第44話 癒着関係
――――王国首都 アルテマ駐屯地。
「以上が、この1週間の報告です」
日差しに満たされた執務室で、遊撃連隊長アルマ・フォルティシア中佐は、新たに加わった猫獣人の部下から近況を聞き終えていた。
「うむ、バイトにはそろそろ慣れた頃かの? ミーシャ・センチュリオン、報告を聞く限りでは特段問題も無いと見えるが」
対面に座るネコミミの可愛らしい少女は、半ば緊張した様子で紅目を向けた。
「店長が独特で疲れますが、業務内容は大方把握しました。それで中佐、今回の呼び出しはそれだけじゃないんですよね?」
アクエリアス事件以来、ミーシャはフォルティシア中佐に従えている。
自称平和主義者と、独善的な自治政府によって蔑ろにされていたアラル村の安全保障環境。
その改善を機に癒着を築いていたのだ。
「実はな、最近王国全土で興味深い目撃情報が相次いでおるんじゃよ」
「はぁ......なんの目撃ですか?」
ミーシャとしては、ただ聞き返すしかできない。
罪を償うチャンスと、最低限の身分の保証に仕事まで紹介してくれた。そんなフォルティシアに、従う以外の選択肢など存在しないから。
「まだ断定こそできぬが、軍としては『古代竜』の可能性が高いと考えておる。現在、秘密裏に調査を進めておるところじゃ」
「――――ッ!? 古代竜っ!!? 大戦時に国を3つ滅ぼしたと言われるあのっ!?」
それは畏怖の象徴。
魔王軍の中でも別格の存在と言われていた古代竜は、単体で3つの武装中立国家を焼き払ったと記録されている。
伝説の勇者が撃退し、一時は大陸から離れたと思われていたが、30年の時を経て戻ってきたのだろう。
「王国軍は最悪のケースとして、彼のドラゴンとの再戦争も想定しておる。即応可能な全ての迎撃戦力が必要じゃ」
なるほどと納得する。
"全て"という言葉には例外無く自分も入っているのだろうと、王国軍が敗北すれば、故郷は今度こそ灰と化す。
中佐の持ち駒として、再び剣を抜く時が来たのだと確信した。
「わかりました、然るべき時に然るべき行動を取りましょう」
「物分りが速くて助かるわい、それともう1つお願いなんじゃが――――」
紅茶を啜った中佐は、1枚の紙を机に置いた。
「これは......、冒険者ギルドの依頼書ですか?」
「全ての迎撃戦力を集めねばらんのは言ったじゃろ? ちょうど貴重な戦力が"宝探し"に出掛けておるゆえ、迎えに行ってやってくれんか?」
冒険者ギルド・フェニクシア。
わたしでも聞いたことのある名前だ、場所は【古城ルナゲート】。
こんなのどうやって入手してるんだろう。
「早速人使いが荒いですね」
「まあまあ細かい話は後じゃて、ついでにもう1人、クロエ・フィアレス騎士長も付けておくから、初めての任務――――頼んだぞ」