第9話
リンちゃんの家族は救えなかったけれど、リンちゃんを救うことは出来ただろうか。
初めから親がいなかった私と違い、初めから親が敵だった琴音と違い、産んですぐに死んでしまったリリアちゃんと違い、リンちゃんは愛し愛された家族を目の前で殺された。
そんな悲劇を味わった少女に生きろと言うのは酷だろう。
自殺とは逃げである。逃げであるが、それは罪ではない。
私や琴音、リリアちゃんが自殺してもサンドバッグの損失を嘆く者はいても私達みたいなのを責め立てる人間はきっと少数である。リンちゃんが自殺しても、それを悲しむ人は国中にいるだろうがそれを逃げだと罵る奴はきっといない。
逃げるが勝ち。これはきっと、自らの死を望む人のための言葉といえよう。
結論
きっと私はリンちゃんが自殺を望んでも止めないだろう。むしろ痛みなく死ねるように協力するまである。
でも、出来ればだけど、私はリンちゃんに生きてほしい。生きて生きて生き抜いて、幸せそうな顔で死んでいってほしい。
「という訳でどう?リンちゃん」
「ふぇっ?いきなりどーしたの?まおーさま頭打った?」
いや、確かに屋根に頭から突き刺さったけども…
場所は魔王城三階、玉座があるだけの部屋。
そこに今回の件の当事者であるリンちゃんと私、ラストさんの3人が即席のテーブルと椅子を囲んでいた。
…あの玉座、そのうち片付けよう。
「リンちゃんはこれからどうしたい?住む家はこの城なり孤児院なり好きに選んでいいけど」
「私は…
私は、強くなりたい!ヘルムートの人達を守れる位に!」
「お、マジで?ちょっとクラークにリンちゃんを鍛えるように言ってくるよ」
「しかし魔王様、大きな問題が一つございます」
「「ん?」」
「ヘルムートには他国のような騎士団や軍隊が一切ございません。
リンちゃんがいくら強くても、それは魔王様が二人になるようなもの。人手が足りないのです」
「「あっ…」」
「それに、そのようなものが必要ない位にこの国の大人は強いのです。
今回のような事はかなりのイレギュラーですから」
「いれぎゅらー?って何?」
「特別という事です。認めたくはありませんが、リンちゃんの家族を殺した奴は〈勇者〉です。魔王を倒す存在とされています」
ん?ちょっとまって…
「ねぇラストさん、魔王になる人達って皆〈最強〉なんだよね?」
「?…はい。そうですが」
「勇者は魔王を倒すんだよね?」
「ええ」
「じゃあ魔王が倒されたことはあるの?」
「そのような事実はあまりございません」
「あまりってことはちょっとはあるの?」
「はい。ですがそれはチェスで負けた。や、賭けに負けた等のステータスが絡まない戦いにおいてのみです。
そのような勝負ならどの世代の魔王様方も負けておられます」
「つまり、ガチバトルでは負けなしってことでいいの?」
「はい。その通りです」
「…まおーさま、それがどうしたの?」
「いや、勇者が魔王より強くなるならこの国を守るために色々しなきゃなって思ったからさ」
「そもそも今代の勇者がおかしいのです。これまでの勇者全約五十名の勇者達は基本的にこの国を見てからは魔族に対し友好的で魔王様の友となることも結構ございます。
実は善良な魔族の方が勇者に殺されるなんて事は初でございます。これは一体…」
ここで私は初めてこの世界に来た時に聞いた話を思い出す。
「…異世界から来てしまった私達は魔王を倒さなければ帰ることはできない」
「まおーさま、それなに?」
「私が来た時に王様っぽい人に言われたこと。まぁ多分嘘だと思うけど」
「ちなみに魔王様は帰る方法をご存知で?」
「いや全然。帰ろうと思ったこともないし」
「なんで?まおーさまは家族大事じゃないの?」
「私の家族は琴音だけなの。友達も出来たのはこっちに来てからだしね」
「向こうにはいなかったの?」
「うん。向こうにはね、あの勇者みたいな奴がたっっくさん居たの。そんな奴が当たり前に正義の裁きを弱者にガトリング。とてもじゃないけど生きてはいられないようなところだった」
「魔王様、それどんな世紀末ですか」
「むしろ21世紀が始まって少しくらいだった気が…」
「まおーさま、それ多分意味違う」
さてさて、話が脱線してきたけどこれからすべきことはヘルムートの国民を守るための組織を作ること。ってことでいいはず。
「ねぇラストさん、ヘルムートに飛び抜けて強い人って誰がいる?」
「そうですね…
まずは魔王、希依様に前魔王クラーク様、鬼神と人間のハーフで理解者でもあられるマフィ様、自動人形の私。
それから魔法店『ラッキー・マジシャン』の店長ロット様、ヘルムート国立学校校長兼理事長の熱々おでん様、食事処『卵王』の店長の愛子様、玩具屋『和玩具』の店長の源次郎様
…とりあえずLvMAXの方はこのくらいでしょうか。
琴音様はレベルはMAXですが筋力等が獣人のLv50相当なのでどちらかと言うと指揮官ポジですね」
「んんーちょっとまって?もしかしてその人達って元魔王だったりする?そして熱々おでんって名前?」
「おや、もしかしてもうお会いになられていましたか?」
「いや、多分誰とも会ってないと思うけど」
いやだって皆名前が日本人だし…いや熱々おでんは日本人か?
