ポーション調達
二周目の王の言葉全てを聞き流し、謁見は終わった。
得たものは安物のナイフと小さな盾と銅貨200枚だけである。
(仮にも勇者扱いするならもっとちゃんとした装備をよこせよな。この扉の向こうにはしこたま宝具があるってのに。。。)
タクミは恨めしそうに宝物庫の扉を睨んだ。
余談ではあるが、タクミとはこの世界での霜月巧の呼び名だ。
RTAと聞いて『あ』のような一文字の呼び名にしようかと考えたが、タクミの精神が崩れ落ちそうな気がしたため止めた。
そもそも「俺の名は『あ』だ」なんて言うと聞き返されたり揶揄されたりして余計に時間を食いそうだ。
斯くして霜月巧は素直にタクミと名乗るようになった。
(まずはポーションを確保するか)
そう考えたタクミは道具屋に向かう。。。ことはせず古ぼけた民家に入った。
「あら勇者様。もう王様との謁見は終わったのですか?」
「あぁ、ついさっき終わったばかりだ。今は旅の支度をしている」
「支度、ですか?」
老婆の問いを尻目にタクミは壺をあさり、ポーションを取り出した
「えっ?」
「えっ?」
「勇者様。そのポーションは?」
「拾い物だよ。宝箱みたいなものさ」
「いやいやいや、どう考えてもうちの私物でしょう」
(急に口調が変わったな)
そんなことを考えながら別の壺からポーションを拾うタクミ。
「話を聞かんかい若造が!」
キャラ崩壊する老婆から逃れるようにタクミは家を出た。
(やれやれ、ポーションを集めるだけで随分とヘイトを稼いだようだ)
その思考とは裏腹に、目的を果たしたタクミの足取りは軽かった。
次へ向かうは防具屋である。
「勇者様、何を買っていきますか?」
「これを買い取って欲しいのだが」
そう言ってタクミはナイフと布の服を渡す。
王から貰ったアイテムはナイフと盾だけである。
つまりタクミはすっぽんぽんであった。変態である。
「。。。。。」
絶句する店主。今だかつてこのような買い取り方をさせる者はいなかった。これからも現れることはないであろう。いや、現れることは無いと信じたい。
そもそもこの服は洗わずに売るのであろうか。
「買い取り額はいくらになるんだい?」
タクミの声に我にかえった店主は手早く査定を終える。変態を前にしてもしっかりと仕事はこなすのだ。プロの鑑である。
「銅貨150枚になります」
「では買い取ってくれ。それと革の鎧をもらおう」
買い取り額と王から貰った銅貨をはたいて革の鎧を買う。
裸に革の鎧を着る勇者という名の変態が爆誕した。おまけに文無しである。
防御力は上がったが、少し汗をかいただけでかぶれそうである。
(さて、次は仲間集めだ)
酒場へと歩いていく変態を店主は呆然と見送った。