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恋愛小説家のススメ!  作者: mimuka
6/18

土曜日・休日

しかし晴れぬ気分も、次の日となれば話は別!


私はリュックを背負い、キャリーバックを引き、大きな布のバックを右肩に背負って、アニメイトに来た。


学校がある駅前のビルに、アニメイトはあった。


広いフロア内を駆け巡り、エレベータで階を上ったり下りたりを繰り返し…。


開店と同時に入り、出る頃にはお昼近くになった。


「ううっ…重い…」


予備用の布のバックを肩にかけ、私はふらついた。


リュックにもキャリーバックにもビッシリ本が入っている。


…まあ本の他にもイロイロと。


私は息を切らせながら、ビルを出た。


このままお茶をして帰るか、そのまま帰るか…。


迷っていると、目の前を歩く人物を見て、決めた。


「お~い! 柊!」


「うん? うわっ! 里桜くん、どうしたんだ?」


私服姿の柊がいたのだ。


「ちょっと本の買出しに…。ちょうど良かった。お茶しない? 奢るわよ」


「…ナンパにしては、下手だな」


「違うわよ。まあ下心アリってのは認めるケド」


そう言って荷物を揺らして見せる。


「はぁ…。まっ、良いケド」


「やった♪ さんきゅ。どこでお茶したい? バイト代出たばっかだから、好きなとこで良いよ」


「その出たバイト代、すでに本に代わったんだろ?」


…おっしゃる通りデス。


「大体キミは本の事になると、理性が消えすぎる」


そう言いつつキャリーバッグと肩にかけていた二つのバッグを持ってくれる。


「…で、今日はどんな本を買ったんだい?」


…それが狙いか。


「それはまあ…お茶しながら話すわ」


結局、駅の中にある喫茶店に入った。


友人達と良く利用するコーヒー店で、デザートが豊富だ。軽食の種類も多く、利用する人は多い。


私達は角の窓際の席が運良く取れた。


周りの席から距離があって、話の内容が濃くても聞かれる心配がない。


私はジンジャーエールとハンバーガーセット。


柊は紅茶とサンドイッチを。


「相変わらずスゴイ量を買うんだな。インターネットでも買えるだろう?」


「本は実際、自分の眼で見て、自分の手で取った方が購入した時の嬉しさは上。それに購入特典が付いたり、ポイントが付くのは店だけだから」


「まっ、一理あるね」


柊は肩を竦め、紅茶を飲もうとして、手を止めた。


「ああ、そう言えば…。最近話題になっているケータイ小説のこと、知ってるか?」


「ケータイ小説?」


…まさか、な。


「ああ。最近、問い合わせが多くてな。人気のあるケータイ小説が本になっていないのか、とな」


「…へ~。でもそんなに簡単に文庫化は出来ないでしょ?」


「自費出版ならともかくな」


「そんな一か八かの賭けみたいなもん、滅多にやらないわよ」


「まあな。でもスゴイ人気らしくて、ウチの部員達も浮き足立っている」


「へ~」


「まあ里桜くんは興味が無いかもしれないな。何せ恋愛小説だから」


「んぐっ」


ぱっパンがノドのおかしなところにっ…!


「確かペンネームが…『REN』だったか?」


「ごほっ!」


流し込もうと飲んだジンジャーエールが、またヘンなところにっ!


「短編小説集を書いているらしい。まあ僕は読んだことないんだが、かなりおもしろいらしい」


「ふっフーン」


ごほごほっ言いながら、私は興味の無いフリをした。


「でも今度読んでみようかと思ってる。かなり人気があるみたいだしな」


「へっへぇ…」


柊の笑顔が眩しい…。


「キミも良かったら読んで見たらどうだい? 勉強になるんじゃないか?」


…コレは嫌味だな。


「余計なお世話。アンタこそ、良く読む気になったわね。そういうミーハーというか、流行ものって好きじゃないじゃない」


柊は私と同じく、自分の感覚しか信じない。


周りがどんなに騒ごうが、自分の信念を曲げないタイプだ。


「まあいつもなら、そうなんだけどな。何せ運動が起こるぐらいだから」


「運動?」


ファンの集いみたいなものだろうか?


「ああ、文庫化希望運動」


「ぶっ!」


俯いて吹き出した。


「何でもファンの読者が始めたらしい。それを聞いて出版社も動いているみたいだしな」


だからかっ! あのメールの数々はっ!


「近く文庫化するなら、先に見てても良いと思ってな」


「そっそう…」


見る見る血の気が引いていく。


私の知らぬところで、そんな動きが…。


「じっじゃあ読んだら、感想聞かせて。それでよかったら、読んでみるわ」


「そうだな。でも時間がかかるかもしれないぞ? かなりの本数、書いているみたいだしな」


「構わないわよ。待つ時間はたっぷりあるから」


そう言って買ってきたものを横目で見た。


「そうか。…にしても、相変わらず一人で買い物か。寂しくないのか?」


「前は友達を誘ってたんだけどね。流石に嫌気がさしたみたいで、怒られた」


「キミは趣味のことになると、周囲を気にしなさすぎだからな。そんなんだから、彼氏の一人もいないんだな」


「お互い様でしょう! アンタだって、土曜日の昼過ぎに一人じゃない!」


「僕はこれから中学時代の友達と会うんだ。先に来てたのは、本屋に寄る為だし」


「私と大して変わらないじゃない。柊だって彼女いないじゃない。…今は」


コイツ、実は結構モテる。


けれど生真面目な性格のせいか、よく終わる。


主に女の子が嫌気がさして。


「まっ、別にいなくても何ともないがな」


「私だってそうよ。一人を楽しんでいるんだから」


そう言うと柊は可哀そうな人を見るような眼で、私を見た。


「…寂しくないか? それ」


「よっけーなお世話! 友人はいるし、悪友もいるから充分なのよ!」


「悪友…ってまさか、それって僕かい?」


「アンタの他にもいるわよ。安心なさい」


「他ってねぇ…」


私はハンバーガーの最後を口に押し込み、ジュースで流し込んで食べ終えた。


「ごっそーさん」


「相変わらず女らしくない」


「ちまちま食べてると、横取りされるわよ」


そう言いつつ、柊の皿に残っていたイチゴサンドを掴んだ。


「あっ!」


そして口の中に押し込んで食べる。


「ご馳走様」


ニッコリ笑顔を見せてやる。


「ったく…。キミを相手にしていると、退屈しないよ」


柊も紅茶を飲み干し、私達は立ち上がった。


電車まで柊は送ってくれた。


「時間、大丈夫?」


「ああ、まだ余裕がある。しかし…駅についてから、大変じゃないのか?」


「自転車あるからヘーキ。今日はどうもね」


「こちらこそ、ご馳走様」


電車の中に荷物を入れ、柊とはそこで別れた。


動き出す電車の中で、柊のことを思う。


別に恋愛感情は無い。


けどとても付き合いやすい。


お互い本が好きだし、何でもサバサバ言い合える。


だけど…まさか柊まで『REN』に興味を持つとは、な。


それに文庫化運動って…。


帰ってから、パソコンで調べてみなければ。



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