つと分かり切って観戦していても、そう面白いものではない。それに暑苦しい。

 確かな絆を結んだ証に最後は握手して別れる。

 二人は早めの昼食を済ませるため、ヨラン氏族の族長屋敷へと戻った。


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