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第49話 成就

 

「こんにちは魔物さん、この人わたしのペアだからさ、手を出すのはやめてもらえるかな?」


 降り立ったクロエは、柔らかな黒髪をなびかせながらわたしの前に立つ。


「アクエリアスでのお返し、ティナはちゃんと助けに来てくれたしさ。今度はわたしもティナを助けたい」

「クロエ......」


 あぁ......、こりゃいつまでも座ってられないな。

 この娘のペアとして、レンジャー騎士として、1発2発で倒れるなんでできない。


 口元の血を拭い、ポーションでなんとか回復した体を立たせる。


「よし――――――、一気に畳み掛けるわよ!!!」

「「了解ッ!!」」


 上級冒険者と王国軍騎士の連合は、抜剣した。

 影の魔物は勇者の剣を振るい、こちらへ魔法陣を向けた。


「クロエとミーシャは後方のグレムリンをお願い! あの魔物は任せてッ!!」


 一瞬心配そうな顔を見せるクロエ、でも、信じてくれたのかすれ違いざまに快活な笑顔を交わし合った。


「ア"ア"ア"ァ"ァ"ァ"ァ"ア"ア"ア"ア"ア"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ッ"ッ"!!!」


 石畳をえぐりながら発射された魔力砲を、先陣のイチガヤが猛スピードでくぐり抜けると、勢いのまま光沢掛かった両手剣を横に一閃煌めかせた。

 空気を斬る音が遅れて聞こえる程に速く、その斬撃は魔物に生えた左の剛腕を宙に飛ばした。


「はああぁぁぁ――――――――ッ!!」


 猛攻は終わらない、無駄な動きを一切行わず、イチガヤは恐ろしいまでの剣さばきで無数の裂傷を刻み込む。

 冒険者ギルドトップを誇る剣士は、先方として十分過ぎる成果を出すと、次のシーケンスへと移った。


「今だ! フィオ!! ティナ!!」


 レイピアの痛撃がお見舞いされた。

 横合いから飛んできた勇者の剣をイチガヤと共に受け止め、フィオーレをさらに前へと押し出す。


「『メテオール』!!」


 さらに速度を上げた彼女は、運動エネルギーの塊となって魔物の肉体にレイピアで風穴をあけた。


「ァ"ァ"ァ"ァ"ア"ア"ア"ア"ア"ァ"ァ"ァ"ッッ!!!!!」


 反撃が飛ぶ。

 膨大な魔力が勇者の剣に集まり、わたしたちを薙ぎ払わんと輝いた一撃は、しかしミーシャの掩護によって阻止される。


「『フレイム・ストラトスアロー』!!!」


 猛炎の矢が魔物の右腕を吹っ飛ばし、剣が床へと突き刺さる。


「今だティナッ!! やれぇッ!!!!」


 イチガヤをカバーする形で敵に接近、思い切り踏み込むと、体に強く回転を掛けながら剣を振り、魔物の横腹へ重い一撃を叩きつける。


「だあああああぁぁ――――――ッッッ!!!」


 強靭な鎧をも叩き斬る攻撃に、敵は踏ん張りきれずにのけ反るが、それでも相手は姿勢を崩しながら熱線を撃ち放った。


 当然狙いは定まらず、あさっての方角へと飛翔する。


「まだッ!!」


 スペアの短剣を左手で取り出し、二刀でもって斬り掛かる。


 この相手に生半可な攻撃は通じない。そう悟ったわたしは二刀流で怒涛の剣撃を展開した。


 身体能力と上がりに上がった"クラスレベル"によって実現する圧倒的な速度は、再生を微塵も許さない剣舞となって漆黒の巨体を見る見るうちに削り取る。


 ――――――足りないッ、足りないッ!! 足りないッッ!!! もっと速くッ! もっと強くッッ!!! もっと血をたぎらせろッッ!!!。


 これは修復と損傷の入り混じる死闘のレースだ、雷撃の様な剣技を繰り出すわたしが一歩先を行き、魔物は遂にその膝を地へと着けた。


「ハアアアアアァァァァァァァァッッッ!!!!」


 連撃の最終点。全身全霊でぶつけた二刀に凄烈な雷を纏わせる。

 弾き飛んだファントムは内側から破裂し、部屋いっぱいにキラキラとした結晶片をバラ撒いた......。


 それと同じくして、わたしの持っていた剣も刀身が根本から砕け折れていた。


「ハアッ......、ハアッ......」


 両手に持つ役目を完遂した剣に目を向け、「ありがとう」と、武器やそれらを作った職人さんに一言の感謝を捧げる。


 しばらくして、走って来たイチガヤがわたしの背中をバンッと勢いよく叩く。

 思わず咳き込みかけるが、そんな彼からは労いの言葉が掛けられた。


「すげえよティナ! お前こんな小っちゃいのによくあんなデカブツ倒せたな! 無茶苦茶強いじゃねーか」


「あっ、ありがと......。それより腕の怪我は大丈夫なの?」


「ん? これぐらいどーってことねえよ。飯食や直るって!」


 そう言ってブンブンと腕を回して見せるレイルに、一先ず安堵した。


「ねえこの結晶片......、依頼にあった高純度マナクリスタルじゃない!?」


 漆黒の魔物から大量にドロップしたそれは、魔力の詰まったマナクリスタル。

 今回の依頼目的が一つだった。


 しばらく結晶を眺めていると、後ろから走ってきたクロエが猛スピードでハグしてきた。


「ティナ、怪我大丈夫っ!? 血出てるじゃん! 早く治療しないと......!!」

「ちょちょ、クロエストップ!! もう大丈夫だから、人前でハグしないで!」


 イチガヤやフィオーレ、グレムリンを撃退したミーシャからの視線が痛い。

 でも、正直悪くない気分だ。


 ハチャメチャな初ダンジョンだったけど、わたしはようやく冒険者だった頃の夢を達成できたらしい。



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