五十七話 ハナマジンの試練、花を育てましょう
その声はアリエルちゃんでもエミリアでもない、口調は似てるけど喧嘩の当事者だからありえない。絵里香ちゃんとさなえは口調が違う。てことはアンジュリアンさん?
「分かっているのですか!」
怒号が続く、そこで声の主に気づいた。違う、アンジュリアンさんじゃない、ハナマジンだ。
「あなた達は世界を救う勇者なのですよ!それなのに内輪揉めとは、勇者の自覚があるのですか!」
「あ、いや、あの………」
「あたし、そんなつもりじゃ………」
エミリアとアリエルちゃんは困った様子になる。
「クエ~」
雷鳥は地面に倒れて目を回している。
「すまない、俺が悪かったんだ、許してくれ、頼む、許してくれ許してくれ許してくれ」
アマツカは体育座りで同じ言葉をぶつぶつ繰り返している。
「わたし、がっかりです、せっかくみなさんと可愛い可愛いお花を愛でられると思ったのに………」
ハナマジンは今にも泣きそうな声で言う。なんだか喧嘩の当事者でもないのに悪く思えてきた。
「ごめんなさい」
「申し訳、ありません」
謝る二人。
「良かったぁ、反省してくれてわたしも嬉しいです」
キャハッて効果音が鳴りそうなくらい可愛い声でハナマジンが言う。背後に美少女の霊がついてそうだ。さっき勢いよく怒鳴ってた人とは思えないな。
「それでは、試練を始めましょう。みなさん、じょうろに水を汲んでください」
「水って………あの水?」
僕は目の前の噴水を指して言った。
「はい、そちらで構いません」
「じゃ、行こっか」
「お、おう……」
豊太郎に呼びかけると萎縮してる感じだ。
「どうしたの?元気ないね」
「いや、なんつうか………あの人恐くね?」
「大丈夫だよ、怒られたの僕達じゃないし」
「そうだけどさぁ、なんつうか、誰かが怒られてるとこ見ると自分も怒られた気分にならね?」
「あー、あるよねそういうことー。大丈夫大丈夫、そんな気にしなくていいから、ね?」
「あ、ああ」
噴水の水をじょうろに入れる。あまり入れすぎても運ぶのに不便だからね、三分の二くらいでいいかな。
「あの、さっきはごめんなさい。わたし………」
「いいよいいよ、あたしもちょっとムキになっちゃった」
エミリアとアリエルちゃんが仲良く歩いてくる。てかアリエルちゃんがタメ口だと!?あのみんなに対しても可愛い後輩の代表みたいな接し方してるのにここでタメ口!?絶対何かある、絶対何かあるよ。
「どうした司?あの二人がまた喧嘩でもしたか?」
豊太郎が固まった僕を気にかける。
「いや、大丈夫、だと思う」
「そっか、そりゃ良かった」
豊太郎のじょうろから水がたぷたぷ零れてくる、むしろこっちにかかってくる。
「ちょ、やめてよー、なんで水が零れるのさー。ちゃんとじょうろ持っててよー」
「なに言ってんだよ、ちゃんと持ってるだろ」
「ああ?」
ならなんで水が零れるのか、不審に思った僕は豊太郎のじょうろを覗いてみる。
「あのさ、入れすぎ。これ今じょうろの縁いっぱいまで入れたよね?じょうろの水とかそんなに入らないから、戻してきて」
「なに言ってんだよ、こういうのは限界まで入れるのが男ってもんだろ」
自分の行いに少しも違和感も覚えない豊太郎。
「えー」
「駄目ですよ、水は貴重なんですから。戻してください」
ハナマジンが笑顔で言う。いや、口とかまぶたはないんだけど笑ってるように聞こえた。
「はい……」
豊太郎もその声には逆らえず水をいくらか噴水の中に戻していく。
「これだからお馬鹿さんはー」
「じょうろの水はほどほどで問題ないだろう」
「るせー」
絵里香ちゃんや悠に呆れた目で見られていた。
「とくとくとくとく」
さなえはなぜか噴水に向かってじょうろの水をあげていた。水を入れるところからあげるんじゃない、花に水をあげるようにやってるんだ。
「なにやってんの」
「噴水に水をあげてる」
「いや、そこはいいから。噴水は水が溢れるように出来てるからわざわざあげなくても十分入ってるよ」
「そっか、じゃあこれは持っていく」
プランターのところに戻るとアマツカが体育座りで固まったままだった。
「どうせ俺なんて………」
まだいじけてる………。
「あのさ、アマツカ。多分ハナマジンももう怒ってないから水汲んで来て大丈夫だと思うよ」
「そうか……」
「うん、だから君も水汲みに行こ」
「ああ」
「これに水あげればいんだよな」
「お待ちなさい。まだ揃ってない人がいます、全員が戻ってからにしましょう」
「へーい」
豊太郎がプランターの花に水をあげようとしてハナマジンに止められる。
「揃いましたね、では続けましょう」
アマツカが戻ってきてハナマジンの前にもプランターとじょうろが現れる。
「そこ!話は最後まで聞きなさい!」
「は、はい!」
豊太郎がまたもや先に水をあげようとして止められる。ハナマジンてどことなく絵里香ちゃんぽいな。
「土はもうあります、なのでまずは種を入れましょう」
「あ、そうか。種が植わってないと花も咲かないもんな」
豊太郎ってやっぱ馬鹿だ。
「その際、深く土を掘りすぎず、少し表面に近いところに入れましょう」
『はーい』
言われた通りに土を掘っていく。
「待ってください!」
エミリアが声を上げる。え、また?今度はなに?
