五十二話 狐流忍者の里での一休み
今回は戦いと戦いの間の一休み的な感じです、勇者もたまには遊ばないと殺伐とするんで
真っ直ぐ目的地に行くのもあれなのでみんなで里を歩く。
「あれ、みんないなくない?」
「別に普段から外にいるとは限らんだろう」
「狩りにでも行ってんじゃね?呼留も狩りやる的なこと言ってたし」
「なるほど」
「なんか蒸し暑い、上着脱いでいい?」
さなえがそう言いながら既に上着を脱いでいた。
「そういえばアンダーグラウンドで上着着てからずっと着たままだっからね」
「脱ぎましょう、このままだと汗をかきすぎてしまいます」
エミリアの提案で僕達は上着を脱ぐことになった。
中から出るのが下着や裸じゃないと分かっていても僕と豊太郎はつい女子の方が気になってしまう。
「なに?」
さなえが見られてることに気づいて言う。
『いや、べつに』
僕達はさなえから目を離した。
「あらみんなー、帰ってたのねー」
黄莉恵さんが 娘さんの茶々や他の人達と一緒に出てきた。
「どうも」
「ちーすっ、 黄莉恵さん 」
「茶々も、久しぶり」
「あんた達は向こうで何してたんだ?」
「豚さんや鶏さんのお世話よ、里のみんなの分を賄うのに飼ってる数が多くてお世話も大変なのよ」
「ここって、家畜の飼育とかしてるんですね」
「まあね、その方が安定してお肉も卵も取れるし。あ、そうだ。せっかくだからみんなお家に上がってかない?」
「いいんですか?!」
予期しなかった歓迎だけどこれはいいかもしれない。
「おい司」
悠が諌めるように言う。
「いいじゃんせっかくなんだしー、よってこうよー」
「里のみんなに俺達の冒険、話しちまうぜ」
豊太郎も賛同するように言う。
「さなえお姉ちゃん達、あたしと遊びにきてくれたの?この前はあんまり遊んでくれなかったから今日はいっぱい遊ぼ」
茶々がさなえに近づいて言う。
「わたしは………」
さなえが悠に確認するように言う。
「ああ………分かった、好きにしろ」
悠は苛立って頭をかくと言った。
「ありがとう」
「ふん」
悠は顔を歪ませたけど少し嬉しそうだ。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
悠side
子供たちの相手は他の連中に任せ、俺はエミリアと長老連中と里を出てからの話をすることにした。
「それはそれは、大変でしたなぁ」
長老の吉影がお茶を飲んで一息つく。
「ま、これも勇者の力と新しい仲間のおかげだがな」
「わたしもドラグエンパイア代表として頑張ります!」
エミリアが両手を握り締めて言う。
「頼りにしてますよ、みなさん」
「ああ」
遥香のついでだがまあいいだろう、世界ぐらい軽く救ってやる。
「さあて、せっかく寄ってくれたんです。我々も少し遊びましょうか」
吉影が和風の上を脱いで半裸になる。ウホッ、いい筋肉、じゃない。
「遊ぶ、とは?」
「やだなあ、決まってるじゃないですか。相撲ですよ相撲。ほらみんな、転んでも平気なように座布団置いて」
「ははっ」
長老連中が座布団を敷き始める。
「いや、俺はそういうのやらないというか、肉体労働はレオパルドのが向いてて相撲なんか全く………おい!」
長老達は俺の戸惑いなど他所に俺の脇を持ち上げて立たせた。
「そんなこと言わずに、さあさあ」
吉影は腰を落とし、床をポンポンと叩く。
「いや、だから…………て笑ってる場合か!」
横を見るとエミリアが離れた位置からニコニコ微笑んでいた。く、やるしかない。
いつの間にかエミリアが俺と吉影の真ん中から離れた位置に立ち杖をかざしていた。その構えは、まさか………。
「はっけよーい、のこった!」
声と共に杖を上げる。やはりそう来るか!
