プロローグ
「おぉ、そなたこそ真の勇者よ!」
白い髭をたくわえた王の言葉を聞き流し、タクミは昔を思い出していた。
王に対して何と不敬な輩かと思うが、タクミにとっては過去に体験したイベントである。上の空になっても仕方のないことであろう。
思いだすはタクミの世界が変わったあの日。
都内の高校生霜月巧はいつも通りの日常を過ごしていた。
遅刻ギリギリに登校し、眠気と戦いながら授業を聞き、友とゲームやラノベのことで談笑しながら帰途についた。
ふと友の声が途絶えたことに気付き、巧が周りを見渡すと一面白いもやがかかっていた。
友を呼ぶが返答はない。都会の喧騒も何も聞こえなくなっていた。
不安になった巧の前に光が瞬き、神々しい女性が現れた。
(この展開はもしかして異世界転移か?!)
巧は興奮していた。ラノベが好きな巧だが、中でも特にのめりこんだのはチート能力に目覚めた主人公が異世界で無双する王道ファンタジーだったからだ。
『少年よ、貴方にはこれから異世界にて魔王を倒してもらいます』
(きた!!この流れは間違いない!)
「わかったよ、魔王を倒せばいいんだね?それで貰えるスキルは何があるんだい?詠唱破棄?並列詠唱?経験値ブースト?」
『スキル。。。ですか?なんのことでしょう?』
「え?特殊な能力のことだよ!アイテムを収納するアイテムボックスとかさ。」
『あぁ、道具袋のことならありますよ。他に特殊な能力とやらはありませんが。』
「なんだ、偉くケチな女神様だな。でもまぁアイテムボックスがあるだけましか」
『横柄な少年ですね。この道具袋には道具が20個も入るんですよ』
「に、にじゅっこ?たったの20個?!」
『素晴らしいでしょう?そうそう、言い忘れてましたが魔王討伐はタイムアタックです。他の人間達よりも早く魔王を討伐して下さい』
「他の人間達ってどのぐらいいるのさ?」
『神様一柱につき人間一人選定しますからね。かなりの数になりますよ。とある国には石ころにも神が宿っているらしいですし。あれはなんと言いましたか。。。やおよろずのかみ??』
「多すぎじゃねーか!タイムアタックで買った際の報酬は?」
『ありません』
「え?」
『ありません。強いて言えば生き残ることでしょうか。タイムアタックで負けた者は存在が消滅しますから』
「大虐殺かよ!まったく俺にメリットないじゃねーか!」
『暇をもて余した神々の、単なる暇潰しですからね。私たちを楽しませてくれればそれで良いのです。一度だけ説明しますからよく聞きなさい。タイムアタックのチャンスは二回です。二回の内早い方のタイムを採用します。仲間は死んでも甦らせられますが、あなたは死んだら甦りません。タイムは異世界の時刻を参照しますので、時を進める魔法を使えばタイムが悪くなります。ちなみに時を戻す魔法はありません。では健闘を祈ります』
「クソゲーじゃないか!ちょっと!ちょっと待っt...」
巧の周りが急速に闇へと飲まれていく。世界が徐々に色をなし、辺りは宮殿へと姿を変える。
混乱する巧の目の前に現れたのは、白い髭を蓄えた男だった。
「おぉ、そなたこそ真の勇者よ!」