ブラストウルフ
町を発ったタクミ達はほどなくして敵と遭遇した。
人間の子供程度の大きさのコボルトで、手には石を砕いて創ったナイフのような物が握られている。
最初期に遭遇するだけあり貧弱で簡単に倒せる反面、経験値は望めない敵である。と言ってもタクミのレベルは1なので数体討伐すればレベルが上がるのであるが。
タクミはコボルトに目もくれず、先を急ぐ。
コボルトは敏捷もイマイチなので、鈍足の戦士達を率いたタクミでも容易に撒くことができた。
次に遭遇したのはグリーンスライムである。
某有名RPGの様な形ではなく、アメーバのようなドロドロした流動体である。この世界のスライムは体内に核があり、核を破壊しないと死ぬことはない。核を傷つけずに攻撃すると、やがて核ごと分裂、増殖する厄介な性質がある。
増殖を逆手にとり経験値を荒稼ぎする方法もあるが、グリーンスライムの増殖率はいまいちである。せいぜい十数回攻撃してようやく分裂するといったところであろう。
こちらもコボルト同様に大した経験値は持っていない。
今回もタクミは敵を無視して先を急ぐ。
その後も10を超える敵と遭遇するが、ただの一度も交戦することはなかった。
「勇者サマ、かなり遠くまで来ちまったがどこへ向かってるんだい。日もかなり傾いてきちまったぜ。」
「そろそろ見えてくるはずだ。この先にある湖が目的地さ」
ルークの問いにタクミが答え、戦士達三人の顔に少し生気が戻る。敵を討伐するわけでもなく、ただただ行き先も知らされず行軍することに不安感を覚えていたからだ。
ほどなくしてタクミの言葉通りに湖が見えてきた。
「ここからが正念場だ。なるべく長い時間食い止めてくれよ」
「食い止める?勇者サマ、一体なんのことだ?」
碌な説明をしないタクミの一言に一層不安が煽られる。
その時湖畔から影が二つ飛び出してきた。大型犬くらいの大きさの狼、ブラストウルフだ。体に魔法の風を纏って突進してくる。その動きはコボルト等とは比較にならないほど素早く、逃げることは難しそうだ。
「あの勢いのまま直撃を受ければ一撃で死ぬぞ。キースとゲイルは盾を構えて、力を逸らすように受け流してくれ。」
無口な戦士キースとゲイルは混乱していたが、すぐに我にかえりタクミの指示通りに盾を構えて攻撃に備える。呆けていては目の前の暴威に一瞬で命を刈り取られることを感じ取ったのであろう。
「「おおおぉぉぉぉぉ!!!!」」
咆哮を上げて全力で受け流すキースとゲイル。巧く力を逸らすことには成功したが、ブラストウルフの纏う風に切り刻まれた二人の左半身は既にボロボロだ。
「よし今だ!!ルーク、俺の後に続け!!」
力強いタクミの声を切っ掛けに反撃に移る。かと思われたがブラストウルフを置き去りに、キースとゲイルさえも置き去りにして湖へと駆ける。
ブラストウルフの纏う風は攻撃のみならず防御にも効果を発揮する。動きを止めた所を斬りかかったところで今の攻撃力では歯が立たない。そもそもタクミは剣やナイフすら持っていないのだが。
(この辺にあるはずだが。。急がないと)
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