第54話 戦略
なかなか書く時間が確保できんとです......
――――王国国防省 統合作戦本部。
大陸全土が描かれた地図を机上に置き、魔導具で照らされた室内で彼らは論議していた。
「以上が、ワイバーンの襲撃を受けた第14水雷戦隊の被害です」
王国軍の頭脳たる参謀官が、リストと共に説明を簡潔に終えていた。
長机を囲む彼らの表情は、疲労と辟易の混ざったそれ。度重なる問題に頭を悩まされている苦労人たちの顔だ。
「アクエリアスといい、今回のワイバーンといい、我が国の安全保障環境は最悪だな......」
参謀将校が嘆息する。
勇者の剣を守り抜いたとはいえ、駆逐艦3隻のドック入りが確定。とてもなけなしには喜べなかった。
「エンシェントドラゴンの問題もあります、迎撃プランを複数用意しておくべきでしょう」
「――――そうだな、なにか意見はあるかね?」
ここ、地下作戦本部では王国陸海軍を運用するため、様々な戦略が立案される。
ドラゴンが現れたと知った軍の最優先課題は、これの迎撃だ。
「航空艦隊、砲兵軍団、戦車大隊を基軸とした統合任務部隊の編成がベストでしょう」
「うむ、兵站面での心配は少々あるが、その方向で立案していくしかあるまい。では、洋上から侵攻された場合は?」
参謀次長のそれに対し、さきほど水雷戦隊の被害を報告した参謀官が口を開いた。
「アクエリアス、そして王都を防衛対象とした場合は、戦艦隊が適任でしょう。準備さえ整えば......ですが」
「例の"46センチ主砲搭載艦"か......。もう極秘公試は済んでいるのだろう?」
「1、2番艦は終えています。しかし、新型の対空砲弾がまだ量産され始めたばかりです」
魔導カメラで撮ったであろう試験砲撃の写真が、机上に置かれる。
それはとてもあざやかで、魔導士100人分の魔法を合わせたかのようだった。
「まるで......超巨大花火だ」
「『3型榴散弾』と言ったか、一刻も早い配備が望まれるな」
新鋭兵器にめどが立ち、ほんの少し顔色の良くなった参謀たちは、直後に叩かれたノック音に表情を戻す。
「即応遊撃連隊、連隊長のアルマ・フォルティシア中佐です」
若い女性の声、参謀たちはまたも面倒くさそうに顔をしかめた。
「失礼します」と入ってきたのは見目よい女性騎士、だが彼らにとってはあまり良いことではないようだ。
「お久しぶりです准将閣下、アクエリアス奪還作戦では、無理を聞いていただいたこと感謝します」
フォルティシアは普段の妙な口調ではなく、流暢な敬語で奥に座る白髭の参謀次長へ一礼した。
「空挺作戦へ貴官の部下をねじ込んだことか? 気にしなくていい、どのみちレンジャー騎士は1人でも多く必要だったのだ。それより要件を言いたまえ」
「お話が早く助かります、閣下」
参謀たちが囲む長机、そこへ広げられた地図には、王国領内で展開する師団や旅団、艦隊といった戦力を表す駒があちこちに並べられている。
その地図の西側、赤線で区切られた部分の近くへフォルティシアは指をなぞった。
「閣下、西方の魔導大国――――――『ベルセルク連邦共和国』についてお伺いしたく参りました」
赤で書かれている線は国境、"歩兵師団"と"戦車師団"が睨む先は、王国唯一の仮想敵国――――
「ベルセルクか......論ずる手間すらいらん、れっきとした"敵国"だ。やつらはつい先日、国境へ13個魔導士連隊を張り付けてきた。アクエリアス動乱に乗じた行動だろう」
「テロにドラゴンと度重なる国難を利用してるわけですか......、対応の方は?」
フォルティシアの隣に立つ参謀が、艦隊を示す駒を指した。
「貴官の部下が確保した勇者の剣、その護送に回した第14水雷戦隊は、元々がベルセルク連邦の領海侵犯に呼応して動いた部隊だったのだ」
「なるほど、その帰投途中にうちの部下を拾っていただいたと」
「そういうことだ」
だが、守り抜いたものの第14水雷戦隊は3隻が被弾。
状況は芳しくなかった。
「了解であります、お忙しいところ失礼しました。小官はこれにて退室させていただきます」
「うむ、"国民"と国家防衛のため、これからも頼むぞ」
「はっ!」
踵を返し、フォルティシア中佐は統合作戦本部を後にした。
「......戦略家嫌いのアイツがここに来るほどとは、この国も相当危ういのやもしれんな」
「参謀次長、もしや彼女が噂の――――」
「あぁ、くれぐれも彼女の前で"人的資源"などと口にするな。アレは10年前の事件が生んだ化物だ――――――」




