兄妹の関係
読んでいただきありがとうございます。
今回も宜しくお願いします!
前書き / うづきはら
「はぁ…こんな調子続いたら余計振ったことに気を遣わせちゃうな、しっかりしろ俺」
あれから数分、空き教室の机に腰を寄り掛けたまま
動けなかった彼…岬山嘉絃は寄り掛かったまま窓の外を見る。雨が降っている、さほど雨の勢いは強くはないが傘は差さねばならないだろう。だが今日は傘をうっかり忘れたのだ。
「ついてねぇなぁ…」
ついため息がこぼれる
しかし嘉絃は思う
「こんな雨に打たれながら帰ったら、多少は気が紛れるかね」
振られたことにショックを感じるというよりかは最悪のタイミングで告白をしたことで自責の念を感じていた。雨に打たれることを自分への戒めと感じてしまうほど嘉絃の頭の中では自分を責める気持ちでいっぱいだった。
「でも、風邪引いたら余計気遣うよな…」
なんとか正気を取り戻した嘉絃は、机に置いた鞄を手に取り教室を後にする。
「帰るか…」
嘉絃の家は学校から歩いて20分の所にあり毎日徒歩で登校している。走って帰れば、あまり濡れずに済むと踏んだ嘉絃は鞄を盾にし家へと走る。
走っているうちに嘉絃は少し気を紛らわすことができたが、家へと近づくと今朝のことを思い出した。妹である岬山陽依が変なことを言っていたのだ。
「嘉絃さん、明日はお休みです。お友達と予定なんて入れないで私のために時間を作ってくださいね」
妹…陽依はこんな主張が強い言い方は今まであまりしてこなかった。だが、最近少し主張が強くなっていると嘉絃は感じていた。それは、良い傾向だと。
これまでの兄妹関係が少し特殊だっただけで、兄妹とは本来ある程度不仲なことが普通であると嘉絃は兄弟がいる友人達の体験談を聴き、学んでいた。
それと同時に両親がいない嘉絃は陽依に依存している自分がいる事を自覚している。
両親は陽依が生まれて4年になる頃、交通事故に遭い亡くなった。当時嘉絃は7歳だった。
事故以来、母方の祖母が二人を育ててくれていたが嘉絃が高校生になるタイミングで母の姉である掛里杏の家に住むことに。杏は仕事が多忙なためあまり家に帰ってこない。そのため家事は兄妹で分担してきた。最初は慣れない家事も段々と勝手がわかってきて余裕も出来た頃、陽依はこんなことを言った。
「私たち、夫婦みたいですね」
嘉絃はこれが冗談だと理解はしているが、冗談で済ましていいのかと何処かに引っかかりを感じていた。
この時、嘉絃は『信頼関係』として
陽依の言葉を何とか呑み込んだ。
それ故に時間が経つにつれ
陽依が嘉絃へと向ける恍惚な目線も、
陽依が頑なに嘉絃の下着を洗うのも、
陽依が何かと嘉絃にいやらしく触れるのも、
嘉絃は『信頼関係』という言葉に
陽依の行動や発言を納めていたのだ。
嘉絃としては妹のことを理解してやりたいと思っているが陽依が何を考えているのか正直全く見当もつかない。この『信頼関係』に何か不満があるのか。あるならば言って欲しいと思う、反面『信頼関係』が壊れるのではないかという恐怖感にも駆られていた。
頭の中で葛藤を繰り広げているうちに青い屋根で二階建ての家の前に着く。ここが嘉絃達が住んでいる家だ。
「いつまでも考えてても仕方ねぇな。直接陽依の真意を聞けばいいことだ。よし!」
考えることをやめ、鍵を差し込み扉を開ける。
「嘉絃さん、おかえりなさい」
靴を脱ぎ靴箱へとしまっていると聞こえる声
今まで台所でご飯を作っていたのだろう。
エプロン姿で玄関まで出てきた陽依に返事をする。
「あぁ、ただいま陽依」
いつものやり取り。
だが嘉絃はそわそわしていた。
中学生である陽依は現在不登校。
今年になって突然学校に行かなくなった。
だから家にいてこうして毎日、嘉絃を
玄関まで出迎えに来る。理由は分からない。
突然嘉絃は理由が気になり始めた。
そして考え、思った。
(もしかして、聞こうとしている事と何か関係あるのか?)
と。
そう思った途端、先程固めた決意が
揺らぎそうになる。少しは頑張れ。
「ご飯はいつも通りの時間にできそうです。出来上がる前にお風呂、お願いしますね」
「分かった。着替えたらすぐやるよ」
完全に揺らぐ前に自らの逃げ場を無くそうと嘉絃は考えるが、何と言い出せばいいか分からず考えながら陽依といつもと変わらないやり取りをしていた。
「はい、では私は続きを」
「陽依、夕飯の後。少し話があるんだけど大丈夫かな」
陽依は首を傾げ
「嘉絃さんどうしたんですか?珍しいですね。私に話なんて」
「たまにはいいじゃないか。で、大丈夫?」
常に定型文でやり取りしているような兄妹にとって改めて『会話』という時間を作ることが久しかった。だが、陽依はにっこりと微笑み
「うん、全然大丈夫ですよ。嘉絃さん」
ひとまず時間を作ることに成功した嘉絃は安堵する。
「ありがとう、じゃ着替えてお風呂作るよ」
安堵している事を悟られたくなかった嘉絃は、足早に二階の自室へと向かい制服から部屋着へと着替えている時、思い出す。
「そういや俺、今日告白したんだった」
すっかり忘れていた嘉絃。
また自分を責めて動けなくなる前に動かなくてはと思い、雨に濡れたことなど忘れて部屋着に着替えるスピードが早くなる。
「よし、洗おう」
嘉絃は、風呂場へと向かう。
次回は、陽依サイドになる予定です!
本文 / うづきはら、屋幡
後書き / うづきはら
【追記(2020/3/10)】
3/2に更新を予定していた第3話「夫婦の関係」は
本文未完成につき延期となっていましたが、
完成しましたので3/16に更新致します。
お待たせしてしまい申し訳ありませんでした。
追記 / 屋幡