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恋愛小説家のススメ!  作者: mimuka
12/18

桂木とのデート

「もう恋愛の話はやめて。苦手分野のことばかり話していると、気分悪くなる」


「それはゴメン。でも付き合うことは真剣に考えといて」


…どう聞いてもウソっぽく聞こえてしまうのは、長い付き合いのせいだろうか。


「さて、ご機嫌を損ねたお詫びに、映画が始まるまでお茶でもしようか」


「奢り?」


「当然」


笑顔で肩を竦める桂木を見て、私は表情を緩めた。


「…なら映画館の前の喫茶店が良い。デザート豊富だから」


「OK。それじゃ、行こうか」


再び肩を抱かれる。


…まあ、イヤじゃないけどさ。


喫茶店は女の子が多かった。


しかし私達が入るなり…店中の女の子達の視線は一気にこっちに向いた。


いっイタイっ! この視線はマジでイタイ!


「いっいらっしゃいませ! お客様、2名様ですか?」


店内の奥から、恐るべきスピードで女の人が出てきた。


この店の制服はメイドっぽいな。


女の人の目線は桂木に向いている。


おいおい…。見た目に騙されるなよ?


「ええ」


「それじゃご案内いたします」


女の人に案内され、連れてかれたのは店の奥。少し段差があって、ある意味…目立つ席だ。


「メニューがお決まりになりましたら、お呼びください」


「はい」


女の人は終始桂木に視線を向けたままだった。


私はテーブルに置かれたメニューに眼を通す。


まっ、桂木と一緒だといつもこうだ。


周囲の女の子達も、桂木を見ながらヒソヒソ話をしている。


素知らぬ顔でいるのは、私と桂木本人ぐらいなものだ。


「へぇ。ホントにスイーツの種類が多いね。里桜、どれにする?」


「ホットカプチーノとチョコレートサンデー。桂木は?」


「ん~。ホットコーヒーとイチゴのタルトにしようかな」


桂木はわりと甘い物好きで、スイーツ食べ放題の店とかも連れてってくれる。


しかし桂木がそう言うなり…。


「お冷です!」


…さっきとは別の女の人が、水が入ったコップを二つ、トレーに乗せてやって来た。


「ありがとう。注文、いいかな?」


「はい!」


桂木は注文を言って、女の人は終始笑顔でその場を去った。


…素早い動きだな。


「お待たせしました!」


そして来るのも早っ!?


てーかさっきの女の人とは別の女の子!?


