遅延魔法
しばらく進むと今度はグリーンスライムに遭遇した。
「タクミさん、今度はブレイズ使ってみていいですか?」
いつの間にか呼称がタクミさんになっている。心境の変化でもあったのだろうか?
「あぁ、ブレイズのイメージも基本的にはホーリーレイと同じく利き手と敵を繋ぐ感じだ。後は弾速もイメージで大きく変えられるぞ。留める様なイメージをすれば壁やトラップのような使い方もできる。今回はなるべく早い弾速をイメージしてみてくれ。」
(速い弾速。。。押し出すようなイメージかな?)
「ブレイズ」
フィーナの掌から、ブラストウルフ程の速度の火球が撃ち出されグリーンスライムは蒸発した。
「意外とブレイズの弾速も速いんですね!」
「フィーナのイメージが良かったんだろうな。ところでもう一つ試してほしいやり方があるんだが、まだいけそうか?」
「魔法のイメージをするのに頭を使ってしまってちょっと疲れてしまいました。あと少しだけならいけそうです。」
「わかった。使う魔法はホーリーレイでもブレイズでもどっちでもいい。発動のイメージをしつつ留めることはできるか?弓を引いた状態を思い浮かべてくれ。」
フィーナの掌に魔力が集まる。
「できました!でも少し気を抜くと発動しちゃいそうです!」
「そのままその魔法を空間に留めて移動できるか?」
「(空間に留めて。。。移動っと。あれ?体から魔力が抜けた?)あっ?!」
フィーナから少し離れた空間からホーリーレイの光が迸った。
「何もない空間から光線がでたわね。」
「少し集中が切れただけで発動しちゃいました。凄く難しいですねコレ。」
「使いこなせれば奇襲時にホーリーレイやブレイズを複数同時に叩き込んだりできるようになるんだ。それと、体から離れた魔力は感知しにくいから罠のようにも使える。回復魔法にも流用できたりと非常に役に立つ技術だから、普段から意識して使ってくれ。」
「遅れて発動する魔法なんて初めて聞いたわ。こんなに使い勝手の良い魔法なら高名な人達が使っていてもおかしくないのに。秘匿された技術なのかしら?」
「…限られた人間しか使えないからな。酒場にいた連中で使えるやつは皆無だ。」
「遺伝や信仰によるものかしら。フィーナの親は冒険者なの?」
「いえ、雑貨屋を営んでるだけですし、昔に旅をしてたなんて話も聞いたことありません。特別何かを信仰したりなんてこともないですよ?」
「まぁ細かいことは気にするな。フィーナがこの技術、遅延魔法を使えるって事実だけありゃ十分さ。」
「…何かはぐらかそうとしてないかしら?」
実は酒場やイベント等正規に仲間に出来るものは一切遅延魔法を使用出来ないのであるが、そんなことを伝えても争いの種になるだけだ。習得条件がなぜそんな内容なのかだとか、この世界がゲームのように作られた世界なのかだとか、じゃあ私達は役目を与えられた人形みたいなものじゃないかだとかろくな話にならないのは目に見えている。見えている地雷を踏みぬくほどタクミはドMではない…とも言い切れないが今回は避けたようである。
「んなことねぇよ。さ、遅延魔法の練習しながら帰るぞ。」