土曜日・休日
しかし晴れぬ気分も、次の日となれば話は別!
私はリュックを背負い、キャリーバックを引き、大きな布のバックを右肩に背負って、アニメイトに来た。
学校がある駅前のビルに、アニメイトはあった。
広いフロア内を駆け巡り、エレベータで階を上ったり下りたりを繰り返し…。
開店と同時に入り、出る頃にはお昼近くになった。
「ううっ…重い…」
予備用の布のバックを肩にかけ、私はふらついた。
リュックにもキャリーバックにもビッシリ本が入っている。
…まあ本の他にもイロイロと。
私は息を切らせながら、ビルを出た。
このままお茶をして帰るか、そのまま帰るか…。
迷っていると、目の前を歩く人物を見て、決めた。
「お~い! 柊!」
「うん? うわっ! 里桜くん、どうしたんだ?」
私服姿の柊がいたのだ。
「ちょっと本の買出しに…。ちょうど良かった。お茶しない? 奢るわよ」
「…ナンパにしては、下手だな」
「違うわよ。まあ下心アリってのは認めるケド」
そう言って荷物を揺らして見せる。
「はぁ…。まっ、良いケド」
「やった♪ さんきゅ。どこでお茶したい? バイト代出たばっかだから、好きなとこで良いよ」
「その出たバイト代、すでに本に代わったんだろ?」
…おっしゃる通りデス。
「大体キミは本の事になると、理性が消えすぎる」
そう言いつつキャリーバッグと肩にかけていた二つのバッグを持ってくれる。
「…で、今日はどんな本を買ったんだい?」
…それが狙いか。
「それはまあ…お茶しながら話すわ」
結局、駅の中にある喫茶店に入った。
友人達と良く利用するコーヒー店で、デザートが豊富だ。軽食の種類も多く、利用する人は多い。
私達は角の窓際の席が運良く取れた。
周りの席から距離があって、話の内容が濃くても聞かれる心配がない。
私はジンジャーエールとハンバーガーセット。
柊は紅茶とサンドイッチを。
「相変わらずスゴイ量を買うんだな。インターネットでも買えるだろう?」
「本は実際、自分の眼で見て、自分の手で取った方が購入した時の嬉しさは上。それに購入特典が付いたり、ポイントが付くのは店だけだから」
「まっ、一理あるね」
柊は肩を竦め、紅茶を飲もうとして、手を止めた。
「ああ、そう言えば…。最近話題になっているケータイ小説のこと、知ってるか?」
「ケータイ小説?」
…まさか、な。
「ああ。最近、問い合わせが多くてな。人気のあるケータイ小説が本になっていないのか、とな」
「…へ~。でもそんなに簡単に文庫化は出来ないでしょ?」
「自費出版ならともかくな」
「そんな一か八かの賭けみたいなもん、滅多にやらないわよ」
「まあな。でもスゴイ人気らしくて、ウチの部員達も浮き足立っている」
「へ~」
「まあ里桜くんは興味が無いかもしれないな。何せ恋愛小説だから」
「んぐっ」
ぱっパンがノドのおかしなところにっ…!
「確かペンネームが…『REN』だったか?」
「ごほっ!」
流し込もうと飲んだジンジャーエールが、またヘンなところにっ!
「短編小説集を書いているらしい。まあ僕は読んだことないんだが、かなりおもしろいらしい」
「ふっフーン」
ごほごほっ言いながら、私は興味の無いフリをした。
「でも今度読んでみようかと思ってる。かなり人気があるみたいだしな」
「へっへぇ…」
柊の笑顔が眩しい…。
「キミも良かったら読んで見たらどうだい? 勉強になるんじゃないか?」
…コレは嫌味だな。
「余計なお世話。アンタこそ、良く読む気になったわね。そういうミーハーというか、流行ものって好きじゃないじゃない」
柊は私と同じく、自分の感覚しか信じない。
周りがどんなに騒ごうが、自分の信念を曲げないタイプだ。
「まあいつもなら、そうなんだけどな。何せ運動が起こるぐらいだから」
「運動?」
ファンの集いみたいなものだろうか?
「ああ、文庫化希望運動」
「ぶっ!」
俯いて吹き出した。
「何でもファンの読者が始めたらしい。それを聞いて出版社も動いているみたいだしな」
だからかっ! あのメールの数々はっ!
「近く文庫化するなら、先に見てても良いと思ってな」
「そっそう…」
見る見る血の気が引いていく。
私の知らぬところで、そんな動きが…。
「じっじゃあ読んだら、感想聞かせて。それでよかったら、読んでみるわ」
「そうだな。でも時間がかかるかもしれないぞ? かなりの本数、書いているみたいだしな」
「構わないわよ。待つ時間はたっぷりあるから」
そう言って買ってきたものを横目で見た。
「そうか。…にしても、相変わらず一人で買い物か。寂しくないのか?」
「前は友達を誘ってたんだけどね。流石に嫌気がさしたみたいで、怒られた」
「キミは趣味のことになると、周囲を気にしなさすぎだからな。そんなんだから、彼氏の一人もいないんだな」
「お互い様でしょう! アンタだって、土曜日の昼過ぎに一人じゃない!」
「僕はこれから中学時代の友達と会うんだ。先に来てたのは、本屋に寄る為だし」
「私と大して変わらないじゃない。柊だって彼女いないじゃない。…今は」
コイツ、実は結構モテる。
けれど生真面目な性格のせいか、よく終わる。
主に女の子が嫌気がさして。
「まっ、別にいなくても何ともないがな」
「私だってそうよ。一人を楽しんでいるんだから」
そう言うと柊は可哀そうな人を見るような眼で、私を見た。
「…寂しくないか? それ」
「よっけーなお世話! 友人はいるし、悪友もいるから充分なのよ!」
「悪友…ってまさか、それって僕かい?」
「アンタの他にもいるわよ。安心なさい」
「他ってねぇ…」
私はハンバーガーの最後を口に押し込み、ジュースで流し込んで食べ終えた。
「ごっそーさん」
「相変わらず女らしくない」
「ちまちま食べてると、横取りされるわよ」
そう言いつつ、柊の皿に残っていたイチゴサンドを掴んだ。
「あっ!」
そして口の中に押し込んで食べる。
「ご馳走様」
ニッコリ笑顔を見せてやる。
「ったく…。キミを相手にしていると、退屈しないよ」
柊も紅茶を飲み干し、私達は立ち上がった。
電車まで柊は送ってくれた。
「時間、大丈夫?」
「ああ、まだ余裕がある。しかし…駅についてから、大変じゃないのか?」
「自転車あるからヘーキ。今日はどうもね」
「こちらこそ、ご馳走様」
電車の中に荷物を入れ、柊とはそこで別れた。
動き出す電車の中で、柊のことを思う。
別に恋愛感情は無い。
けどとても付き合いやすい。
お互い本が好きだし、何でもサバサバ言い合える。
だけど…まさか柊まで『REN』に興味を持つとは、な。
それに文庫化運動って…。
帰ってから、パソコンで調べてみなければ。