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第17話 アクエリアス動乱

 

 いたるところで爆発音が聞こえる。

 アクエリアス市街を穿つように疾走する列車内で、わたしとクロエは、警務官に偽装していた闇ギルドとおぼしき魔導士と交戦していた。


「死ね!! 国家の犬どもがッ!!」


 先頭車両からなだれ込んできた魔導士の振ったダガーが空を切り、間取りのある車内でCQB(近接戦闘)が始まる。

 あの市街での爆発が行動開始の合図だったんだろう。


 でも彼らの計画の誤算は、わたしたちが乗ってきたことだ。

 おそらく、本部に来た要請は乗っ取られる直前に発せられたものだったのだろう。


「はああッ!!」


 洗練された軍式格闘術で、敵からダガーを奪うと同時に打撃を叩き込み、吹っ飛ばす。

 距離を取っていた魔導士は攻撃魔法を放とうとするが、元となる魔法陣はクロエが投げたナイフにより瞬時に破壊。


 あとは――――このまま押し切る!


「なんだこのガキ!? 速いぞッ!」


 ふところまで詰めたわたしは、『マジックブレイカー』の支援の下CQC(近接戦闘術)で魔導士部隊を薙ぎ払う。

 レンジャー過程で行われた想定に比べれば、遥かに倒しやすい敵だった。


 近接戦ではこちらに分があり、制圧事態は容易かと思われた。

 けど、襲ってきた魔導士をあらかた倒した時、魔力に敏感なクロエが叫んだ。


「ティナ! 上から何か来る!!」


 一瞬だった。

 わたしたちのいる先頭から3番目の車両と、囚人を乗せている後部の車両が"巨大な炎"によって高架橋ごと断ち切られたのだ。


「ッ......! これはッ!?」


 脱落した後部車両群が遠ざかる中、1人の少女がわたしたちの車両へ乗り移ってきた。


 その姿は人間に近い、だけど明確に違うのは、亜麻色の髪から生える猫獣人キャットピープル特有のネコミミと尻尾。

 ブラウンのホットパンツから伸びた、白い脚が綺麗な紅目の少女だった。


「ん、あなたたち誰? 魔導士連中がやられてるってことは――――もう騎士が乗り込んでたんだ」


 囚人の乗った車両を切り離したと思われる、背丈ほどの剣を持った猫獣人キャットピープルの少女は、その刀身に炎を走らせた。


「気をつけてティナ......、こいつ【上級魔法剣士】だ」

「よくわかったわね。そういう君たちは王国軍か、侵略の道具め」


 猫獣人キャットピープル、炎属性魔法、幼い容姿。

 わたしの中で1つの可能性が現実味を帯びた。


「あなた......名前は?」


 少女は溢れ出る魔力の火の粉を散らしながら答えた。


「"ミーシャ・センチュリオン"。迫害と侵略者を葬る実行者、ネロスフィアが魔導士よ!」


挿絵(By みてみん)



 光沢のある剣が炎によって輝いた。

 ほんっと最悪だ! まさかこの娘があのナーシャさんの妹!? 雰囲気が違いすぎるっ。


「ところで――――軍の騎士ならさ」


 ミーシャと名乗った少女は一歩踏み出し、不気味に光る紅目をこちらへ向けた。


「殺しても良いわよね?」

「ッ!!!」


 次の瞬間、バカげた速度で肉薄した彼女の剣が、わたし目掛けて一気に振り下ろされた。

 金属同士の重い激突音が響く。


 ――――ヤバいッ......これッ!? 重すぎるッ!!


 かろうじて剣で受け止めるも、思わず膝を折りかけた刹那。


「ティナ!! 下がってッ!!」


 すかさず入ったクロエの援護でミーシャは距離を取り、連結部から猫のように車上へと移動。

 合わせるように、わたしとクロエも連結部から追い掛ける。


「クロエ! 合わせて!!」

「了解ッ!!」


 2人揃っての猛攻。

 高速で走る列車上で剣撃が交じり合い、手数でもって拮抗させる。


「ッ......!! 侵略の道具がッ! いい気になるな!!!」


 再び距離を取ったミーシャは剣を足元に突き刺し、喉を掻き鳴らした。


「終焉の地より来たれ、我は業火の世界を具現化せん!!」


 それは上位魔法の詠唱。

 ミーシャの両手に集まった莫大な魔力は、大弓のような形へと姿を変えた。

 あんなのまともに受けたら確実にヤバイ。


「吹き飛べッ! 『フレイム・ストラトスアロー』!!!」


 放たれたのは灼熱の矢、前へ出たクロエが『マジックブレイカー』を発動した剣で真正面から受け止める。


「ッ......!!! だあああああああぁぁぁッッ!!!」


 猛炎の矢が跡形もなく消し飛ぶ。

 だが、それに合わせてクロエの剣も木っ端微塵に砕け散っていた。


「クロエ!!」

「大丈夫ティナ、これぐらいなら――――、ッ!」


 見れば、クロエの制服には肩からジンワリと血が広がっている。


「あはは......、ミスっちゃった」


 苦笑いするクロエ。


 状況は不利、ここは一旦退いた方がいい、でもどうすれば......わからない。今までこんな慌てることなんて無かったのに。

 そして、走行する列車がアクエリアスの外縁部、すなわち海の上に差し掛かった瞬間だった。


「ティナ――――ごめんッ」

「えっ?」


 何が起きたかわからなかった、クロエはわたしに一言そう言うと、海面へ突き飛ばしていた。

 離れていく、なんで――――――――


「待ってるから......、ティナをペアとして信じてるから。アクエリアスの状況を王都に伝えて!」


 遠ざかる列車、守ると決めていたはずのペアに助けられたわたしは、1人海面へ落下した。



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