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第59話 平和の裏

 

 ――――国防省 王国軍統合作戦本部。


「状況は?」


 緊迫に包まれた地下の作戦本部。

 王国東部方面軍司令官は、重々しく机上に声を響かせた。


 彼らにとって早急の課題、憂慮すべき安全保障問題が動きを見せたからだ――――


「王国東部、ロンドニア郊外にて『エンシェントドラゴン』を確認しました。現在、第4師団及びクロスロード要塞が警戒を行っています」


 行方知れずだったエンシェントドラゴンが、なんと人口密集地の近くに現れたというのだから、軍としては気が気でない。

 この緊張が国防省を飛び出し、城下町へ広がった瞬間にはタイムオーバー。


 パニックになる前に、必ず対処しなければならなかった。


「鉄道の状態は?」

「ダイヤは平時と同然なので、総動員のような大規模輸送ができず遅延気味です......。機甲師団展開は間に合わないでしょう」


 だが悲しきかな、ここまで流動的では事前の作戦などほとんど役にたたない。

 無理に輸送すれば鉄道が悲鳴を上げ、かと言って小さな戦力で散発的な攻勢をしても無駄に終わる。


 そして、王国軍にはさらなる問題が控えていた。


「主力の76ミリ高射砲では、ドラゴンの鱗を貫けない可能性があります......。新型の"88ミリ高射砲"は有効と思われますが、ベルセルク連邦との国境にある分で全てです」


 またベルセルクかと、士官たちは唸った。

 彼らとは数多の領土紛争も抱えており、いつ攻めてくるやもわからない。


 わからないからこそ最低限の備えを置くのだが、結果戦力低下を招いていた。

 痛し痒し、時間も戦力も何もかもが、王国には足りていないのだ。


「なんとかして抽出できんのか?」

「とんでもない! 連邦の魔導士旅団は脅威です、1個中隊の抽出すら現場を殺しかねません」

「早急の危機はドラゴンだ! 最新高射砲を遊ばす余裕などない!! ここはベルセルクを無視してでも――――」

「ふざけるな! 連邦に絨毯爆撃してくださいと叫ぶも同然だぞ! ドラゴンには既存戦力で対応を――――――」


 ゆとりもなく、手札が少ないことも重なり、議論は白熱へと向かう。


 ベルセルク連邦を重視する連邦派と、ドラゴン討伐を急ぐドラゴン派が真っ向から対立し、いよいよ蛙鳴蝉噪あめいせんそうへと近づいた時だった。


 ――――ダァンッ――――!!!


 遮ったのは轟音。

 様子を見守っていた東部方面軍司令官が、長机を叩き割らんばかりに拳を落としたのだ。


「議論に水を差すようで悪いが、無いものねだりをしてもしょうがないのではないかね?」


 冷静、しかし鉛のようなそれに、言い争っていた彼らは期待を裏切らないでくれという司令官の怒気を感じ取っていた。


「両者の意見はもっともだ、ベルセルク連邦にドラゴン、どちらも無視はできん。だが対空戦力が足りない」

「はい......、その通りです」


 本質はそこだった。


「76ミリでもダメージは与えられるだろう。一度の会戦で倒すのではなく、徐々に削り取るしかあるまい。」


 対空戦力が足りないなら、その他の戦い方を選ぶまで。

 あらゆる手段を使い、敵を地面へ引きずり落とす。


「翼をもぎ取ればこちらのものだ、就寝中を狙っての奇襲作戦も視野に入れたい。魔導士、工兵中隊、遊撃連隊もフル活用だ」



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