第28話 猫の手も借りたい
《旗艦レッド・フォートレスより展開中の各部隊へ、15:10時をもって掃討戦へ移行せり、上陸した第3歩兵師団は空挺・遊撃大隊と協力して救護活動へ当たられよ》
いたるところから煙の立ち昇るアクエリアス市街、日光の下で通信が鳴り響く。
ほぼ全ての敵を制圧した王国軍は、ボードゲームで言う最後の詰めへと移っていた。
「これで最後かえ? まったくテロリスト共が手を焼かしおってからに」
初夏には似つかわしくない軍服を纏った女性騎士、アルマ・フォルティシア中佐が広場中に倒れる数多の敵を一瞥した。
「コロシアムの敵も、空挺第4中隊が制圧したらしい......連中もここまでだな。お前の部下もそれなりに使えるじゃないか」
空挺隊長は水筒を口に含むと、海へと倒れ込んだエーテルスフィアを見た。
何隻かの駆逐艦が、接近して無力化できたかを確かめている。
「当たり前じゃアホ、最初から言ったであろう? あの年齢でもれっきとしたレンジャー騎士であるとの」
「ああ、正直ガキだと甘く見てたよ......。まさか敵の親玉と古代兵器をぶっ倒しちまうとは」
そう感嘆する彼も、王国が誇るレンジャー資格保有者である。
苦労を知っている彼だからこそ、ティナの強さと信念、何よりも成し得た結果に驚きを覚えるのだ。
「"どんな状況においても任務を遂行、強靭な心身であらゆる敵を撃滅せん"。レンジャー騎士の理念みてえなもんだが、あんな可憐な少女とはまるで正反対だな」
改めて人間とは、資格保有者に限っても千差万別だと思い知らされる。
「堅物で強面のおぬしが言うとちっとも似合わんのー、もちっと愛嬌とかは出んのかえ?」
「愛嬌なんて出るかっつーの、てめえみてえな13歳の部下を可愛がるババアが1人いりゃ十分だろ?」
「20代のおねえさんに向かっていい度胸しておる、士官学校で着けてなかったサシでの勝負を、今ここでしても良いんじゃぞ?」
血管を浮かべながら剣のグリップを握るフォルティシアに、「スマンスマン」と後ずさる空挺隊長。
「しかし、連中の目的は結局王都の壊滅だったか......。街の下に古代兵器が眠っていたことといい、明日から騒ぎだな」
「これから先が思いやられるわい......、王国の安全保障は魔王軍襲来から30年で最悪じゃ。それこそ"猫の手も借りねば"やってけん」
おもむろにフォルティシアが通信を繋げた先は、負傷者を治療するために設営された野戦病院だ。
「こちらドラケン00、そっちの医療キャンプに搬送されたらしい猫獣人に会いたいんじゃが容態は? ――――――――了解した、本人にも面会の趣旨を伝えておいてほしいでの」
通信を切ったフォルティシアは、半長靴の踵を返して歩き出す。
「行くのか?」
「まあの、ちょいと気になる人材を見つけたんじゃ」
「金髪、黒髪八重歯っ娘の次はケモミミか......。物好きめ」
自衛隊等においては聞き間違い防止の為「1」を「ヒト」、「0」を「マル」と発音している。
海軍、海上自衛隊では「2」のことを「フタ」とか言ったりしている。