「ありがとう」


「ごゆっくりどうぞ!」


…そしてまた去って行く。


「じゃあいただこうか」


「うん…」


何はともあれ、いただこう。


私は長いスプーンを手に取り、サンデーを一口。


「うん、相変わらず良い味♪」


チョコレートは甘過ぎず、香り高い。


その反面、ソフトクリームは少し甘い。


絶妙な味の組み合わせが、とても良い。


「里桜、僕にも一口」


「ああ、うん」


私はスプーンに多く乗せ、桂木の口元に運ぶ。


「ホレ」


「あ~ん」


「…気持ち悪いな」


「ひどっ…って、んっ…。あっ、ホントに美味しいね」


「そうでしょう?」


私は紙ナプキンで、桂木の口元を拭く。


…何だか弟の世話でもしている気分だ。


一人っ子なのに。


「じゃあ里桜も、はい」


桂木がフォークでタルトを切って、差し出してきたので、食いつく。


「なっ何だか色気がない食べ方だね」


「んなもん、私に求めるな」


どーせ犬がエサに食いついた図でも頭の中に浮かんだんだろう。


桂木の固まった笑顔はほおっておき、私はタルトを味わった。


甘酸っぱいイチゴに、ほど良く甘いクリームと、サクサクした生地が合っていて、美味しい。


「うん、美味いな」


「どれどれ、僕も食べよう」


二人して、黙ってスイーツを食べた。


やがて映画の時間が迫り、店を出た。


あっ、店を出ても、視線が刺さっている気がする。


「ちょっと待ってて」


「はいよ」


映画館の前で、桂木が電話をする為に少し離れた。


何かと忙しいらしい。金持ちは大変だ。


「お待たせ」


「…アレ? 里桜」


桂木の後ろにいる女の子は…。


「あら、お久し振り」


「やっほー! 元気してたぁ?」


彼女は私とは違う制服を着ている。


昔、同じ中学だったコだ。


ニコニコと上機嫌の彼女の手には、今まさに、私達が見ようとしている映画のパンフがある。


「あれ? それ見たんだ。私達は今からなのよ」


「うん! おもしろかったよぉ。…って、私『達』?」


彼女は首を傾げ、ふと前にいる桂木に視線を向けた。


「はじめまして」


「あっ、はじめまして!」


…ちなみに彼女と桂木は同じクラスになったことはない。


つられて私も彼女と同じクラスになったことはないのだが…結構親密な付き合いをしている。


「里桜のお友達?」


「はい! 里桜はあたしの恩人なんです!」


ぎくっ。


彼女は握り拳を作り、目をキラキラさせた。


「里桜、ヤク漬けでボロボロだったあたしを立ち直らせてくれたんです! 里桜がいなきゃ、あたし、きっと病院送りだった」


「おっ大袈裟な…。それよりもうちょっと声低めて。周囲の視線がイタイ」


「あっ、ゴメン!」


彼女は口を手で塞いだ。


しかし意味ありげな視線を私と桂木に向ける。


「ちなみに二人は…」


「恋人です」


「古馴染みだっ! 勝手に関係を捏造すなっ!」


「間違えたね。僕の勝手な希望です」


「桂木ぃ~」


思いっきり怨念を込めて、桂木を睨み付けた。


「じゃ、お邪魔しちゃ悪いわね。ねぇ、里桜。今晩電話して良い?」


「うっうん」


「じゃあね!」


彼女は笑顔で手を振り、去って行った。


その後、無言で桂木と映画館に入り、席に座った。


「あっ、何か食べる?」


「キャラメルと塩のポップコーンとオレンジジュース」


「はいはい。ちょっと待ってて」


「私も行くわ。パンフとかグッヅ欲しいし」


カバンを置いて、財布とケータイだけ手に持って、売店へ向かった。


「にしても、スゴイ友達がいるもんだね。里桜」


「あっアレはたまたまで…」


中学時代、私と彼女は同じ図書委員だった。


でも彼女はヤク中になり、私は同じ委員として、図書委員のプリントを届けに行った。


そこでボロボロになっている彼女を見て、何とか力になってあげたかった。


家にこもるだけではヒマだろうし、イヤな考えもしてしまうから…マンガにゲーム、アニメのDVDを貸した。


そして三ヵ月後。


彼女は見事ヤク中から抜け出し、再び登校してきた。


…オタクとして。


「何だかスゴイ話だね」


「あっああなるとは思わなかったのよ」


「でも良い復活の仕方じゃないかな。随分明るくなってたし、生きてて楽しいオーラが出てた」


「まあね。彼女の両親も喜んで、お礼言いにきたけどさ」


…しかしオタクとして復活…。


なっ何か方向性が怪しくなった気がしなくもないけど、彼女は幸せそうだし、一件落着だと思う。


新しい高校でも、友達が増えたって喜んでたし。


「スゴイね、里桜。オタクは人や世界を救うんだね」


「…その言葉、ケンカ売ってるとしか思えないわよ?」


桂木はポップコーン二つを持って、苦笑した。


―その後、グッヅやパンフも桂木に買って貰った。


映画を見て遅くなったので、桂木が実家から車を呼んで、帰りを送ってもらった。


「今日はありがと。楽しかったわ」


「うん、ボクも。あと今日言ったこと、真剣に考えてみてね」


今日言ったこと…ああ、付き合う、うんぬん。


「はいはい。それじゃ、オヤスミ」


「オヤスミ。また明日」


…ヤレヤレ。今日は何かと疲れたな。


家に入るとすぐに晩御飯を食べて、お風呂に入って、自室に戻った。


そしてPCを立ち上げる。


ケータイ小説サイトに行くと、やっぱりスゴイ読者数と、本にしないかと誘いのメールが来ていた。


「ふぅ…」


まっ、嬉しくないことはないけどさ。


でもあくまで私が書いた小説は、経験から書いたものではなく、計算で書いたもの―。


何だか心が痛む。



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