「おや、そうでしたか。
ロット様は四代目、熱々おでん様は七代目、愛子様は十一代目、源次郎様は六代目の魔王様にあられました。それぞれ引退なさった後は各々のやりたい事をして暮らしております。お会いになられますか?」
「いや、今日はもう疲れたからいい……いや、卵王に行こう。お腹空いた」
「…今はお昼前、行くなら今のうちですね」
だいたい11時頃。
魔族地区の比較的魔王城の近くに位置する卵料理専門の定食屋、『卵黄』はまだ昼前にもかかわらず店内は賑わっていた。
「いらっしゃーい。3名ね、奥があいてるよ」
私とリンちゃん、ラストが店内に入ると割烹着を身につけ、首にマフラーを巻いた黒髪ロングの女性が出迎えた。
「お久しぶりです。愛子様」
店員さんをラストは『愛子様』と呼んだ。ということは…
「ん?……あぁラスちゃんか、おひさだね」
「ご紹介します希依様。こちら十一代目魔王の無刀 愛子様です」
「ん。ん?ってことはこの子が新しい魔王の子?」
「えぇ。こちら十四代目の魔王、希依様です」
「へぇ」
ラストが元魔王、愛子に私を紹介すると愛子は私を品定めする様にぐるりと移動しながら眺める。
「えと、なにか?」
「ん?あぁ、いや、ゴメンゴメン。ラスちゃんが言ったけど私は元魔王で今はこの店の料理長をしている愛子だ。種族はこの通り」
そう言うと愛子は両手で頭を掴み持ち上げると、なんと彼女には首が無く、頭部は持ち上がり浮遊し、希依の目の前で停止する。
「…デュラハン?」
「あっはは~。おしい、私は『ろくろ首』という妖怪だ」
あれ?ろくろ首ってたしか……
「ろくろ首って首が伸びるんじゃなかったっけ?」
「あまり知られてないことだけどね、ろくろ首には首が伸びる奴と首が無い奴の二種類がいるんだよ。
ちなみにクラ坊とは同期だ。こっちに来たタイミングに何千年だかの差があって私の方が大分年上だけどねー」
「へー。
私は見ての通り人間。…死んだら神になるらしいけど」
「ほう?そりゃ面白い。
さて、注文はなんだ?今日の私は機嫌がいいのでな、奢ってやる」
「私は目玉焼きと卵サンドをお願いします」
ラストはthe朝食な物を注文。昼だぞ?
「私はオムライス!」
リンちゃんはオムライス。可愛い
さて、私はどうしよう…か…あれ?
