物々交換
町へとたどり着いたのは深夜であった。
パーティは壊滅したが、ブラストウルフ以前の魔物は大した速さを持たない者ばかりだ。慎重に移動すれば怪我なく帰還できる。
血気逸って一度でも戦闘していれば、レベル1のタクミは今頃木々の養分と成り果てていたであろうが、そのような愚はおかさない。一周目で散々痛い目はみているのだ。
即宿屋へ向かうような時間帯であるが、タクミの向かう先は別であった。
戦闘を行っていないので、そもそも宿屋に泊まるお金がないのである。
向かった先は酒場だ。マスターが声をかけてくる。
「おぉ勇者様、戻ってきたか。夜になっても姿を見かけないって噂になってたぜ。調子はどうだい。」
「まぁまぁだな。予定通りといったところか」
「そうか。ところでルークやキース、ゲイルはどうしたんだ?奥さんが心配していたぞ。」
「三人ならここだ。」
道具箱から蒼白い焔を取り出し、カウンターに置く。
「なっ!?死なせちまったのか?!早く教会で蘇生してやんな!!」
「悪いが手持ちが無くてな。そいつはできない。パーティは解散だ。」
そう言い残し、外へ出るタクミ。
「この状態で解散だと!?前代未聞だぞ!戻ってこい!!」
マスターの怒声が響いたがタクミの心には響かず、足を止めることはなかった。
タクミにはもう1つ今日中に済ませておかなければならないことがあった。
目的の家へ着いたタクミはドアを叩いた。
『ガンガンガン!!!』と近所迷惑になる騒々しさである。
「誰だこんな時間にうるせぇな!!」
ひげ面でガタイの良い男が中から顔を出す。
「夜分にすまないが剣を買いたい。」
「あんたは…勇者か?こんな時間に来て常識ってのはねぇのか?町で噂になってるようにとんだ奇人のようだな」
どうやらタクミの奇行は噂になっているようだ。
「この店一番の剣をくれ。飾ってるのがあるはずだ。」
「こんな時間に来るようなやつに売るもんはねぇな。そもそもあれは売り物じゃねぇ。とっとと帰んな!」
店主はにべもなく断るが、タクミが道具袋から取り出した物をみて表情を変えた。
ソレは一抱えほどの金の女神像であった。道具袋に入れなければ持つことすら叶わない量の金である。
「なっ!!?」
「これと交換と言ってもまだ聞く耳をもたねぇか?」
「。。。。。」
呆然として立ち尽くす店主。が、流石は商売人だけあり立ち直るのも早く「これなら断れねぇ。いや、交換してくれ」と言っている。
「ついでにコレとコレも一緒につけてくれ。あと、朝まで一部屋貸してくれ。食べ物と水もだ。」
裸に革鎧を着た奇人を泊めることに一瞬悩む店主だが、損得勘定を優先したのだろう。タクミの条件を飲むことにした。
「早朝にはここを発つ。宜しく頼む。」
「あぁ、こちらこそ宜しくな。っと、この女神像を奥まで移動してくれねえか。これじゃ明日店を開けねぇ。」
再び道具袋に入れて女神像を運ぶ。
(持ち運べないのにどうやって換金するんだろう?)
ふと疑問に思ったが、藪蛇になりかねないと思い口にだすことはなかった。
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