表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/166

そこに住まう者たち 11

 うすぼんやりとした覚醒に、アサメは矮躯(わいく)(よじ)らせる。

 茅葺(かやぶき)小屋はいつもほど良い温もりに満たされていた。

 日陰の園はいつでも暗く、小屋へ差し込む光は僅かで、小さな焚き火が灯るだけ。

 アサメは眠たい(まぶた)(こす)り、焚き火を挟んで反対側の片隅で眠っていたであろうゴクロウの寝床を確認。前日に酒盛りをしていようと彼の方が朝は早い。小屋へ戻った形跡はあるが、もう目覚めていつもの日課をこなしに向かったのだろう。

 アサメは焚き火の前で少し温まり、白湯(さゆ)を飲んで一息つく。


(ねむ)


 ぼんやりとしながら夜色の黒髪を()かし、簡易的な台所で砂で歯を磨き、冷水で口を濯いで顔を洗う。

 鏡はないが、見知らぬ見知った紫紺(しこん)の瞳と顔は多少なりとも締まった顔になっただろう。ゴクロウの言ういつもの仏頂面である。

 アサメはそのまま羽織りの上半身を肌蹴(はだけ)けさせ、包帯を巻き取った。

 薄く華奢(きゃしゃ)な赤土の褐色肌。

 右脇腹に刻まれた三条の爪痕はほぼ目立たなくなっていた。

 半身の回復力は驚異的だった。昨晩までは痛々しく湿潤(しつじゅん)した裂傷が鮮烈と残っていたというのに、一晩寝ただけで完治しようとしている。

 墨染めの爪先が、跡形もなくなろうとしている傷口に触れる。


(ちゃんと痛かった。血も赤かった)


 当たり前の感覚が一つ、一つ。

 かつて人であったであろう記憶へ一致していく。

 それは安堵だ。


(でもこの身体はこれからどうなるの。年月を掛けて成長するの。大人の身体にはなったとしても、人の形を保っているの)


 だが、いつかまた不一致が起きたら。

 それは恐怖だ。

 きっとまた耐えようとするだろう。乗り越える苦痛を味わうだろう。それを承知の上で行動を起こすというのは、精神的な体力がとても必要だった。

 もぞりと服の下で尻尾をくねらす。受け入れつつある部位。

 アサメは大きく溜息を吐いて、心の片隅に(おり)を押し退()けた。

 新品の夜光衣装を着直し、(えり)を正して玄関を抜ける。

 今日も一日が始まる。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