「ふん!」
「ぐ………」
吉影が突進して衝撃が身体に乗ってくる。力士というのはこんなのを毎回食らってるのか。いや、本職の力士は図体はもっとデカいはずだからダメージもあるはずだ。
そしてそのまま引きずられる、土俵などここにはない。強いて言うなら倒れた時のクッションとして敷き詰められた座布団だけだ。つまり、俺が踏ん張っているのはその座布団だ。
「どうしました勇者様、わたしに気を使っておられるのですか?」
「ま、まあそんなところです………」
冷や汗をかきながら言うが嘘だ、加減してるのは明らかに向こうなんだ。これが本気だと思われたら司達に格好がつかない。
「かの勇者様がかのような腕力など恐れ多い、もっと力を出してください!」
「あ、ああ」
もっと?そんな力どこにあると言うんだ?俺にはこれが限界だ、少しでも力を抜いたら座布団に倒れるだろう。
ぐっと吉影を押してみる。だめだ、ちっとも後退しない。このご老体、見た目通りかなり鍛えてるぞ。
「そーれっ」
「ぐぁっ」
案の定俺は吉影に投げられてしまった。
「いつつ………」
座布団があるとはいえ投げ飛ばされるのは痛い。
「五十嵐さん!」
「すいません勇者様!お怪我はないですか!?」
長老達とエミリアが俺に駆け寄る。
「大丈夫だ、続けよう」
このまま負けっぱなしなのは流石に気に入らない、せめて一勝取ってやる。
だか悲しいかな、所詮頭脳派である俺では日々鍛えている狐流忍者の長老に勝てるはずもなかった。
「はあ、はあ…………」
何度も投げ飛ばされ、俺はクタクタになっていた。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
司side
女子達があやとりやおはじきをしてる間豊太郎は男の子相手に腕相撲をしていた。
「ぐぬぬぬ…………、だぁっ!」
「あっ」
苦労の末、豊太郎が勝利する。忍者の男の子だけあって年上の豊太郎でも勝つのに苦労する。
「負けちゃったぁ」
「どうだ!参ったか!はあ、はあ………」
息も切れ切れに豊太郎が勝ち誇る。
「今度は俺だ!」
別の男の子が豊太郎の前に現れる。
「しゃっ、かかってこい!」
気合いの入った豊太郎の声、さっき息切れてたのに元気あるなー。
僕?僕はね…………
「ていやー!」
「うわっ」
僕は男の子の一人を投げ飛ばした。周りには棒で土に書いた土俵、つまりは相撲だね。
「いてて………」
男の子が声を上げる。土の上だから大分痛そうだ。
「大丈夫?」
僕は男の子に駆け寄る。
「大丈夫大丈夫、これくらいいつもやってるから。それよりも、司お兄ちゃん強いね」
「ま、ちょっと本気だからね」
普段から怪物退治してるし、半分天使だからね。
「司お兄ちゃーん、次俺とやろうぜ」
他の男の子が前に現れる。
「おー、やろーやろー」
それからしばらく僕は相撲を続けることにした。
しばらくすると耕太郎さん達潜入部隊の三人が現れた。耕太郎さんを隊長とした里の潜入部隊第一部隊で秀信さんと伝助さんの三人で行動してるんだ。ドラグエンパイアの各地に行って色んな情報を集めている。でもこの三人は暗黒ジャグラーズに里が襲われてからは防衛部隊の役をやっているんだ。
「あんた達、帰ってたのか」
耕太郎さんが驚いた顔で僕達を見る。
「どうよ、あの脱出不可能と言われた洞窟の井戸から帰ってきたぜ」
豊太郎が腕相撲しながら自慢する。
「黒いのと王女様がいないがどうしたんだ?まさか………」
「いやいやいや!違うからね?!別にあの二人死んだわけじゃないからね?!中見てみてよ、ちょっと騒がしいけど」
僕は集会所の外壁を指さした。ここは集会所のすぐ横なんだ。
耕太郎さんは僕の言葉を聞くとすぐに集会所の入口に走った。
「ちょっとー」
