第56話 ショッピング
大砲で起床を迎えていくばくか、本日も大変に暑い王都では、長時間外にいるなど自殺行為も甚だしい。
よって、お店選びは速やかに行われた――――――
「おお! ティナはやっぱどれ着ても似合うねー! 次はどれ試着する? おしとやか系? それともスポーツ系?」
そう、速やかに選んだまでは良かったんだけど、服屋に入って早々に、わたしはクロエの着せ替え人形と化していた。
「もういい?」
「え~、せっかく2人でデートなんだからもっと色々選び抜こうよー」
「デートじゃないし、私服はもうそれなりに持ってるから大丈夫よ」
「鬼のレンジャー教官はいないんだからもっと欲かきなよ〜、ティナだって女の子なんだからさー」
別に欲がないわけではない、なんというかこの状況に馴染めていないのだ。
っていうより、そもそも友達と服屋に来たのは今日が初めてだった。
「あ、そうだティナ! 近々お祭りをやるのは知ってるでしょ?」
「お祭りって......、前に言ってた『駐屯地祭』ってやつ?」
「そうそう、それでね、並行してマラソン大会が開かれることも決まったらしくてさ、走る時の服を今日選んどこうよ」
えっ、その口ぶりだと参加は確定ってこと?
正直寝たい、走るよりもベッドで寝ていたい......。だけど、拒否権は無いとばかりにクロエから新たな服を突きつけられる。
「......これは?」
「外国産の珍しい運動着で、『体操服』っていうらしいよ」
見た目はありふれた白地のシャツに、紺色の短パン。
けれど、触った感じはとても柔らかく、この国ではなかなか見ない素材で作られていた。
「ねえねえ、早く着てみてよ」
「はいはい、わかったわよ......」
試着室と外をカーテンで区切り、とりあえず着用。
う~ん......なんだろう、オシャレとは無縁な服につい披露をためらってしまう。
だが、いつまでもそうしてはいられないので、結局着せ替え人形としてわたしは姿を見せた。
「おおおおお!! もう犯罪だよこれ! 髪くくったら完璧!」
「ぶっ飛ばすわよ」と一言添えつつ、わたしは改めて自分の姿を見る。
「確かにこの格好なら動きやすいけど、ちょっとダサくないかしらこれ?」
そんなわたしに、クロエはチッチと人差し指を横に振った。
「機能美ってやつだよティナ、それに、一着くらい運動用のは持っといても良いんじゃない?」
「まあそうよね......マラソン大会か〜、面倒くさいけどきっと出なくちゃなんないし、やっぱ買ってくるわ」
結局、この体操服なるものは購入することとなった。
異国の希少品らしく値段は張ったが、職業がら給料は安定しているので問題はない。
「よし! じゃあ次はあそこ行こっか!」
ノリノリでエスコートしてくれる彼女は、まだまだ連れ回すつもりのようだ。
「あそこって?」
事務的に返す。
「ふふーん、暑い夏をさらに盛り上げる場所だよ。ティナ♪」
文字数が少ないこと、お許しください(_ _;)