五十三話 暗黒ジャグラーズの牢屋には人間がいる
暗黒ジャグラーズ本拠地の地下牢に遥香とクイーンサキュバスは来ていた。
「賢治?賢治なの?!」
牢屋にいた齢24ほどの女性が春に反応する。
「ざんねーん、人違いでーす。てか賢治って誰?」
遥香は指を振って否定した後尋ねた。
「あんたこそ誰よ、あいつ人間がこの城にいるなんておかしいじゃない」
女は不審な目を遥香に向ける。
「それがいるーの、五十嵐遥香、暗黒ジャグラーズに味方してる唯一の人間、じゃないんだよね。その賢治って人も人間なの?」
「石戸賢治、元勇者よ」
「元、勇者…………」
遥香は記憶を手繰る。そんなものは暗黒ジャグラーズには一人も…………いや、一人いる。正体不明なあの男が。
「その賢治って人、皇帝って名乗ってなかった?」
遥香は一つの可能性をぶつけた。
「皇帝なんてくだらないわよね、ほんとに魔界の支配なんて企んでるんだもの」
「それじゃあ、本当に皇帝陛下は勇者で元人間てこと?」
サキュバスが訝しげに聞く。
「ええ、今まで気づかなかったの?」
その言葉にサキュバスは顔をしかめる。
「はあ…………じゃあリッカちゃんの言ってたことは………」
遥香は頭を抱えた。
メタリカと共にここに戻った後、遥香は再びエルフの村に降り、リッカを探した。
「あっ、ここにいたのリッカちゃん!探したよ、はあ、はあ………」
遥香がリッカに話しかける。
「遥香さん!村に連絡が来て勇者様がメタリカちゃんをやっつけたって…………えっと………メタリカ、ちゃんは………」
リッカは言葉の端々が途切れていた。
「大丈夫だよ、メタリカちゃんは、ちゃんとお家に帰った。だから死んでない」
遥香はリッカの頭をポンと叩いた。
「ねえ、あたしと遥香さんてあんま身長違わないよね?」
「あたしが真面目な話してる時に………」
遥香は口元が歪むのを感じた。
「とにかく!メタリカちゃんはもう大丈夫だから、リッカちゃんも早くお家帰った方がいいよ」
「そう、じゃああの人のところに帰ったんだ」
「あの人?」
「そう、あの人。メタリカを昔から大事にしてたあの人」
遥香はそれからリッカが聞いたメタリカの昔の話を聞いた。
「つまり、昨日リッカちゃんが言ってたメタリカちゃんの大切な人てのは皇帝さんでその皇帝さんは勇者で元人間で……………、あったまいったぁい」
「痛いのはこっちよー、わたしだって何十年も陛下なた仕えてきたのに急に異世界人とか元勇者とか言われても困るわよー」
サキュバスも頭を抱える。
「ここの牢屋に人間がいるって噂聞いて来てみれば、すごいこと聞いちゃったね」
遥香はニヤリと笑いながら言う。
「笑いながら言わないでよもー」
そこにいたのはサキュバスの女王ではなく主の本性にショックを受ける一人の苦労人だった。
「で、なんで皇帝さん、賢治さん?は魔界の支配とかやってるの?」
遥香は女に聞いた。
「あいつは、魔界の現状が気に入らないんだって。女の人が結婚の道具にされたり立場が弱かったり、偉い人達が威張って下の人達を見下したり、職業を自由に選べなかったり………。ま、そういうのが気に入らないって勇者やってる時から言ってたから多分それかな」
「リッカちゃんもお父さんと喧嘩してたけどそれが原因なのかなー」
「リッカ?」
「ううん、こっちの話。そういえばまだ名前言ってなかったっけ、あたし五十嵐遥香、君は?」
「武之内涼」
「え、たけりょ?」
「いいじゃないですかスマホ、学生を信じましょうって違うわよ!ソフトバンクの学割先生じゃないわよ!あれは竹内涼真!あたしは、武之内涼!」
「おお、ナイスツッコミ」
語気を荒らげた涼に遥香は思わず拍手を送る。
「じゃあ涼姉で」
「別に悪くはないわね。あだ名貰ったついででここから出してくれるかしら?」
「それは、無理。だって賢治さんに怒られるし」
「えー」
「とりあえず、皇帝さんがこの世界を支配する様を見ててよ」
遥香はクイーンサキュバスと共に牢屋を立ち去る。
「あ、待って!なんであなたは賢治の味方をしてるの?もしかして、騙されてるとか………」
涼が遥香を呼び止める。
「違うよ、あたしは騙されてなんかいない。賢治さんとは違う理由で世界を取る、誰も苦しまない、誰も不幸にならない世界を作るために」
「誰も苦しまない……」
「そ、現実だと難しいけどここなら難しくないと思ってね」
「あなたはいったい………」
