【新しく始めたゲームが、クソゲーでした】
【新しく始めたゲームが、クソゲーでした】
―――18年の月日が、経った。
(MMO······)
藤堂椿は、あるVRMMOのゲームをダウンロードした。自分はヒナタが開発した家庭用VR装置「HINA」を装着し、自身の眼前に現れたパッケージを見つめた。
RPG風のイラストで、剣士や魔術師、それに忍などが楽し気な笑みを浮かべるパッケージだ。
椿の「HINA」には、たくさんのゲームがダウンロードされている。インディーズは勿論のこと、海外のゲームもだ。
いわゆる積みゲーになっている中から、椿は今1番評判になっている「レッドマレリイカ」というゲームを見つめる。
―――積みゲーは数多くあるが、できるだけトレンドを抑えたい椿は、評判になっているレッドマレリイカを起動しようと思った。
(俺は生きているだけ多くのゲームを体験したい。···このゲームだって、評判になっているのなら···)
『言い訳も甚だしいつっーの!君のせいで負けた!強さを求めてきた君がねっ!!』
椿は、ある少女の荒々しい口調を思い出し、息を詰まらせた。ゲームをダウンロードし、美麗なグラフィックが眼前に広がっているというのに。
何故この瞬間、彼女のことを思い出すのか―――椿は、皮肉に笑った。
(うっさいな~···。俺は、別に···)
『やめてやれよ。――オレ達も、椿に頼り過ぎていた面はあるよ』
2人の言葉を思い出し、椿は頭を振った。
過去を、振り切りたかった。
(···いいよ~···本当···そういうの···)
自分の視界が、色鮮やかなグラフィックを映し出す。
ハッとした時、緑が生い茂る草原に立っていた。
蒼い空が広くて、高い。
綺麗な世界に立たされ、椿はやっと息ができたような気持ちになった。
(そうそう~。これこれ!やっぱ、こっちの方が息しやすいよな~!生きてるって感じ!)
椿は自然と気持ちが高揚していく。
やはり自分は、”こちらの世界”の方が息をしやすい。
【初めまして!あなたのお名前を教えて下さい】
自分の眼前に、画面が表示される。ユーザー登録の画面だろう。
「藤堂椿」
音声入力すると、画面の文字が直ぐに変わる。
【藤堂椿さんですね!あなたの職業を教えて下さい】
「えーと、剣士、魔術師、魔法剣士、斧使い、回復師――――」
選択項目を指でスワイプし、椿は目を走らせる。
(···まぁこういういかにもファンタジーRPGに、”あれ”はないのか···)
自分が探している項目が見当たらず、仕方なく剣士を選択する。
―――剣士を選択した瞬間だった。
ぐらりと、視界が揺れる。
「えっ」
―――自分の身体が、地面に叩き落された。
「ぎゃっ!!!」
椿は、灰色のアスファルトの地面の上に頭から落ちたのだ。
多くのユーザー達が、一瞬目を向けたが、そのまま何事もなかったかのように歩いていく。
「え?嘘~···。なになに、乱暴~···」
色んなゲームスレでは、このレッドマレリイカというゲームは初心者にも優しいと聞いていたが、ユーザー登録して職業決めたら、すぐに街に落下させるとか、全然優しくない。
「···しかも、チュートリアルなし~?いや、今時のゲームには普通チュートリアルあるだろ~···?えぇ~?」
椿は、自身の姿を見た。柔らかな癖のある黒髪に、柔和な印象を人に与える顔立ち。リアルの自分の顔のまんまだが、初期装備なのか、薄っぺらい青い服の上に防具を着ている。腰には、何の装飾もない剣。
「···だっさぁ~···。えぇ~···?ちょっと待って、これ、本気ぃ~···?」
指をかざし、眼前に自身のステータスを表示する。
椿がいるのは、始まりの街であるリアルトシティ。初心者や、最初ログインした際にはこの街に飛ばされるようだ。
「―――ん~?」
椿は自分の初期ステータスを、目を疑った。
―――今まで、数多くのゲームを体験してきた。それは勿論、自分の今までの人生のおかげであり、父親の影響も多大にある。
いや、例え今までゲームをしたことがないという人間でも、そのステータスの異常さに気が付くはずだ。
「レベルアップの条件、おかしくない~?」
ひくりと唇の端が、吊り上がる。
レベル1なのに、攻撃力や防御力、HPやMPが2桁、大体50ぐらいなのは仕方がない。
称号やスキルも、現在は「なし」とされているのも、初期ユーザーだから当然だ。
ただ―――ステータスには、レベル1からレベル2にあがる条件が記載されていた。
【レベル1から2にあがる条件:モンスターを1億匹倒すこと】
「······え、これ、皆やってることなの~···?」
初心者ユーザーに全っっっく優しくない。
クソゲーじゃないか。うん、これはクソゲー認定だな。
次の話は本日の21時更新予定です。
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