【だから嫌いだっつーの!!】
運営(神)視点です(#^^#)
【だから嫌いだっつーの!!】
「千歳、問い合わせがきてるぞ」
千歳は介護用ベッドの頭部分を上げた状態で腰かけながら、ある男性から話しかけられた言葉によってぴたりとタイピングの手を止めた。電子によって表示されているタイピングの手が止まったことで、彼は話し始める。
「椿からだ。――椿、レッドマレリイカを始めたんだな」
如月創太は苦い顔で、千歳の介護用ベッドの横に立っていた。
精悍な顔立ちをした男性だ。年は23歳だということを、千歳は知っている。まさに善意しかない笑みを浮かべ、千歳のモニターの1つに、椿からのメッセージを表示する。
「あいつは、WWの後にMMORPGなんかやらないと思ってたよ」
(――それは、うちだって)
千歳だって、同じように考えていた。だけれど、彼はレッドマレリイカにログインし、フレンド登録や、ギルド登録だって行っている。
――千歳と同じように、ずっと椿と一緒にいた創太も、複雑な表情を浮かべている。
「···兄さんは、何とも思わないの?」
創太は、千歳の実の兄ではない。ただ昔から、お兄ちゃん、そして兄さんと呼び続けてきただけだ。血の繋がりはないけれど、共に過ごした時間が長いからこそ、「兄さん」という呼び名になる。
「―――椿が、MMOをまた始めてくれた。オレ達と同じギニーだった彼なら、面白いデータが取れるんじゃないか?···ま、何故か変なバグが起こってるみたいだけど」
お茶でもどうだ?と、自分のベッドに備え付けられた机にコップが置かれる。緑茶のようだ。
千歳は、ぎくりとした。創太は爽やかな笑みを浮かべているが、もしや千歳が故意に椿のユーザーデータを弄っていることを、見抜いているのではないか。彼はWWのギルドでも戦略家として、対戦相手の行動を予測することを得意としていた。
ほぼ生まれた直後からヒナタのギニーだった自分のことなど、お見通しなのではないか。
「如月副主任ー!あと10分後に会議始まりますよ!」
「グラフィックの資料も印刷済みです!A3会議室でモニターの準備をしてますね!」
「はい、わかりました!」
ーーーレッドマレリイカの運営チーム副主任の創太は、ほぼ事実的に運営チームをまとめてくれている。自分はコードを打つだけで良い。知略に富んだ彼の頭脳と、運営チームをまとめあげるリーダー力―――千歳には決してないもので、感心するしかない。
「兄さん、椿の問い合わせはすぐに処理しておくから。もう会議なら、どうぞ行って」
千歳は肩を竦め、自身のディスプレイに表示された椿の問い合わせ文面を見る。
(············はぁ?)
ぴくりと千歳のこめかみが震えた。一瞬にして千歳は、椿のクレームメッセージを読むことができた。
『レベリングの条件はどうなってるのでしょうか?
称号もスキルもつかない、それにモンスターを1億匹倒すといったレベリングにした意図をお聞かせいただけないでしょうか?
私見ですが、このようなレベリングの仕様が起こり得ることは、開発者が無能なのだと思います』
「―――はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
「―――千歳、おさえて。これは、運営側の過失で―――」
「運営は神様!何でその神様が無能とか言われなきゃならないんだっつーの!!こんなユーザー、垢BANで良いと思わない!?」
「いやいやいやいや、駄目だからそれ。椿は何もしていないだろう?千歳、そこは運営である自覚をもってさ。まぁお茶でも飲んで落ち着いて―――」
机に置いていたものを強引に持たされ、千歳は言われた通りに緑茶を飲んだ。しかし画面に椿のメッセージが見える限り、千歳は怒りが抑えられない。
(無能!?)
今まで誰にも言われたことがない言葉であり、しかもよりによって椿になど言われたくない言葉だった。
ギニーだった自分や創太、そして椿は―――いつだって、優秀な存在なのだ。
(何よ―――何よ、何よ、何よおおおぉぉぉぉ!!!)
彼のユーザー情報をわざといじったのは自分だ。しかし”無能”だなんて言われる筋合いは、全くないと千歳は極めて感情的に考えた。
(無能!?何でよりによって椿に言われなきゃならないの―――!?)
あんなことをしでかした椿なんかに―――っ!!
「なん、で――っ!!」
「千歳!?」
千歳が言葉を発しようとした瞬間、がくりと自分の腕が机から落ちた。
これは―――睡魔だ。
「大丈夫か?2週年イベントもあるし、疲れてるんだろう?全く、社畜なんだから―――。少し休めよ」
「う、うん―――兄さん、ごめん」
「いや、オレこそ主任を支えられなくてごめんな。2週年イベントも、特別クエストもある。四六時中ずっと会社にいるんだから、少し休むと良いよ」
千歳は、ある意味ホッとした。これから彼は会議で、千歳が椿のユーザー情報を直す所を見る訳ではない。
(直してなんか―――やらないっつーの)
いくら創太に言われようと、自分の意思は覆らない。目の前にいる創太のことを気にせず、自分は介護用ベッドのリモコンを操作し、ベッドを横の状態に切り替えた。
(椿なんか――――知らないっつーの)
不眠不休で働いているのだから、まぶたが重くなるのも無理はない。
(ちょっと寝たら―――”空帝”の準備、進めなきゃ―――)
千歳は怒りの感情を抱えながらも、そっと目を閉じた。
こんなクレームメールきたら、エンジニアに喧嘩売っているとしか思えませんね。。。
次回の話は、本日の19時更新予定です。