「耕太郎お兄ちゃん?!」
その動きには子供たちもびっくりだ。
「黒いの!」
耕太郎さんが集会所に殴り込む。中を見ると上半身裸の吉影さんと床に敷き詰められた座布団に倒れた悠がいた。
「おい大丈夫か黒いの!」
耕太郎さんが悠を抱き上げる。
「司、俺はもう、だめだ。あとを………たの…………む」
力なくそう言うと悠はガクッと首を倒した。悠を抱き抱えてるのは僕じゃない、耕太郎さんだ。
「黒いの!おい、黒いのー!」
「悠、そんな………」
「ちょっと五十嵐くん!?こんなとこで倒れていいの?遥香ちゃんを連れ戻すんでしょ!?」
悠に駆け寄るレオパルドと絵里香ちゃん。耕太郎さんはなぜ名前でもなく勇者様でもなく黒いのって呼ぶんだ。
「なんですかこれは」
「ちょっと大袈裟じゃないかこれは」
「馬鹿なのかこいつらは」
アリエルちゃんとアマツカ、ガルムはをそれを見て呆れていた。
「バカーバカー」
雷鳥が悠の上をクルクル回っている。君は雷鳥というよりオウムか何かじゃないかな。
「ねえ、これなんのお芝居?」
「表題、戦いに負けたやつの無念を表す、だな」
ヴァミラの問いに豊太郎が感慨深く答える。芝居の世界は深いな。
「吉影様、これはいったい………」
「いや、ちょっと暇つぶしに遊んでもらおうと相撲でもしてただけなんじゃがの。まさかここまで勇者様が弱いとは思わなくてだな………」
吉影さんが気まずそうに言う。まあ知らない人から見たら目の前に立ってる吉影さんが悪者にしか見えないけどね。
「司見て、あれちょっといい筋肉」
さなえが僕の服の裾を掴んで吉影さんの胸板を指した。
「うわ、ほんとだ」
僕は驚いた。忍者の里の長老だけあって現役を引退しても胸板も腹筋も隆々しててたくましい感じが出ていた。
「天使のお方、黒いのをお願いします」
「はあ………」
なぜか耕太郎さんから悠を託される。
「勇者様って戦いが基本モンスター任せだけあって勇者本人は貧弱虚弱体質なんですかね」
「ぐはっ!貧弱、虚弱………う、なさ、けないぜ。ははは………」
エミリアの何気ない言葉に悠が口から血を吐いた、気がした。
「しっかりしろ黒いの!黒いのー!」
「耕太郎さん落ち着いてください。ちょっと疲れてるだけです、別に大怪我してるわけじゃないですから」
「そ、そうか」
「ていうかやめてよエミリアー、悠は体力とか運動神経とか人一倍気にしてるんだからー」
「すいません、てっきり勇者様だから身体も鍛えてるのとばかり………」
「まあ、長距離歩いたりマジンの試練受けたりしてるけど体力なんて一朝一夕につくもんじゃないからね」
「やつの仇は俺が取る!吉影様、お覚悟!」
「来い!」
耕太郎さんが腰を落として吉影さんに突進する。ドン!とぶつかる二人、押し合いへしあいの力相撲だ。
「耕太郎殿ってあんなやつでござろうか」
秀信さんが伝助さんに言う。
「さあ………」
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
晩御飯、僕達は耕太郎さん達が狩ってきた鹿と熊、豚のカツにした丼を食べていた。野犬もいたんだけど僕達は好きじゃないから避けてもらった。
ガツガツ、ガツガツ、昼間いっぱい遊んでお腹減ったから箸もよく進む。豊太郎やアマツカを見ると同じような速さで箸を進めていた。
「お前達よくそんな速さで食べれるな、腹壊さないのか」
悠が呆れたように言う。
「悠こそいっぱい食べないと強くなれないよ、昼間だっておじいちゃんに投げ飛ばされてたじゃん」
「あれは少し油断しただけだ、もっと本気出せば俺のが勝ってたはずだ」
「嘘だー、息だって切れてたじゃん」
「切れてない、ちょっと疲れただけだ」
「それを息切れしてるって言うんじゃないの?」
「う………」
