夫婦の関係
今回も読んでいただきありがとうございます!
更新が予定より遅れてしまい申し訳ありませんでした。
前書き / うづきはら
「そろそろご飯作らなきゃだ」
ヘッドホンを机に置きワイヤレスイヤホンを耳につけ、嘉絃を盗聴中のパソコンとスマホを通話で繋げ聴く陽依。
「嘉絃さん、まだ動かないのかな」
机に腰をかけていた嘉絃は自責から動けないでいたため陽依には嘉絃の動向がよくわからなかった。ただ教室にいることは確かであった。
陽依は先程までいた自室の扉を閉め下の階へと降りる。
家事は分担制で料理と洗濯は陽依の担当、買い物と掃除は嘉絃の担当である。
なので今日も陽依は夕飯を作るために準備をするのだ。陽依は今年になって学校に行くことをやめたが不登校のきっかけは嘉絃が今年の初詣でクラスメイトともっと仲良くなれるようにと願ったこと、相手が女の子だということ。それが陽依を不安にさせる…
〜〜〜
初詣にもなると神社に訪れる人の多さが桁違いで参拝客で溢れかえっていた。
結構な時間を並び、やっと嘉絃と陽依は参拝を終え帰宅しようと出口へ歩いていたところで陽依が口を開く。
「嘉絃さん、今年は何をお願いしたんですか?」
「茶化すなよ?」
嘉絃の方を見て頷く陽依
「いやぁ、今年初めて同じクラスになった子がいてな。その子ともっと仲良くなれたらいいなってそんな感じだ。つまんないよな、ごめん陽依」
頬を掻きながら照れた様子で話す嘉絃
「ううん、つまんなくないよ。話してくれてありがと嘉絃さん」
ニッコリと微笑む陽依だが心の内では
(仲良く?何言ってるんだろう。嘉絃さんは私の恋人でしょ?は?わかんない。浮気?これって浮気?浮気でしょ。え?でも嘉絃さんが浮気するわけないじゃん。陽依どうしたの?嘉絃さんは私一筋でしょ。そうだよね。そうよ。そうに決まってる…でも…)
永遠に陽依の脳内で起こる陽依達の口論。
杏の家に住み実質二人暮らしになってから、同じ時間を長く過ごし家事も分担しているうちに陽依の中に浮かんだこと。
『夫婦みたい』だなと。
陽依にとって今まで記憶の中に嘉絃へ恋をするタイミングなどなく、ただ嘉絃を好きになっている事に陽依は自分が異常であると気付いていた。しかしその解答を得てしまったのだ。陽依と嘉絃の関係性は夫婦に近いのだと。だから好きなのは正常なのだと、自己を肯定してしまった事で陽依は更におかしくなっていく。独占欲に駆られ、嘉絃に気づかれないように行動を束縛したり…
次第に『嘉絃を旦那して扱う』自分自身に縛られるようになる。陽依自身が壊れてしまうのを防ぐには嘉絃が自分の手元にないとダメなのだ。嘉絃がわざわざ初詣でお祈りするほど恋をしている相手がいる事にとても強い危機感を覚える。
葛藤の最中、陽依の中に『やらねばならない』と声が響く。
手段など選んではいられない。陽依にとっての嘉絃は生きるためのパーツそのものなのだ。強く決意した陽依は後日道具を買い揃え、学校に行かずに嘉絃を盗聴まで至る。
〜〜〜
「あ…雨だ。天気予報で夕方から雨だったのに今日、嘉絃さん傘忘れてるよね。ふふ、濡れた嘉絃さんもいいかも」
(私がこうして奥さんをしているのにどうして嘉絃さんは旦那さんをしてくれないのかな)
『奥さん』らしい言葉を声に出して発する事で陽依は自身の不安を払拭しようと、自身を保つために自らを演じている。それが演技であると陽依はもう気づかない。そんなことは嘉絃が陽依のモノじゃなくなる危機感に駆られ最早どうでも良くなっていたのかもしれない。頭の中では初詣からずっとずっとぐるぐる嫌なことばかりを考えるようになっていた。
『奥さん』としての陽依と、陽依の脳内会議は分離しているに等しい状態ではあるが日常に何の影響がないのはやはり学校に行かなくなったのが大きいのだろう。
「嘉絃さん振られたショックで長風呂になりそうだなぁ、私も一緒に入っちゃうおうかな!なんて…でもいいかな。たまには」
