お昼休みでは…
休み時間にも、お昼の食堂でも、生徒達はケータイをいじっている。
まあ『REN』の小説を読んでいるとは限らない。
こういう自意識過剰はよくない、よくない。うん。
私は昼食を食堂で友達と済ませてから、図書館へ向かった。
校舎とは続きで別棟の図書館は、学校が誇るほど本の量が多い。
私にとっては楽園そのもの。
私は読む本のジャンルは問わない。
気分のままに、何でも読む。
今日は気分的に江戸時代の本と、…いちおうケータイ小説の為に、恋愛小説でも読むか。
歴史書は四階、現代書は一階。
先に歴史書を借りてから、一階に下りた。
学校はタダで本が読めるのが良い。
私はバイトをしているけど、お小遣いを合わせても足りないぐらい趣味に使っている。
だからタダというのは素晴らしい。
二年生になった今、卒業までに全部は制覇してみたい。
私の密かな野望だ。
…ととっ。それはまあ置いておいて。
私は最新刊の恋愛小説の本棚を見た。
人気のあるものは、すぐに借りられてしまう。
まあ別に強く読みたいとは思わないけど、小説を書く時の資料になる。
最近の恋愛小説はなぁ…。修羅場のシーンが多くていけない。
何かパターン化している気がする。
どろどろしたシーンが濃すぎて、読んでいて辛くてならない。
最後はハッピーエンドで、何ていうのもありきたりになっている気がする。
小説に関わらず、マンガもそういうのが多い。
読んでいて楽しくないなんて、私にとっては邪道だ。
本は確かに読む者を学ばせるという意味がある。
けれどそんな谷底ばかり見せても、夢も希望も無くなってしまう。
だから私はあえて、非現実的な青春恋愛を描く。
…まあ一部、ちょっとアレな部分がある時もあるけど、全体として見れば、読者が今朝見せた友達のように笑顔にさせる作品作りを意識している。
私がそういうのが好きだから。
それを現実にさせているのならば、私の文才もたいしたものだろう。
「さて、と…」
本棚はほとんどカラだった。
…どうやら恋愛小説ブームが密かに(?)訪れているみたいだ。
それでも残ったのを探していると、ちょっと前に流行った本があった。
見たかったけど、貸し出されていて読めなかった本。
ドラマ化もしてた。見てた。
コメディ色が濃くて、恋愛は二の次っぽかったけど、悪くはない。
よし、コレにしよう。
そう思って手を伸ばすと…。
「あれ? 里桜くん」
図書委員の柊が声をかけてきた。
今時珍しい文学少年。
…そして私の密かなライバル。
お互い国語力が強く、文章力で賞を取ることに火花を散らしていた。
「…柊。何? 借りたいの?」
「ううん、僕はもう読んだ。でも珍しいね、里桜くんがそういうの読むなんて」
「私は年頃だから。アンタこそ、こういうの読むんだ」
そう言って本を手に取り、見せた。
メガネの奥の目が、わずかに細くなった。…楽しんでやがるな。
「その作家、物語の筋がちゃんと分かりやすくて好きなんだよ。でもキミが年頃、ね。そういう言葉が出る人格じゃなかった気がするけど?」
頭の中で、何かがカチーンと鳴った。
…別に今時の女の子らしくないことは、自覚している。
けれどコイツにだけは言われたくない!
「…私は本が好きだから。いろいろと読んで勉強しているのよ」
でもあえて作り笑顔で、応戦する。
「へ~。恋愛についても?」
「人は一人一人、考え方が違うからね」
「そうだね。キミと僕も違うしね」
「同じにしないでくれる?」
お互い不穏な空気を撒き散らしながら、笑い合う。
「せっ先輩! カウンターの方、手伝いお願いします」
見かねたのか、一年の図書委員が声をかけた。
「分かった。里桜くんはどうする?」
「じゃ、お願い」
本を預けて、歩き出す。
「ああ、そうだ。キミが先月出した本のリスト、通りそうだよ」
「えっ、ホント? やった♪」
この学校は図書館で借りたい本を、書類に書いて出すと認められることがあって、借りれることがある。
私は毎月、リストにして提出していた。
そして入った本はまず、書類を出した本人が一番最初に借りられる特権を与えられる。
本は何冊借りてもOKなので、来月が楽しみだ。
「キミが出す本のリスト、生徒達の間でも人気だからね。キミが勧める本にはハズレが無いと」
「あるワケないでしょ。私が勧める本なんだから」
そういうと柊は笑った。この笑いはキライじゃない。
「相変わらず本のことに関しては熱いね」
「そこはお互い様でしょ? 本オタクなんだから」
「…言い方は悪いけど、意味は納得できるよ」
そう言って私の本を貸し出し処理してくれる。
…何だか私の本の番の時って、いっつも柊が相手のような気がする。
それだけ天敵扱いされているってことかもしれない。
「はい。貸し出し期間は一週間」
「分かっている。明後日には返す」
踵を返す私の背後で、柊が笑った。
…ヘンなヤツだ。