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第63話 連隊長

 

「う~む......、やはり無理じゃったか」


 夜遅く――――――駐屯地の士官食堂で、アルマ・フォルティシア中佐は夜食をつまみながら今日1日を振り返っていた。

 結局、魔法を覚える前にティナが耐え切れず伸びてしまい、このパワーアップ作戦は初日にして行き詰まったのだ。


「――――全く脳筋かお前は、そのうち部下に後ろから斬られても知らんぞ?」


 食事を頬張るフォルティシアの前に座ったのは、"近衛連隊長"イグニス・ハルバード中佐。

 今回フォルティシア、そしてティナが頭を悩ます原因の人物だった。


「元はといえば手合わせしたいと言い出したおぬしのせいじゃろうて、それに、わしは佐官級の中じゃ飛び抜けて部下思いだと思うが?」

「さあ知らんね、それよりこんな時間に食事とは珍しいな......太るぞ?」

「やーっぱりおぬしはウザいこと極まりないわ、余計なお世話じゃ」


 フォルティシアは口に含んでいた分を水で喉に流すと、空になったコップで机を勢いよく叩いた。

 音が響き、皿がカタカタと揺れる。


「単刀直入に聞こう、なぜわしの部下に決闘なんぞ申し込んだ?」


 積み重ねられた皿は、いかに彼女が憤慨しているかを物語っていた。

 一口に言えばストレスから来るヤケ食い、騎士数人分の量は一体小柄な体のどこに入っているのだろう。


 そこまで知った上で、ハルバード中佐はゆっくりと口角を吊り上げた。


「なぜ? そんなの楽しいからに決まってるだろう。お前が手塩にかけた部下だ、きっと最高の勝負になる」

「本気か......?」

「僕が嘘をつかないのは知ってるだろう? アイリ王女にはもう許可を貰った。決闘は滞りなく行われるだろうさ――――――」


 そこまで言った瞬間、ハルバードの視界には銀の物体が映り込んだ。

 鋭利なそれは食事用の"ナイフ"、超高速で向かってくる凶器を、彼は表情1つ変えず首を横にズラすことで避けた。


「行儀が悪いぞ中佐」


 微笑むハルバードに、ナイフを投擲したフォルティシアは冷たく言い返した。


「ほざけ戦闘狂、言っておくがわしの部下を舐めるでない。貴様の生意気な面へ一発くらい余裕でブチ込むじゃろうな」

「ハッハッハ! 実に楽しみだよ、僕に直接攻撃を打ち込めるヤツはまだ君以外いないからね」

「それはお互い様じゃろうて......、貴様のつまらん余暇に付き合わされるわしのティナが可哀想じゃわい」


 ハルバードは席を立ち、壁に刺さったナイフを抜いた。


「士官学校が懐かしいね、こうしてよく喧嘩して、よく"あの教官"に仲裁された......。お前がティナ・クロムウェル3曹を推す理由もそれだろう?」

「成り行きじゃよ......、カルロスさんに頼まれたわけではない」

「成り行きね......、よくもまあできた偶然だな、我々の恩師――――――"カルロス・クロムウェル大尉"に是非聞きたいよ」

「ッ――――――!!!」


 部屋の空気が変わる。

 重々しく禍々しい、魔力の塊にも似た殺気がフォルティシアから顔を出したのだ。


「あぁすまない、今のは忘れてくれ......」


 怨嗟の中に放り込まれたような感覚に、ハルバードはすぐさま発言を訂正した。


 ――――――10年前の怪物は健在か......。


 ハルバードは踵を返すと、足早に食堂の出口へ向かった。


「ではまた近いうち、楽しみにしてるよアルマ。あと、あまり食べ過ぎるなよ」

「さっさと行け、そんでもって余計なお世話じゃハルバード」



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