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第80話 強がり

 

「で、どうするのさティナ? マジでドラゴンと戦うの?」


 アルテマ駐屯地の自室、アイリ王女直々にドラゴン討伐を命じられてしまったわたしは、ストレスから来た腹痛に屈してベッドに横たわっています。


「どうするもこうするもないわよぉ......、わたしたちは軍人、やれと言われればやるのが仕事でしょ?」


 自分の認識票ドッグタグを取り出す。

 相変わらずそこには、無機質な生年月日と自身のクラスレベルが記されていた。


「ティナ、今レベルいくつ?」

「"75"よ、思えばここに来るまで色々あったわね。クロエは?」

「わたしは"58"。まだまだティナには追いつけそうにないよ......」

「もっと精進することね」

「ごもっとも、じゃあこれでどうだ!」


 椅子に座っていたクロエが、いきなりわたしのベッドへ入ってきた。


「――――――ッ!! ちょ!? クロエ!!??」


 驚く間もなく、彼女はわたしの体温で温もった布団に潜ってくる。


「えっへへー、1回こうして同じベッドで寝てみたかったんだ〜。なんならこのまま一線を超えたって......はぐっ!?」


 ショートパンツの裾へ手を伸ばしてきたクロエに、至近距離で膝蹴りをかましてやる。

 うずくまったクロエが、布団の中でくぐもった嗚咽おえつを出していた。


「ティナ......、ガチ蹴りはひどいよ......。みぞおちにクリティカルヒットしたんだけど」

「正当防衛よ、この変態騎士!」


 いつもの日常。

 こうしてクロエとバカなやり取りがいつまでもできたら、どんなに幸せだろうか。


「ねぇ......ティナ」

「ん、なにクロエ?」


 見れば、わたしが首からぶら下げていたものを彼女は握っていた。


認識票ドッグタグがどうしたの? 結局ステータス確認や"迷子になった時"くらいにしか使えないのよねー」

「っ......!」

「どうかした? クロエ」


 彼女の黒眼は、疑心の色に染まっていた。


「ティナ、あの時も同じこと言ってたけどさ、そろそろホントのこと言ってよ」

「ホントのことって......?」


 起き上がろうとしたわたしは、不意に掛けられた体重に再びベッドへ戻された。

 自分の両腕をクロエが上から押さえており、押し倒されたのだとわかった。


「クロ......エ......?」

「嘘つかないでよティナ! この二組のドッグタグ......! 迷子のためなんかじゃないんでしょ!?」


 この子がここまで激情するなんて初めてだった。

 それだけに、わたしはあの日――――ドッグタグを渡された後、中佐の部屋へ呼び出された記憶を思い起こす。


 ――――――


『ティナ・クロムウェル騎士長、おぬしを部下として使う以上さきに言っておく。貴官は大人になる前に戦死する可能性が高い』


 それはあまりにも突然で、でも軍人として当たり前のこと。

 いつ死んでもおかしくない、戦場では当たり前の現実だ。


『わたしは中佐に拾われたあの日に、一度全てを失っています。覚悟ができていなければ――――王国軍など志望し、レンジャー騎士にはなっていません』


 わたし毅然としてそう回答した。

 でも、あれを含めて部屋には嘘というものが充満していたのかもしれない。


 子供の強がりという――――


「中佐には......不安を誘うといけないから誤魔化すよう言われたわ、クロエの言う通り。これは片方が戦死した時に使うものよ! でもお互い覚悟はできてるはずじゃない」

「ティナ、覚悟って言うけどさ......ホントはすごく怖がってるんじゃないの!? 自分が死ぬかもしれないことを! ティナ自身が一番知ってて、それにずっと怯えてる!」

「ッ......!!」


 ベッドに押し倒されたわたしの体が震えていた。

 この胃痛もそうだ、わたしは弱い。

 どこまでレベルを上げても、何個勲章をもらっても.....わたしはいつも怯えている。


「それがなんだっていうのよ! わたしは怖がってなんかない! もういいでしょ離してよ!! ドラゴンを倒さないと――――大勢の人達がもっと犠牲になるのよ!!」


 わたしを押さえつけるクロエの力は緩まなかった。


「ティナはわたしが死なせない! ペアとして、友達として......!」


 彼女の瞳は、今までで一番強く輝いていた。

 張り詰まっていた緊張と不安がゴッソリと拭い取られた。


「っ! ......ありがとう」



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