「あたしにも色々あるの、じゃあね」
遥香は今度こそ牢屋を立ち去った。
一方、皇帝の間。石戸賢治はマカイターミナルでメタリカのプログラムを再構成していた。
「はあ、はあ、これで、よし、と」
仮面をつけていて外からは分からないが彼の目には隈ができている。昨日、メタリカを回収してから一晩中作業をしていたのだ。基本プログラムからなにまでおかしくなっていたのでバグの発見から修正までかなりの時間を有していたのだ。やむを得ない状況とはいえメタリカのプログラムを破壊した黒い服の勇者には強い恨みが出来た。
最後のプログラムが完成しエンターキーを押すとメタリカに修正プログラムが流れていく。インストールまでの間賢治は疲れから居眠りを始めた。
『おはよう、賢治。よく眠れたかい?』
しばらくしてメタリカの声が聞こえてきた。目の前を見るとメタリカの姿が投影されていた。
「寝てたのはお前だろ、心配させやがって」
賢治は悪態をつくように言った。
『すまない、けどもう大丈夫だ。僕は戦える』
「当然だ、僕が直したんだからな」
『今から僕は軍を再編成し、アンダーグラウンドに向かう。いいかい?』
「いや、君は僕の秘密兵器だ。なにかあった時のためにここに残っててくれないか?」
『分かった』
『皇帝陛下!』
賢治の前に新たな影が投影される。
「なんだ」
賢治はメタリカと話していた時の年相応の声から低い厳かな声に変わる。
『アンダーグラウンドが落ちたというのは本当ですか!』
『我々も今すぐアンダーグラウンドに援軍を送ります!』
「遅いよ君達。それ、二日も前の情報だよ?」
『も、申し訳ありません』
『我々も、たった今部下から連絡を貰ったもので………』
「まあいいさ、でもアンダーグラウンドに行くのはやめたまえ」
『なぜです?』
『アンダーグラウンドが落ちたのなら今すぐ攻めるのが定石では?』
「今は戦力を蓄えたまえ、半端な戦力ではアンダーグラウンド同様容易く落ちるぞ」
『ははっ!』
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
カランカラーン、マカイターミナルでみんなと天界のお祖母ちゃんの家に来た僕は大きな呼び鈴を鳴らした。
「お祖母ちゃーん、遊びに来たよー」
「はーい」
扉が開いてお祖母ちゃんが出てくる。
「あら?」
お祖母ちゃんがみんなを見て首を傾げる。
「この人が司のばあちゃんか、髪がキンキラだなぁおい」
豊太郎が言う。
「まあ天使だからね」
「の割にお前の髪は黒いけどな」
「日本人寄りなのあ、この人達僕の友達。みんなも一緒でいいかな」
「まあいいけど………」
「やった!」
「おっじゃましまーす」
僕達はお祖母ちゃん家の中に入っていく。
「しっかし驚いたわねぇ、司にこんなにたくさんのお友達がいたなんて」
お祖母ちゃんがお茶を飲んで言う。
「友達、なのは認めるが俺達は別に遊びに来たわけじゃない」
悠がつき返すように言う。
「あら、違うの?」
「遊びに来たというのはこいつが勝手に言っただけだ、俺達の目的は他にある」
「いーじゃん、ついでに遊べばいいんだしー」
「お前はちょっと黙ってろ」
「詳しく聞かせてちょうだい」
僕達は勇者のこと、暗黒ジャグラーズのこと、清浄の泉で聞いた話をした。
「司も大変ねー、でも大丈夫。ここには悪いやつなんて滅多に来ないから」
お祖母ちゃんは朗らかに言った。
「いやお祖母ちゃん話聞いてた?ここに!やばいやつが来るって言ってるの!」
「でもだーいじょーぶよー、司達がやっつけてくれるんでしょー?大丈夫大丈夫」
「楽観視し過ぎでしょ司のお祖母さん、大丈夫?」
さなえが不安そうに言う。
「だ、大丈夫なんじゃないの?」
苦笑いしかできなかった。
「せっかく来てくれたんだし、観光でもしましょうか」
お祖母ちゃんが言う。
「いいねー、行こう行こう」
「おー!」
豊太郎とヴァミラが盛り上がる。
「待て待て、外にいて敵が出たらどうするんだ。観光なんてやってる場合か」
悠が二人を諌める。
「大丈夫よ、外にいた方が何かあってもすぐに対応出来るじゃない」
お祖母ちゃんが言う。
「まあそうだが………」
「たまにはこういうのもいいんじゃない?ずっと戦い通しだったし」
絵里香ちゃんが言う。
「昨日は吉影にコテンパンにされてろくに休めなかったからな、今度こそ休めればいいが………」
悠、もしかして昨日のこと根に持ってる?