「あの、メニューは?」
「ん?あぁ、いらんいらん。卵料理なら好きなもん注文していいぞ」
「そう?じゃあ卵焼き、甘めで」
「りょうかーい。すぐ出来るからちとまっとれよー」
そう言って愛子は厨房に向かって行く。
「…なんて言うか、軽い人だね」
「えぇ。というか魔王様方は皆さん揃ってあんな感じです」
「子供には人気ありそうだね。リンちゃんから見てどうなの?」
「カッコイイと思うよ?」
「ふーん。
ねぇ、あの人はどんな我儘を通したの?」
「愛子様はですね、この国の食文化を急激に発展させてくださいました。
愛子様が魔王に就任なさる前のヘルムートの食事は基本的に野良の魔物を焼いたりサラダにしたりが基本でしたから」
なんとも野性的だ。
「おまたせー。ラスちゃんは卵サンドに目玉焼き、リンちゃんはオムライス、希依ちゃんは卵焼きだったかな?」
愛子が厨房に戻って一分程度。右手に卵サンドと目玉焼き、左手にオムライス、胸元辺りで浮かぶ頭の上に卵焼きを乗せてやってきた。
いや、速すぎるでしょ。
「速っ!?」
これが普通なのかと思ったがリンちゃんが驚いてるのを見るにやはり速いのだろう。
「愛子様、少々衰えましたか?」
「「これより速かったの?」」
「いや、違うから。私だってちゃんと卵を使えばこれくらいはかかるから」
愛子のセリフを聞いて私はある技能を思い出す。
「あのおもしろ手品?」
「あっはー。私があみだしたレシピを手品と言うか」
愛子は苦笑い浮かべながら呟く。
「いや、あれをレシピというのもどうかと思うけど…」
「ほらほら、暖かいうちに食べて食べて」
あ、ごまかした。
とはいえ私は卵焼きを一切れ口に運ぶ。
なにこれうま!
程よく焼けた表面を噛み破ると内側はトロトロでほんのり甘じょっぱい醤油の味が口の中に広がる。
もっと早くここに来ればよかった。
横を見るとラストとリンちゃんも幸せそうな顔で料理を食べていた。
「で、君らは何をしにうちに来たんだい?まさか、魔王がメイドと子供を連れてご飯を食べに来た。ってわけじゃないんだろう?
一体何があったの?」
私とラストさんとリンちゃんが座っている席の向かいに愛子は座り、私に尋ねる。
私は今日あったことを愛子さんに話した。
リンちゃんの家族が勇者に殺されたこと。
勇者の目的は魔王を倒し元の世界に帰ること。
リンちゃんは守るために強くなりたいこと。
「ふーん、そう。で、どうしたいの?
リンちゃんの家族の仇を打つなら、私は協力しよう。
ヘルムートの国民の危険を退けたいなら人間を滅ぼすために歴代魔王に声をかけるくらいはしてあげる。
あなたは、どうしたい?魔王様」
「別にどうもしないけど?
今日ここに来たのはお腹空いたからだし。
あ、でもモーゼスだけは滅ぼしたい」
「そっか。うん、そうだよね。私も、私たち魔王も揃って皆そう言うらしいんだ。あの街は初代魔王の代から既に腐っている。
…でも、ここ数万年あの街は腐り切ったままで現存している。なぜだか分かる?」
まさかモーゼスが古くからある街だとは思わなかった。
けど、大抵こういう国や街がなかなか滅ばないのは大きくわけて2パターンだと、私は思う。
「人質をとって脅すか、奴隷を薬物や魔法で強化して戦わせるとか。
…違う?」
「そ。
でも、それだけじゃない。
それはね、あの街には領主が居ないんだよ。
国を追われたならず者や
親も金も家もないなるべくしてなってしまった犯罪者、
人魚やエルフの美しさや幼い獣人の可愛さに取り憑かれた元貴族や元王族の金持ち。
他にも治安の悪さを気に入った喧嘩好きなんかが集まって出来た街。
何度か滅ぶ寸前まで追い詰められることはあったけれど、数年で人口は元に戻ってしまう。
そんな不死身とも言えるような街を、人間は滅ぼさずに、希依ちゃんは滅ぼせるかな?」
「負けないキングと見えないキング。勝つのがどちらか、分かるでしょ?」
「なるほどね。ただ、かなりの長期戦になるよ」
「不死身もどきを殺すコツは死ぬまで殺し続けること。無くなるまで殲滅し続ける」
「面倒くさそうだね、それ。
出来るの?」
「出来るよ。だって私はやればできる子だもん」
「むしろやっちゃダメな子って感じだけどね」
「まぁ否定はしないよ。愛子さんも一緒にどう?」
「いや、遠慮しておくよ。私はこのお店だけで精一杯だからね」
「そっか。
じゃ、そろそろ帰ろっか。ラストさん、リンちゃ…ん?」
私を挟んで隣に座っていたはずの二人はいつの間にか居なくなっていた。
「二人ならデザートを食べて帰ったよ?
希依ちゃんもプリンどう?」
「……食べる。」
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