「はい、なんでしょう」
「これ、土で手が汚れますよね?」
「それがなにか?」
「あの、わたしそういうの嫌なんですけど………」
「あたしもです、手袋とかないですかー」
アリエルちゃんも同意するように手を上げる。え、二人ともそういうの気にするんだ。さなえとか絵里香ちゃんは普通にやってるのに。
「え、手袋、欲しいんですか?」
ハナマジンが怠そうな声で言った。よく見たら目も微妙に外側が下がってる気がする。
「い、いえ、いいです。遠慮します」
「あたしもーいいかな、あはは」
ハナマジン、今までのマジンと違って恐い部類に入るかもしれない。
「終わりました」
「右に同じく!」
エミリアとアリエルちゃんが種を植え終わる。
「よろしい、次は水をあげましょう」
「しゃあっ、きたー!」
豊太郎がガッツポーズを取って立ち上がる。
「急いでもいいですがその場合、大変なことになりますよ?」
ハナマジンが忠告するように言う。
「へ?」
「まずは試しです、好きにやってみてください」
「オッケー、任しとけーい!」
気合いと共に豊太郎がプランターの土にビシャビシャとなるくらい水をあげていく。
「で、どうなるんだ?うわ!」
プランターからじょうろを離すとニョキニョキと芽が出てあっという間に三十センチくらいになって豊太郎が尻を抜かした。
「て、なんだこれ、枯れてね?」
「ええ、枯れます。水をあげすぎると植物は枯れるものなのです」
ハナマジンが解説する。
「いや、でも育ち過ぎだろ」
「マジンの空間なので色々早いんです」
「マジか」
「時間戻しますね」
ハナマジンが言うとシュルシュルと土の中に苗が戻っていく。マジンて、便利だな。
「花というのはただ水をあげればいいというものではないんです。ゆっくり、少しずつ、愛情を注いでいくのが一番大事なのです。さあ、やってみてください」
「ふむ、愛情」
とりあえずゆっくりあげればいいんだよね。
サー、土の全体に湿るくらいに水をかけていく。
「おいしくなーれ、おいしくなーれ」
同時に愛情のおまじないをかけていく。
「なんだそれは」
アマツカが僕の行動を怪しむ。
「いや、愛情っていうから」
「それは料理をする時の言葉じゃないか?」
「あまちゃん、お花を食べちゃうの?」
悠と絵里香ちゃんが指摘する。
「愛情、いただきます」
さなえがプランターを前に手を合わせている。
「なるほど、こうすりゃいいのか。頼むぜー、美味くなれよー美味くなれよー」
豊太郎も真似して手を合わせる。
「これが、家庭菜園、なんか違う気がします」
「いんじゃないですか、個性が出てて」
それを見て引いたアリエルちゃんエミリアが笑って言う。
すると僕とさなえ、豊太郎のプランターから苗が出て一気に花まで咲いて、花が変形して実が出てきて………。
バナナ、トマト、ぶどうにそれぞれ変わっていった。
「うっひゃー、すごいやこれ」
僕は上に伸びたバナナの木を見上げる。
「なあ?食っていいか?」
豊太郎がトマトの実を持ってハナマジンに聞く。
「どうぞ食べてください、あなた達の作ったものです」
「おいしい」
さなえはもぐもぐと口を動かしていた。
「って、もう食ってるし!」
「おい、どうするんだこれ、取れないぞ」
アマツカがバナナの木を見上げて言う。
「うーん、あんな高いところにあったら流石に取れないね」
そう言うと木が曲がってバナナがこっちに来た。
「くれるのかい?」
木は肯定するようにバナナを差し出した。
「ありがとう」
僕はバナナを一つ取る。木はアマツカにもバナナを差し出す。
「いいのか?」
アマツカが確認すると木は頷く代わりにユサユサ揺れた。
「ありがとう」
アマツカと一緒にバナナの皮を剥いて中身を食べる。うん、よく家で食べる甘いバナナだ。
「せん、ぱい、あたしにもくーださいなっ」
アリエルちゃんが甘えるような声で言った。
「あいにくこれは司のやつでな、司に聞いてくれ」
「くーださいなっ」
アリエルちゃんは今度は僕の方を向いて言った。
「じゃあ、一つくれるかな」
僕がバナナに木に言うと木はアリエルちゃんにバナナを差し出した。
「ありがとうございますー」
木が横にザサッと揺れる。もしかして、照れてる?女の子にお礼言われて照れてるのかな。
「じゃあ、あたしも!」
絵里香ちゃんがプランターに水をあげていく。
「ご飯にする?お風呂にする?それとも………」
あれはまさか、新妻が帰ってきた旦那さんに言うという伝説の文句!最後に来るのはきっとあ、た、し。
「ふふふ………」
ふふふてなに?あたしじゃないの?最後に残ったのはあたしじゃないの?ふふふの後にはいったい何が来るの?恐ろしい。
「きたきたきたー!」
苗が成長して絵里香ちゃんが興奮する。
ギシャー!