「と、その前に、ちょっと待ってね………」
お祖母ちゃんは部屋を出ていく、ついていくと寝室のクローゼットを開けていた。
「羽根と、輪っか?」
中にあったのは白い羽根と黄色い輪っかだった。
「これって…………今司さん達がつけてる羽根と輪っかですよね?」
エミリアが言う。
「そうよ、あなた達はこれをつけてちょうだい。普通ここに天使以外の人型の種族はいないから怪しまれちゃうわ」
お祖母ちゃんが言う。
「つけなかったらどうなるんだい?」
ペガサスが聞く。
「警察に突き出されて硬い棒で殴られる拷問にさらされるわね」
「冗談だろ?」
「悪いな、事実だ」
ガルムがアマツカに聞くとその答えに血の気が引いたような顔をした。
「僕も初めて聞いた時は大分驚いたかな、あはは」
冗談にならない恐い話すると逆に笑ってちゃうな。お祖母ちゃん家に来た時はたまたま人に見られてなかったから良かった。
「って、さっきからなにやってるのさ!」
僕は自分の羽根をペタペタ触られてる気がして振り返った。さなえがビクっと反応して僕の羽根から手を離す。
「君が犯人か」
「ごめん、なんかふわふわしてたからつい………」
「これ、気になる?」
「だって、今まで司こういうの生えてなかったし」
「戦ってる時はそれどころじゃねえけどやっぱダチの背中から変なの生えてたら気になるよなぁ」
今度は豊太郎がペタペタ羽根を触りだした。
「ちょっとー、やめてよー、これ地味にくすぐったいんだからー」
「いやいや俺はこの輪っかが気になるぞ」
悠は頭に浮いてる輪っかを触りだす。
「お、暖かいな」
「こっちは人肌に触れて冷えるんだけど」
「へえ、天使の羽根ってこうなってるんだー」
「僕のとも少し違うな」
「触るな馬鹿!天使の神聖な羽根だぞ!」
アマツカもヴァミラやペガサスに触られて怒っていた。
「どれ、俺にも。ほう、中々柔らかいな」
「む、天使の正体これ見たりだな」
構わずレオパルドとガルムも触っていく。
「お前らもだ馬鹿!まったく油断も隙も、おいいいい!」
注意する間もなく雷鳥が羽根をつついていき、羽がいくらか落下していく。
「えっと、話戻していいかしら?」
お祖母ちゃんが言う。
「あ、ごめんごめん。変装だよね」
「ええ、いかついお兄さんに捕まらないためにもちゃんとつけてくんだよ」
お祖母ちゃんが羽根と輪っかを取り出す。
「で、どうやってそれつけるんだ?」
「ちょっと来てみなさい」
豊太郎がお祖母ちゃんに近づく。
「後ろ向いて」
スッと豊太郎の背中にピッタリ羽根がついた。
「おおー、すげー!」
豊太郎が羽根を触って感覚を確かめる。あの様子だと擬似感覚もありそうだ。
「で、これを………」
輪っかを豊太郎の上にかざすと浮いて落ちなくなる。
「おおー!」
鏡の前に立って姿を確認する豊太郎。
「興味深いな、俺にもつけてくれ」
悠が言う。
「はいはい、順番ね」
「お祖母ちゃん、なんでこういうのが家にあるの?」
「そりゃあ司のお母さんが人間だって知ってるからねえ、いつ人間の友達連れてきてもおかしくないだろう?」
「まあ確かに」
「だから、みんながこの町で怪しまれないように変装道具を作ったのさ」
変装も終わり町を出歩く。
「あれ、この前より人が少ない」
「やはり何かあったか」
「嘘ついたのか」
悠がお祖母ちゃんに言う。
「違う違う、ここじゃなくて地上の方さ。みんな暗黒ジャグラーズを倒すための訓練の合宿に行ってるんだよ」
「天界には暗黒ジャグラーズがいないのに?」
「天使は真面目でお節介だからねぇ」
「それでおばあ様、これからどこへ行くんです?」
「美術館だよ、絵とか彫刻とか面白いのがあるんだよ」
美術館、多分僕が前に来た時何度か行かされた場所だ。何度も行ったから大分飽きてきたんだけどなぁ。まあ他のやつもいるしいっか。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
その占い師は天界にあるとある洞窟に来ていた。本来人の立ち入る場所ではなく暗がりの中にそれはあった。
ピチョン、ピチョンと溜まった雨水が落ち不気味さを醸し出していた。
カッ、コッ、と靴が地面に置かれる音が響く。洞窟にはにつくわしくないピンヒールの革靴だ。
「ここね」
ろうそくにボウッと照らされ湖が見える。それは湖というより泉というのが相応しい広さだった。
「死者の魂が集まる鎮魂の泉、ここなら………」
そして占い師がなにかを呟き、紫の球体、何かの魂が泉から浮上する。
「間違いないわね」
誰の魂か確認するとさらに呟く。すると魂が変化し、形を成した。それは骸骨の頭に硬い胸板のような肌、鎧武者のような下半身をしていた。
「天使、よくも我を………」
骸骨が口を開く。
「勇者が恨めしい?」
占い師が骸骨に語りかける。
「お前か、我を甦らせたのは」
骸骨が占い師に目を向ける。
「ええ、そうよ。わたし、あなたにもう一度暴れて欲しいの。ドラグエンパイアで発揮した力、もう一度見せてくれるかしら?」
占い師が妖艶にまとわりつき、骸骨の胸板を触っていく。
「いいだろう、今度こそやつを屠れるなら何度でも戦ってやろう」
骸骨が頷いたのは占い師に誘惑されたからではない、それほどまでに彼の恨みは強かった。
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