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第42話 レンジャー名物ヘビの丸焼きです!

 

 日もすっかりと落ち、静寂で満たされた夜空は星が生きているかのように光を放つ。

 古代に栄えた文明、その名残りである【古城ルナゲート】の膝下。


 街1つが軽く入りそうな湖のほとりで、わたしたちは夜を越すため夜営していた。

 推奨レベル55以上のダンジョンということもあり、一晩休んでから挑戦しようという話になったのだ。


「さあ出来たわよ! 王国陸軍特製"ヘビの丸焼き"! 山中行軍の味をご賞味あれ!」


 焚き火の前、わたしは捕まえたヘビを晩ごはん用に調理していた。

 調理といっても火でよく焼くだけだけど、当初はためらっていたイチガヤが今では夢中でがっついている。


「ヘビなんて生まれて初めて食ったけど、鶏肉みたいな味で結構うまいな! 正直食わず嫌いしてた」

「フッフッフ、山中とかじゃ貴重な栄養源だし、ここみたいに生息数の多い地域なら食べ放題よ」


 レンジャー課程で得たサバイバル知識を活かし、2人の冒険者にヘビをご馳走する。


「フィオも食ってみろよ、マジでうまいからよ」


 見れば、フィオーレはまだ少しヘビという食材に抵抗を感じているようだった。

 進んで蛇を食べる者はかなり少ないので、まあ無理もないか。


「フィオーレ大丈夫? 無理なら別に食べなくても――――」

「よっ、余裕に決まってるじゃない! ヘビくらい食せないと冒険者なんかやってられないわ! 真ん中からかぶりついてやるんだから!!」


 イチガヤへの対抗意識だろうか、塩を降ったフィオーレは有言実行。丸焼きのヘビをワイルドに噛み千切った。


「はむっ! あむっ......ッ!? ――――美味しい!」


 喫茶店で纏っていたようなたおやかさを捨てた彼女は、ヘビの味を気に入ったようで、あっという間に完食してしまう。


「ふぅ......、ごちそうさまでした」

「いざ好みとなると速えなお前......、太るぞ?」

「はぁ? あんたってホントにデリカシーがないわね。これでも女の子なんだけど」

「リザードマンを吹っ飛ばすヤツが女の子たあ笑える! ちゃんと女の子扱いされたきゃもう少しおしとやかに――――って悪い悪い! 鞘で叩くな鞘で!」


 この2人は仲が良いのか悪いのかわからない、話題を変えるべく、わたしは闇夜に溶ける巨大な古城を指さした。


「そういえばあの【古城ルナゲート】、中で出現するモンスターの系統はわかってるの?」

「ん? ああ、前に入ったパーティーいわくアンデッド系モンスターが多いんだとよ。さながらお化け屋敷だな」


 鞘で叩かれた部分を抑えながら、イチガヤが感慨なく言う。


「お化けか〜、クロエとか案外苦手そう」

「クロエって喫茶店にいた黒髪のよね? お化け苦手なんだ」

「確証は無いんだけどね......、なんとなく苦手そうだなーって」


 クロエって性格はマイペースな元気っ娘だけど、ホラーとかはどうなんだろう。

 案外フォルティシア中佐とかもそういうの苦手そう。


「なるほどねー、じゃあ髪の色と合わせてイチガヤと似てるんじゃない?」

「どういう意味だコラ、俺は別にお化けとかは怖がってねーよ。それよりヘビじゃイマイチ足んなくてよ〜、なんかないかな?」


 お腹空いたアピールをするイチガヤに、わたしはいくつかのとっておきを背嚢はいのうから出す。


「ねえティナ、それって?」


戦闘糧食レーションって呼ばれてる王国軍の支給品よ、定期的に支給される物で、一般には非売の軍用非常食なの」

「非売なのに良いのか?」

「売っちゃったら軍規に反するけど、譲るだけなら問題ないらしいわ」


 興味津々のイチガヤが覗き込む。


「これが軍の糧食ってやつか......美味いのか?」

「ドライフルーツだから、結構美味しいわよ。栄養もあってどこでも食べられるし、わたしたち軍はすごく重宝してる」


 説明を聞いたイチガヤが早速1つ口の中へほうり込んだ。

 酸味と甘味が舌の上で弾けるそれに舌鼓を打ったイチガヤは、納得したように頷くと剣に松明をつがえて立ち上がった。


「おっ、イチガヤが先に見回り行ってくれるの?」


 ここは街じゃない、どこで魔物が襲ってくるかわからないので、野宿する際は交代で見回るのが常識だ。


糧食こんなの渡された時点で察しくらいつくだろ、これつまみながらゆっくり見回って来るよ」


 久しく悪戯っ子にも似た笑みを浮かべてしまった。

 焚き火の傍で座るわたしとフィオーレを背に、イチガヤは湖の岸に沿って暗闇へと消えていった。

 

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