「ひゃっ!」
「なんだこれは!」
成長したそれを見て僕達は後ずさる。それは食虫植物で有名なハエトリグサをおっきくしたような姿をしていた。頭っていあか口?が大きすぎて垂れ下がっていた。
僕はアマツカ、アリエルちゃんと協力してバナナの木を避難させる。食虫植物は別に植物を食べるわけじゃないけどこれは口が大きいから念のため。
豊太郎も急いでトマトを避難させていた。さなえの方は構わず淡々とぶどうを食べている。
「これはもしや、熱帯地域に住むと言われるオオハエトリグサ!」
エミリアが興奮した様子で言う。
「オオつけるにしても大きすぎでしょこれ!」
「下手に突っ込まれたら頭ごとやられそうだな」
悠が冷や汗をかきながら言った。
「熱帯は基本大きいのが基本です」
「そうなの?」
「ええ、植物がよく育ちますから」
「そういえばアマゾンも植物がいっぱいあったような………」
「まさか食虫植物を生み出してしまうなんて、わたしはかくも恐ろしい人間のようね」
絵里香ちゃんが自分の出した植物に興奮している。あれはほっとこう。
「よーし、あたし達も行っくよー」
「いざ!」
アリエルちゃんとエミリアが気合いを入れる。すっかり仲いいなあの二人。
「元気になってくださいねー」
「頼みますよー」
二人で仲良くプランターに水をあげる。
苗が生えて花が咲いていく。
もわー、異臭が漂って思わず鼻を覆った。
「な、なんですかこれ?!」
「この異臭、まさか………」
二人が異臭に驚く。
「なんでラフレシアなんか生やすのさ………」
「クセー、クセー」
アリエルちゃんの側にいた雷鳥が距離を取る。
「知りませんよ!なんでこんなものが出たとかあたし達が聞きたいですよ!」
アリエルちゃんが僕の疑問に反論する。
「そんな、わたしのわたし達の花が………」
エミリアは大分ショックを受けていた。
ズアッ、ズモモ、新たに植物が生えていく。
「出来た!サツマイモだ!」
ヴァミラが言う。
「俺は肉だ!」
とレオパルド。
「俺はカカオ」
ガルムが言う。
「僕は人参だ」
とペガサス。
「クエー」
雷鳥が出したのは赤い実のある木だ。
「わたしは飴ですね」
アンジュリアンさんが言う。
「俺も出来たぞ」
アマツカの目の前にあったのは僕のと同じバナナだ。
「ちょっと待ったー!」
僕は声を張り上げた。
「今度はお前か」
「どうした急に」
アマツカやガルムが疑問に感じてくる。
「あのさ、サツマイモとかカカオ豆は分かるんだよ。なんで肉とか飴とかあるのさ、おかしくない?肉と飴て植物なん?」
肉はスーパーとかで売ってるように小さく切られた状態で吊るされていて飴は包み紙に覆われていた。
「食べたいと思ったから出ただけだが」
「わたしも同じくです」
「そういうもんなんですか?」
ハナマジンに聞いた。
「はい、この空間は特殊ですから。こんなことが起きてもおかしくはありません」
「はあ………」
植物の成長が早かったり植物以外の実が出たり便利だな、ははは。
「まあ、細かいことは無しにして、食おうぜ。こんだけ食いもんがあんだからさ」
豊太郎が言う。
「そうだね」
みんなと一緒に新しく出来た木の実を食べる。その中で悠だけがみんなの輪に混ざらず一人難しい顔をしていた。
「悠?」
「どうした、お前もこっち来いよ」
「なあ、愛情てどう植物にあげるんだ?」
「え?」
「そもそも、愛情とはなんだ?行動に表れるものなのか?」
「そう言われてもなぁ………」
「確かに、愛情とは簡単に表れるものではありません。ですが、相手を思い、大切にする気持ちはきっと表れます。勇気を出して、踏み出してください」
ハナマジンが後押しする。
「分かった、やってみよう」
悠は黙々とプランターに水をあ手を合わせる。
スウッ、ニョキニョキ…………。苗が成長して成長して…………。