さなえに言われて言葉を失った。
「どんまいどんまい、これから頑張ろっ」
絵里香ちゃんが悠を励ます。
「ああ………」
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
夜、布団に入っても悠は目を開けたままだった。
「どうしたの悠、何か考え事?」
「いやなに、吉影との相撲で自分の不甲斐なさを自覚してな。あんなんで遥香を連れ戻せるのか、はあ…………心配になってきたよ」
悠が顔を手で覆う。
「心配ねえよ、俺達がいる。俺達が悠を助けてやる」
豊太郎が言う。
「ま、悠は貧弱だから僕達の助けが出来ないとなんも出来ないからね」
「失敬だな、これでも俺はチェスの大会で優勝するほどの頭脳の持ち主だぞ?」
「頭しか役に立たんやつだが」
アマツカの言葉で悠の顔が歪んだ。
「言ってくれる………まあいいさ、やってやる。遥香も、世界も、救ってやる。力、貸してくれよ?」
悠が僕達に目をやる。
「もちろんさ!」
「任せろ」
「承った」
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
次の朝。
「ここが清浄の泉か」
「ねえ、ここ何もないよ。ただの湖じゃない?」
豊太郎とヴァミラが言う。
「確かに、泉というほど大したことはなさそうだな」
悠が言う。
「なにもないのかな」
絵里香ちゃんが首を傾げる。
「いえ、何かあるはずです。でなければ清浄の泉と呼ばれるはずがありませんから」
アンジュリアンさんが言う。
「清浄、清らかにされてる、洗浄の浄で洗われてる…………」
さなえがぶつぶつ言う。
「いやまんまじゃん!意味あるそれ?」
僕はさなえにビシッと指をつきつけた。
「でも名前にあるし、なんか意味とかあると思って………」
僕は口をすぼめたけど何も出ない、参った参った。
「泉というから少なくとも飲み水には………」
「おい待て!」
悠がアマツカを止めたけどもう遅い、アマツカは泉に手を突っ込んだ。
「うわっ!」
泉から光が出て僕達は目を隠した。光が収まると泉が金色になっていた。
「なにこれ」
やべ、色々わかんない。突飛すぎて意味わかんない。
『魔界と人間の子供たちよ』
「うわ、喋った!」
なんかしっぶーい男の人の声だけど喋った!なんだこれ、ますますわかんねえ。
『お前達は今まで四つの町を旅した。龍の国、狐の里、悪魔の町、そして、エルフの村。だがお前達は足りぬ、足りぬのだ!』
「足りぬってなにが」
『残るのは妖精の島、獣人の国だ。だがそこに敵が現れるまで猶予がある』
「猶予?」
『戦士は時に休息が必要だ』
「ふざけてる場合か!俺達は一刻も早く暗黒ジャグラーズを倒さなきゃならないんだ、やつの居場所を教えろ!」
悠が声を荒らげる。
『ヘルアンダーグラウンド』
ヘルアンダーグラウンド、確かアンダーグラウンドのさらに下層にあるって聞いた場所だ。
「なに………」
『そこに暗黒ジャグラーズの本拠地がある』
「なんだと!なら今すぐ………」
『それはだめだ』
「どういう意味だ」
『お前達は天界に行け、暗黒ジャグラーズではない何かが天界を狙っている』
「暗黒ジャグラーズではない何か?」
「どういうこと?」
「魔界の悪いやつらって暗黒ジャグラーズだけじゃないのかよ」
『いや、それこそが暗黒ジャグラーズを裏で操る黒幕だ。それを倒さねば魔界に未来はない』
「黒幕………」
初めて聞いた、そんなのがいたなんて。
「わたしもだ、だからわたしはその黒幕を調べに行く。お前達は天界に行け」
アルレイド先生が言う。
「分かりました、行ってきます!」
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