人気の恋愛小説家は…
「ねぇねぇ、見たぇ? 今朝、更新されてたよ」
「え~、マジ? まだ見てない~」
朝、教室へ入ると、クラスの女の子達がケータイ片手に騒いでいた。
「おはよ」
「あっ、はよ~」
「おっは。里桜」
自分の席に座り、欠伸を一つ。
「ね~ね~。里桜も読んだこと、ある?」
「何を?」
「このサイトの小説よ!」
そう言って友人が見せてきたのは、ケータイの画面。
そこにピンク色のサイトが映し出されている。
「…朝からピンクはやばくない?」
「ちっ違うわよ! 良く見て!」
ズイッと前に出してきたので、しょうがなく見てみる。
「…ああ、見てる見てる」
小説サイトだ。素人でも簡単に小説を書ける場。
「うんうん。それでね」
友人はケータイを操作し、ある作家のHPを出した。
「この人の作品は?」
落ち着いた桜色の背景に、白い蝶々が舞っている。
そこには『REN』の文字。
そしておびただしいほどの訪問者数…。
…ヤバイな、この訪問者数は。
「今、すっごい人気なのよぉ。『REN』の小説」
「甘~い恋愛ストーリーでね、すっごく読みやすいんだ!」
「こんな恋愛、してみた~いってカンジ?」
…朝から元気だこと。
私は友人のケータイを取って、作品の一覧を見た。
今は7作品を登録している。
そのうち、まだ執筆中なのが3作品…。
「更新が早いのがまた良いよねぇ~」
「本になったらもっと良いのにぃ」
読者数は、と…。
……エライ数字になっているな。
今朝、更新したばかりなのに。
「里桜も読んでる?」
「私はホラー/オカルト小説を読んでる。愛読は実話」
「うっ…」
「ひっ!」
途端に友人が青い顔をした。
とりあえず、訪問者数と読者数は確認した。
ケータイを友人に渡す。
「どーせ暇潰しの小説書きでしょ? こっちも暇潰すつもりで読んでる」
「あっ相変わらずクールね。でも! 『REN』の小説は違うわよ!」
「そうよ! すんごく人気あって、レビューの数もスゴイんだから!」
「ふぅん…。でも私、恋愛に興味ないんだ。現実はね。本でもお笑いがあれば好きだけど」
「おっお笑い?」
「恋愛にお笑いを求めるタイプなのね」
「うん。ただ甘いだけじゃ、飽きる」
きっぱり言うと、今度は言葉を失くした。
そして鐘が鳴り、二人は自分の席へと戻った。
……でもこんな私だけど、文才はある。
自意識過剰ではなく、周囲もそう評価してくれる。
そう、私が『REN』だ。
今、ケータイ小説サイトで人気の恋愛小説家・『REN』は私のペンネーム。
………ヒマ潰しとしてはじめたのに、こんなに話題になるなんて…。
「どうしよう…」