「これは………」
プランターの目の前にいた悠がいきを飲む。そこにはバラの木が大きく広がっていた。
「これは………すごいね」
「うっひゃあ、こりゃバラにしてはデカ過ぎだぜ」
「きれーい」
「なんていうか、羨ましいです。こんな大きなバラの木を出せるなんて」
一輪だけじゃなくたくさんのバラに僕達は見惚れた。
「ていうか女のあたし達がラフレシアなんてゲテモノ出したのになんで男の五十嵐くんがバラなんてまともなもの出してんすか、あたし達に対する当てつけですか?」
「あー、それありそうです」
エミリアがアリエルちゃんに同意する。アリエルちゃんと一緒にいたせいかエミリアが毒のある性格になってない?
「これを………俺が?」
当の悠は目の前の光景が信じられないようだ。
「ええ、あなたです。あなたがやりました、その実力は誇っていいんです」
「そうか、俺にも愛情の一つくらいあったんだな」
「そりゃああるに決まってるよ。だって、悠は妹の遥香ちゃんを連れて帰るためにずっと旅してるんでしょ?愛情がないとわざわざそんな真似出来ないよ」
「そうだな、それもそうだ。俺は遥香を愛している、それには違いない」
「とか言いながら遥香ちゃんのことよくからかってるけどな」
豊太郎がニヤニヤしながら言う。
「可愛いものほどいじりたくなると言うだろう」
悠が軽く笑って答えた。うわ、ドSだよこのお兄ちゃん、妹に対してドSなのは一生変えない気だよこいつ。
せっかくいい気分だったのに台無しじゃないか。
「でも、バラだと食べれない」
というさなえの一言でさらに台無しになった。
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ハナマジンはマジンの力を僕達にくれた後アンジュリアンさんに言った。
「あなた、もしや天使マニアのアンジュリアンではありませんか?」
「天使マニア?」
「以前、この島には天使に憧れる妖精がいました。初めて天使の話を聞いた時から天使への憧れを持ち、他の妖精達からも知識を得て生粋の天使マニアになりました。そして次第に力をつけるとその力で姿を変え、天使のようになったのです。天使に憧れている、というだけでは問題ありませんでした。しかし………」
「お前はもう、妖精じゃない!この島から出て行きなさい!」
「そうだそうだー!」
「出てけー!」
「姿を変えた途端に妖精達は彼女を迫害、島から追い出したそうです」
「それが………アンジュちゃん」
僕達はアンジュリアンさんを見た。
「はい」
「だから、この島に来てから調子が悪かったんだね」
「はい………」
なんだろう、相当気まずい。仲間の一人が追い出された場所に行くとか相当不味くないかな。
「大丈夫だよ、他の妖精さんがアンジュちゃんをいじめたらあたし達が守ってあげるよ!」
「絵里香…………ありがとうございます。わたし、頑張ります!」
絵里香ちゃんに励まされてアンジュリアンさんの元気が戻ってきた。
「よし、これなら妖精さんの街?村に行っても大丈夫だね、出発!ゴー!」
僕は遠くを指さして言った。
「切り替え早すぎだろお前!仲間が変な目で見られんだぞ!気まずくねえのか!?」
豊太郎が反論してきた。
「いや、大丈夫でしょ。何かあったらMギアに仕舞えばいいし絵里香ちゃんが守るって言ってるから大丈夫だよ」
「お前なあ………」
「いや、司の言う通りだ。Mギアという避難場所がある以上必要以上に心配することはない。俺達は勇者だ、勇者なら勇者の役目を優先する、それだけだ」
悠が僕に賛同した。
「お前もかよ………」
「いや、最悪の場合は敵だけ倒してさっさとトンズラ、もしくは放置」
さなえが親指を立てて言う。
「お前が一番エグいなおい!」




