第76話 要塞都市ロンドニア防衛戦
「対空戦闘―――ッ!!!!」
――――王国陸軍 第6旅団 第30高射大隊は、もはや旧式と呼ばれて長い76ミリ砲を上空へ突きつけた。
照準を任される若い2等騎士は、その照準器に真っ黒な群れを捉える――――
「ワイバーン群接近! 数30! 北西方向よりまっすぐ突っ込んでくる!!」
「仰角よし! 装填よし! 対空戦闘用意よし!!」
城壁上に並べられた魔導機関砲。
土嚢にかこまれ陣地化された大通りの高射砲。
さらには大口径の要塞砲も一斉に照準を合わせる。
「2型榴散弾! 攻撃始めぇッ!!!」
3基の30.5センチ連装要塞砲が、今――――――咆哮を上げた。
高空を飛行していたワイバーン群に炸裂したそれは、対空用に開発された砲弾。
「弾着――――――今ッ!!!」
炸裂――――――花火のように美しく咲いた榴散弾は、灼熱の火球を無数にばら撒きながら一瞬で数体のワイバーンを撃墜した。
「旧式のくせにやるじゃねえか!! 王国軍ここにありと知らしめてやれッ!!」
街中から一斉に対空砲火が上がり始める。
1体――――また1体と、街へ近づく前に10近いワイバーンを叩き落とした守備隊は、訓練通り分厚い弾幕を作り上げていた。
それでも、高速で飛行するワイバーン相手ではまだ不足だったのだろう。
街の上空へ到達したワイバーンは体をひねらせると、一気に急降下を開始。
牙を見せる口から矢継ぎ早に火球が発射された。
「ブレス降ってくるぞぉ――――ッ!!」
「退避! 退避――――!!」
城壁が吹っ飛び、市街地から次々に火柱が昇る。
「大丈夫か新米!」
火のくすぶる瓦礫を蹴った軍曹が、対空砲に座った2等騎士へ叫ぶ。
「自分は問題ありません! ただ向こうの対空砲がやられたようです! 医療班を掩護します!!」
「頼もしいな、だがくれぐれも無理はするな! ヤバくなったら地下壕へ逃げろと司令部から達しがあるからな!」
「了解であります!!」
ロンドニア駐屯軍の目的は、あくまでも時間稼ぎ。
街には宗教戦争時代の名残りからか、信者を逃がすための地下通路があちこちに造られているので、戦闘続行不能となった部隊から順に逃げ込んでいた。
「仰角40度ーッ!!!」
ワイバーンは低空飛行で爆撃を繰り返し、公園や大通りの高射砲を狙う。
幾多の部隊が猛爆に晒され、その弾幕も必然薄くなっていった。
「「「落ちろ――――――――――ッ!!!!」」」
ロンドニア駐屯軍の大半は、この地域の出身で固められている。
なんとしても守り抜く、石にかじりついてでも戦うという意思は、爆撃を受けてなお弱まらない抵抗となって現れていた。
「1体撃墜であります!!」
「っしゃあ! ざまあみろトカゲ共!!」
「――――――いや待て! 3時方向から影! 真っ直ぐ突っ込んでくる!!」
だが、それらはどうしようもない存在によって次第に押し潰されていく......。
「仰角よし! 2型榴散弾――――撃ぇッ!!!」
装填を終えた要塞砲が、向かってくる1つの影に向かって斉射。
再び死の花が咲き乱れ、その影は消滅しただろうと2等騎士は確信した。
............瞬間だった。
『敵影健在ッ! 繰り返す! 敵影健在!! アレは......ワイバーンなんかじゃない......!』
装甲飛行船すら落とす要塞砲の直撃に耐えた飛行生物は、ロンドニア駐屯軍が最も恐れていた存在――――
「ドラゴン出現!! ロンドニア直上に侵入ッ!!」
「ヤツが......!!」
E、D、C、B、Aと、危険度が高い順に付けられていく王国危険指定ランク。
通常なら【A】止まりだが、エンシェント・ドラゴンの危険指定ランクは【S】という特別枠に区分されていた。
エンシェント・ドラゴンの顎が3つに割れ、太陽のように口部が輝き出す。
かつて国家を3つ滅ぼしたといわれる一撃が、ロンドニアに落とされんとしていた。
「総員退避ッ! 地下通路へ退避だ!!」
「ですが軍曹ッ.........!」
「命あっての抵抗だ! 退路はまだある、今ここで死ねば国民は守れんぞッ!!!」
必死に叫ぶ。
その声を聞き、実質的に現場を仕切っていた小隊長も突き動かされた――――
「命令だッ! 総員地下通路へ退避!! 装備は放棄して構わん!」
士官学校を上がりたてだった彼は、自分よりも経験の豊富な軍曹の意見を命令として反映。
途端、部隊は一斉に地下通路への階段を下る。
ドラゴンからは遠い城壁上、軍曹は確かな危機感を感じていたが、その懸念は杞憂に終わらなかった......。
「ガアアァァァァァァッッッ!!!!!!」
要塞砲が照準を向けるより早く、ドラゴンの口からそれは放たれた――――――
極太のレーザー砲がロンドニア市街地をなぞり、家々をえぐる。
旅団司令部のある古城は消し飛び、要塞砲が次々とぶった斬られ爆散した。
この攻撃で、第30高射大隊が保有する装備の"9割"が消滅。
市街地の3分の2以上が壊滅するという、凄惨なものだった......。
それでも......、王国軍は生き延びていた。
地下へ退避することによって、彼らの人的損害は究極にまで軽減されていたのだ。
「全員無事だな!? 危なかった......、素早い判断に感謝します少尉殿」
軍曹がヘルメットを脱ぎながら、命令を下した小隊長にお礼を言う。
「あの場で自分ができる最善だっただけですよ、こちらこそ軍曹のおかげで部隊を生き延びさせられました」
「しかしあいつ......、"後ろの足が片方無かった"気がするが」
「そうでしたか? とにかく、このまま旅団司令部を目指しましょう。地下通路はアリの巣みたいに繫がってるはずですからね」




