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第84話 ある参謀官の記憶

 

 私が最初に彼女を見たのは、レンジャー教育過程の現場視察を行った時のことだった。

 参謀本部に勤める前は、軍の人事局だったので、まあよくやることだ。


「腕上がってねえぞッ!! やる気あんのかぁ!!!」

「レンジャー!!!」


 先輩のレンジャー教官にしごかれる志望者の面々。

 これ自体はなんら珍しくもない、鬼軍曹が仕切るレンジャー過程の日常風景だった。

 だが――――――


「ティナ・クロムウェル2等騎士! もう休憩か!? 嫌ならとっとと辞めてもいいんだぞ?」


 異物とでも言った方が良いのかもしれない。

 ゴツい男性騎士に挟まれて、金髪の華奢きゃしゃな少女がレンジャー過程に混ざっていたのだ。


「やめま......せんッ!! 続けます!!」

「ならさっさと腕立てをやれ!! あと126回!!!」

「レンジャー!!!」


 その異様な光景に、私は思わず教育隊長へ訪ねていた。


「少尉、あれはいったい......」

「彼女でありますか? 自分も最初は驚きました。まさかよわい12の少女がレンジャー過程に志願するなど初めてのことですからね」

「子供を戦争に送るつもりかね? 誰が許可を出した」


 死者すら出るレンジャー教育。

 それに志願するには、さしあたって許可が必要とされる。

 彼女がここにいる以上、どこぞの狂った誰かが許可を出したということだ。


「はっ! 中佐殿。遊撃連隊の指揮官より直々の許可が下りております、なんでも、アルマ・フォルティシア中佐が出したとか」

「なんだと!?」


 わからなかった、なぜ遊撃連隊のトップがこんな一兵卒の少女と繋がりを持っている?

 相手があいてだ、私も中佐である以上、遊撃連隊トップが出した許可はさすがに取り消せなかった。


「衛生兵を張り付かせておいてくれ、子供を殺したとなるとさすがにマズいからな。訓練の裁量は貴官らに任せる」

「はっ!」


 時間も押していたので、もうその日は駐屯地を後にした。


 その後、彼女が"レンジャー騎士"として遊撃連隊に身を置いていることを知ったのは、他でもないアルマ・フォルティシア本人の口から知らされたことがきっかけだった。


「――――参謀次長閣下、ご無理を聞いていただき申し訳ありません」


 参謀本部に転属となってすぐ、あの"アクエリアス事件"が起きた。

 奪還プランである『オーバーロード作戦』を発動する直前になって、彼女は突如現れ言い放った。


「こちらのレンジャー騎士を1名、空挺部隊に編入してほしい」と。


 結局これはレンジャー騎士が元々足りていなかったこともあり、そのまま飛行船に詰め込むこととなった。

 この急遽入れた騎士こそ、あの金髪碧眼の少女だったのだろう。


 アクエリアス奪還の知らせと同時に入ってきた報告は、今でも鮮明に記憶している。


「ティナ・クロムウェル?」

「はっ! 首謀者連中を一掃し、発動した古代兵器エーテルスフィアを破壊した騎士の名です。一応、大佐殿にお伝えしようと思いまして」


 この時から、私は彼女に興味と関心を抱いていたのかもしれない。

 矢継ぎ早にドラゴンが現れたと聞いた私は、すぐさま命令を出していた。


「遊撃連隊を全軍、王都で待機させておいてほしい」


 即応遊撃連隊トップ。

 アルマ・フォルティシア中佐の執務室で、わたしは彼女にそう告げていた。


「――――了解しました大佐殿、ただ1名を除けばすぐにでも」

「なに、その1名はどうしたのだ?」

「冒険者ギルドに研修へ行かせております。この情勢ですのですぐに迎えをやるつもりですが、いかんせん遠出しておりまして」


 怪訝そうにする彼女を見たからではない、その1名が私にとって本命の人物なのだと無意識に確信していた。


「その騎士の名は?」

「ティナ・クロムウェル3等騎曹です。【古城ルナゲート】に向かったのは把握しております」

「なら、足はわたしが手配しましょう。人員は中佐にお任せしたい」


 なぜこの時、わたしは航空艦隊司令部に問い合わせ、飛行船を使ってまで彼女を迎えに行かせたのか。

 ベルセルク連邦を警戒して近海にいた、第14水雷戦隊に彼女らの収容を要請したのか。


 その疑問は、闘技場で明らかになった――――――


 近衛連隊長、イグニス・ハルバード中佐とティナ・クロムウェルの戦い。

 空いた時間に、私はその勝負を見物しに足を運んでいた。


「一方的だな......」


 来てみれば、やはりというかハルバード中佐が優勢に戦闘を進めていた。

 近衛連隊長を相手になど、無理が過ぎたのだと思い私が出口へ向かおうとした刹那。


「ティナあぁッ!!!!」


 彼女以外の声が響いた。


「負けるなぁ――――――――ッ!!!!」


 傷つき、圧倒され、トドメの最上位魔法が迫る中で、ティナ・クロムウェルのペアが叫んだのだ。


 彼女もまたそれに応えていた、そして発現していた。

 伝説の――――王の力、『血界魔装を』......!!


 そして激戦の末、なんとティナ・クロムウェルはあの近衛連隊長に勝ってしまう。

 信じられない光景に、私の胸は熱くなっていた。


 ドラゴンのように力強く吠え、あのハルバード中佐に勝った少女の姿を見て、胸の中に溜まっていた霧が払拭されたのだ。


「彼女こそ――――未来を切り開く力なのだな」


 間もなくして対ドラゴン討伐プラン、『ゲオルグの槍作戦』を立案した私は、街ごと吹き飛ばす第2プランを危惧する同僚たちへ、両手を広げながら叫んでいた。


「"ゲオルグの槍作戦"、その本命は砲撃でも爆破でもない――――――怪物と言われた男すら倒す、未来を切り開く力によるドラゴン撃滅プランです!」


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