第77話 沈黙の行進
いざ書き始めると1時間で1話書き終わるのに、取り掛かるまでに掛かる時間が"1週間"とはこれいかに......
ロンドニアの地下通路はその設計上、多くの人間の移動を想定してはいるが如何せん狭い。
よって、司令部へ部隊の生存を伝えるのに向かう人数は必要最小限が抽出された。
もっとも、旅団司令部が無事であればの話だが......。
「新入り、お前はこの状況をどう見る?」
僅かな照明しか灯っておらず、薄暗い通路を先導していた軍曹が口開いた。
「状況......ですか? 自分の立場ではあまり言及できません......」
後ろを付いて歩く2等騎士こと新入りくんも、そのおつかいメンバーの1人だった。
「司令部まで長い、ただの雑談だから私見で良いんだよ。男2人で沈黙行進なんて嫌だろ?」
「はぁ......では――――」
忌憚なく述べよと言われては、答えるしかない。
何より2士本人もお固い軍曹と沈黙行進などまっぴらごめんだった。
「まず連中の目的がわかりません、人間の軍隊ならともかく、ワイバーンやドラゴンが都市を占領までするでしょうか? それにアイツら――――――」
「ああ、いやに統制が取れていたな......。まるで人間が操縦してるみたいだったぜ」
軍曹も同じ意見である。
彼らが迎撃した時、ワイバーンは王国軍の飛行船式典で行われる編隊浮上に近い陣形をしていた。
波状攻撃もお見本のようで、編隊を組んでの急降下爆撃などこれまで記録にすら残されていない。
野生というにはいささか洗練されすぎていたのだ。
「ですが、背中には人など乗ってませんでしたし、やはり気のせいじゃないかと思っています」
「いや......以前、司令部からドラゴンを操る少女の話を聞いた。なんでも海軍の水雷戦隊が襲われたらしい――――古城ルナゲートのすぐ傍、ベルセルク連邦の周辺海域でな」
自身の常識をひっくり返すような答えを聞き、2士は思わず足をつまづかせた。
「うわっ!? っとと!」
「おいおい気をつけろよー、ここで怪我して動けなくなるなんて嫌だからな」
「すみません、ただ足元になにか......」
見れば、なにやら硬い出っ張りがちょこんと生えている。
どうやらこいつが犯人のようだ。
「ん? なんだこりゃ」
「わかりません......、って軍曹!?」
なんと、好奇心に駆られた軍曹がその場で出っ張りを掘り起こそうとしていた。
「結構デケーな......、これが表面なんだろうけどこれ以上掘るのは無理だ」
諦めた軍曹は、その表面だけでも土を払う。
「ん? なんか文字書いてんぞ」
砂ぼこりを払うと、白く塗装されていたであろうこの物体は細長く、人工的なものであった。
「なんだこれ......、『AAM−4』、『99式中距離空対空』......?」
「読めるんですか!?」
「普通に王国公用語で書いてあるぞ、ただ塗装が剥げててこれ以上は無理だな」
軍曹はブーツで土を謎の物体に掛け直すと、きびすを返した。
「よくわからんが今は後だ、司令部に行こう」
再び歩き出した軍曹へ、ふと2士は思い出したように呟く。
「そういえばあのドラゴン、なんで足が片方無かったんですかね」
高射砲の照準器越し、それは2士にもハッキリ見えていた。
勇者によって大陸を追い出された際、負った傷なんだろうか......。
「知るかよ、ただそんな芸当のできる国があるとすれば、よっぽど魔導の進化した国なんだろうな」
軍曹が放ったそのセリフを最後に、男2人による沈黙行進は再開された。