(どうして私は嘉絃さんを待ってるんだろう。別に待たなくたっていいじゃない。ただ嘉絃さんが一言奥さんとか呼んでくれればいいのに。私に愛のある目線を送ってくれればこんな心配にならなくて済むのになぁ。いけない嘉絃さん…その分私がちゃんとしなきゃね。だから私からもっと迫っても何もおかしくないよね)
…また一つ、陽依の断片的に残っていた理性と冷静な部分が消える。脳内会議で承認を得て陽依は大きな行動を起こすことを決意する。
「ま、兎にも角にも帰ってこなきゃ始まらないしご飯は作らなきゃだよね」
ご飯を作る手を動かし始める陽依。
(会話はなかったけど明日何も用事入れてないよね…)
今さっき大きく前進するために決意をしたのにすぐ不安に駆られる陽依。最近はずっとこの調子だ。
「嘉絃さんのことだし、きっと約束は守ってくれるよね」
ウキウキしながら嘉絃の帰宅を待つ陽依。
すると、ガチャガチャと鍵が差し込まれる音がする。陽依は急いでアピールのためエプロンをつけ、耳につけていたイヤホンをポケットにしまい込み玄関まで向かう。ガチャガチャとするまで嘉絃の存在に気づかなかったのは聞いていたイヤホンの充電が切れていたからであると陽依が知るのは後の話。
「嘉絃さん、おかえりなさい」
平然を装い、嘉絃へ言葉をかける。
靴を脱ぎ靴箱へとしまっている嘉絃は陽依のことを見て
「あぁ、ただいま陽依」
嘉絃が濡れていることに気付いてはいたがそれを口には出さなかった。言ってしまえば、すぐに風呂掃除を済ませてシャワーだけ先に浴びてしまう気がしたからだ。それでは陽依の一緒にお風呂入る大作戦が台無しである。
いつもの『奥さん』を続けていると嘉絃は、何かを考えるように陽依を見つめる。
(もしかして濡れていることに触れて欲しいのかな)
全くの見当違いであるが陽依に嘉絃の思っていることが分かるはずもなく…
「ご飯はいつも通りの時間にできそうです。出来上がる前にお風呂、お願いしますね」
「分かった。着替えたらすぐやるよ」
嘉絃は何か言いたげな様子だったが、嘉絃のすぐやるは15分ほど始めるまでにかかるのだと陽依は知っていたので安心した様子で
「はい、では私は続きを」
しかし嘉絃は、
「陽依、夕飯の後。少し話があるんだけど大丈夫かな」
と言う。わざわざ時間を取ってまで話すようなことがあっただろうか。全く分からなかった陽依は首を傾げ
「嘉絃さんどうしたんですか?珍しいですね。私に話なんて」
「たまにはいいじゃないか。で、大丈夫?」
常に定型文でやり取りしているような夫婦にとって改めて『会話』という時間を作ることが久しかった。それが嬉しかったのか陽依はにっこりと微笑み
「うん、全然大丈夫ですよ。嘉絃さん」
「ありがとう、じゃ着替えてお風呂作るよ」
安堵した様子で二階の自室へ向かう嘉絃。
(何に安堵してるんだろう…)
今のやり取りが嘉絃にとってそんなに大事なことだったのかという点で陽依は疑問に感じていた。わざわざ時間を取ってまで話すこと…
(女の話?今日の告白の話?それとも何?)
混乱してきた陽依はそんな自分を振り切るように夕飯作りを再開する。嘉絃が二階に上がってから10分が経った頃、いつもより早く一階へと降り風呂場へと向かう嘉絃。やはり何か焦りか悩みがあるのだと感じた陽依はますます黒い感情が渦めく。
「ちゃんと聞いて確かめなきゃ…」
これは『奥さん』としてなのか『陽依』としてなのか、本人にも分かっていない。
そんなことを考えるうちに風呂掃除を終えた嘉絃が台所を覗いて
「陽依、ご飯の前にお風呂入ってもいいかな」
陽依は作り笑顔で
「ええ。わかりました」
ありがとう、と言って立ち去る嘉絃。
ギリリ…と歯軋りをして夕飯の作るスピードを上げる陽依。キリの良いところまで終えた陽依は嘉絃と一緒にお風呂入る大作戦を決行すべくコソコソ支度を始めるのだった。
ありがとうございました!
次回、陽依のお風呂一緒に入る大作戦をお送りします
【お知らせ】
当作品は制作を一時休止致します。
詳細は活動報告に載せておきましたのでご興味がある方はどうぞ。
本文 / うづきはら、屋幡
後書き / うづきはら
お知らせ / 牡蠣山古墳群