そこに住まう者たち 11
うすぼんやりとした覚醒に、アサメは矮躯を捩らせる。
茅葺小屋はいつもほど良い温もりに満たされていた。
日陰の園はいつでも暗く、小屋へ差し込む光は僅かで、小さな焚き火が灯るだけ。
アサメは眠たい瞼を擦り、焚き火を挟んで反対側の片隅で眠っていたであろうゴクロウの寝床を確認。前日に酒盛りをしていようと彼の方が朝は早い。小屋へ戻った形跡はあるが、もう目覚めていつもの日課をこなしに向かったのだろう。
アサメは焚き火の前で少し温まり、白湯を飲んで一息つく。
(ねむ)
ぼんやりとしながら夜色の黒髪を梳かし、簡易的な台所で砂で歯を磨き、冷水で口を濯いで顔を洗う。
鏡はないが、見知らぬ見知った紫紺の瞳と顔は多少なりとも締まった顔になっただろう。ゴクロウの言ういつもの仏頂面である。
アサメはそのまま羽織りの上半身を肌蹴けさせ、包帯を巻き取った。
薄く華奢な赤土の褐色肌。
右脇腹に刻まれた三条の爪痕はほぼ目立たなくなっていた。
半身の回復力は驚異的だった。昨晩までは痛々しく湿潤した裂傷が鮮烈と残っていたというのに、一晩寝ただけで完治しようとしている。
墨染めの爪先が、跡形もなくなろうとしている傷口に触れる。
(ちゃんと痛かった。血も赤かった)
当たり前の感覚が一つ、一つ。
かつて人であったであろう記憶へ一致していく。
それは安堵だ。
(でもこの身体はこれからどうなるの。年月を掛けて成長するの。大人の身体にはなったとしても、人の形を保っているの)
だが、いつかまた不一致が起きたら。
それは恐怖だ。
きっとまた耐えようとするだろう。乗り越える苦痛を味わうだろう。それを承知の上で行動を起こすというのは、精神的な体力がとても必要だった。
もぞりと服の下で尻尾をくねらす。受け入れつつある部位。
アサメは大きく溜息を吐いて、心の片隅に澱を押し退けた。
新品の夜光衣装を着直し、襟を正して玄関を抜ける。
今日も一日が始まる。




