序章2【大手ゲーム会社のGuinea pigs】
裏側の話です
序章2【大手ゲーム会社のGuinea pigs】
「生後3時間の新生児がVRMMO世界にログインして、すぐに喜びの感情を現しているな」
藤堂大輔は満足気に笑い、画面の世界を見つめていた。
画面の世界では、AIであるアイが抱いた自分の息子と、既にVRMMO世界にログインして日が経つ1歳半の十文字千歳と、5歳になる如月創太が映し出されている。
会議室でモニターを見つめているのは、3人の大人達だ。
1人は、藤堂大輔。
本研究の主任開発者であり、この大手ゲーム開発会社で数多くのヒット作品を生み出した人物だ。細身の瓜実顔の男で、癖のある短髪が特徴的だ。
「よく、産院が許可を出しましたね。新生児をVR世界に接続するなんて」
大輔の左側に座る男は、苦笑気味に言った。
彼は、如月英太。恰幅の良い男で、椅子に腰かけているとズボンの上に腹の肉が乗っかっていた。
画面に映る創太の父親である。
「協力してくれる病院を、選んだのでしょう?藤堂さんは奥様が妊娠なさると、有給をたくさんお使いになられて、積極的に病院選びをなさっていましたものね」
大輔の右側に座る女性は―――十文字博子は涼やかな笑みを浮かべていた。
画面に映る、千歳の母親である。
「直ぐに「喜び」の感情を得るとは凄いですね。うちの千歳は1歳からログインしていますけれど、「喜び」「楽しい」などの感情を検知したのは半年かかりました」
「でも十文字さん、千歳ちゃんは明らかにVR世界にログインしてからの半年間、VRに接続していない子供よりも発達が良いじゃありませんか。うちの創太はログインしてすぐ「楽しさ」を感じたようですが、発達速度に関しての結果は出していません···」
「1個体だけの結果では何とも言えませんよ。その1個体が、特別優秀ということも有り得ますし」
博子はどこか自分の子供を誇るように、そして英太は自身の子供を劣等感にまみれた目で見ていた。
「この子達から、私達は新たなゲーム作りのヒントを得ないといけない」
藤堂大輔は、AIに抱かれた自身の息子、椿を見つめた。
それは親が子供に向けるもの―――ではなかった。
純粋な”興味”の視線でしかない。
「デジタルネイティブなど、もう古い。この子達「ギニー」は、もっと革新的な存在になる」
大手ゲーム開発会社、ヒナタの「ギニー」
ある者は興味、ある者は我が子への誇らしさ、ある者は他の子よりも我が子が劣っているという劣等感を感じ、モニターに映る子供達を見つめた。
皮肉にも―――Guinea pigs―――の「ギニー」と呼ばれる子供達。
和訳すると、”モルモット”と言われた3人の子供達の人生は、ここから始まった。
次から本編始まります。
次の話は、5月17日(日)の19時に更新予定です。