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第61話 不条理です!

 

 休日を満喫したわたしとクロエは駐屯地へ帰ると、正門をくぐった瞬間からその違和感に気づいた。


「ねえティナ......なんかさ、皆おかしくない?」

「うん、なにかしらね......」


 具体的にどこがどうおかしいと言うと、まず視線だ。

 物珍しいなにかを見るような、いつも何気なくすれ違う人たちが放つそれは、まさに違和感の塊だった。


「わたしたちさ......、ひょっとしてなんかやらかしちゃった?」

「わたしに言われてもわかんないわよ、とにかく中佐のところへ行きましょ」


 上官たるフォルティシア中佐に聞けば、この空気の正体もわかるはずだ。

 視線を浴びながら通路を抜け、わたしは小気味よく執務室のドアを叩いた。


「第3遊撃小隊、ティナ・クロムウェル3等騎曹です、失礼します」


 入り浸り、もはや緊張と無縁に近かった中佐の執務室は、しかし入った瞬間から空気の違いを全身に感じる。

 そこには中佐の他、10人ほどの軍服を着た騎士が立っていたのだ。


「噂をすれば......じゃな、2人とも外出は楽しめたかの?」

「はい、十二分に。......ところで中佐、こちらの方々は?」


 漆黒の軍服を纏う騎士たちは、一斉にこちらを向いた。

 尋常じゃなく鋭い槍のような視線で、普通の騎士じゃないことは一瞬でわかった。


「ティナ・クロムウェル3等騎曹、クロエ・フィアレス騎士長だな?」

「はっ!」


 階級章に目をやれば、長とおもしき人の階級は『少佐』。

 慌てて姿勢を正し、敬礼をする。


「私は中央即応戦闘団、近衛連隊所属のガリア少佐である。今日は貴官ら2人に用があってここへ来た」


 近衛ッ!? 王族の警護を担当する最強クラスの特殊部隊じゃない!

 構成員は全員がレンジャー、空挺資格を持ち、レベルも70以上が求められると聞く。


 なるほど、この殺気に近い視線は彼らの異常に高い練度によるものか。


「近衛連隊の精鋭が、一介の下士官にどのような御用でしょうか......」

「うむ、端的に言えば2つある。まず1つは――――――」


 嫌な予感がした、こういう人たちが来るときは決まって非日常がセットだと相場が決まっている。

 唾液を呑み込み覚悟を決めるが、結局これは無駄なあがきだった......。


「王国第1王女、アイリ・エンデュア・ストラトスフィア殿下が、貴官ら2人のアクエリアスでの功績を称え、会食を希望なさっておられる」


 冗談や比喩などではなく、わたしの視界が真っ白になった。

 王女と......会食......? 


「なっ......、なにかの間違いでは!? 小官は王女殿下と同じテーブルにつける身分では――――」

「3曹、"王女殿下はとても楽しみにしておられる"。会食は1週間後を予定している」


 拒否権はない、そう暗に告げられたようだった。


「そしてもう1つ」


 既に胃が痛い......、これ以上なにを――――――


「王国近衛騎士連隊を率いる連隊長殿が、貴官らとの手合わせを、会食前の朝に要望している」

「はっ......?」


 最精鋭の王国近衛騎士連隊、その連隊長と手合わせ? 

 あっははっ......、終わった。


「マナーと体調管理を徹底したまえ。ではフォルティシア中佐、詳細は追って伝えますので、わたしどもはこれにて」

「うむ、ご苦労じゃったの」


 安寧の休日にさようなら、こんにちは、社会の理不尽......。



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