四十八話 暴走するメタリカ
「君、誰?」
遥香がその来客、ローブを着た女性に訝しげな目を向ける。黒いローブを纏っており、その全貌を伺い知ることは出来ない。だが、その中から金色の髪の毛と色白の肌が見て取れた。
妙だ、と三人は思ったフードが頭より高い位置まで覆っていることからエルフではないのは確かだ。だが竜人であっても欧米人であってもここまでの白さと金色の輝きはない。あるいは、種族としては希少なモンスターの類いだろうか。
「しがない占い師、とでも言っておきましょうか」
ローブの女は聞く者を魅力するような声で言った。その声は初級のサキュバスにも匹敵するだろう。
「その占い師さんが何う
用?」
「機械竜メタリカはまだ戦える、とでも言っときましょうか」
「こんなボロボロの身体で何か出来るとは思えないわね」
「あら、信用ないのね」
「占いとか基本当たらないし」
「酷い言い草ね、そっちの世界の人はみんなそうなのかしら」
「そっちの?君、ほんとに誰?」
遥香の女を見る目が益々怪しいものを見るものになる。
「言ったでしょ、占い師って。占いでなんでも見えるの、あなたがどこから来た、とかあなた達が何の集まりなのか、とか色々」
「ふーん。で、メタリカちゃんが戦えるようになるのっていつなの?今は無理でしょ」
「いえ、今よ」
そう言うと女は小声で何かを呟く。
「グオォォォ!」
するとメタリカが彷徨し黒いオーラを纏った。
「メタリカちゃん?!」
「これはいったい………」
「遥香さん、サキュバスさん!どうしてここに?」
リッカが目を覚まし二人に驚く。
「コワスコワス、ワレ、コワスーーー!」
メタリカは発狂したように叫ぶとブースターを起動して飛び立った。
「メタリカちゃん、どうして!?」
リッカはわけが分からなくなる。
「君、本当に占い師?皇帝さんの仲間じゃないの?」
遥香が女を睨む。メタリカは魔界でも随一の勢力である暗黒ジャグラーズのモンスターだ、ならばそのメタリカを暴走させられるのは同じ暗黒ジャグラーズ以外ありえない。
「いえ、あんな女、組織でも見たことないわ。あなた何者?」
サキュバスの不信感もマックスだ。
「だから言ったでしょ、しがない占い師って」
「うそ、本当のこと言って!」
すると遥香とサキュバスの通信端末が鳴った。
「出た方がいいんじゃない?皇帝陛下かもしれないわよ」
「はい、こちら遥香」
『どういうことだ、メタリカが膨大な魔力を出してお前達の近くを飛んでったぞ。何があった、言え!』
皇帝がモニター越しに声を荒らげる。
「分かんない、変な占い師が何か呟いて急に…………」
答える遥香も狼狽している。
「陛下、直ちにその者の拘束を…………」
サキュバスが言う。
『ああ、捕まえて我のメタリカに何をしたのか吐かせろ!』
「いいのかしらわたしなんかに気を取られて」
サキュバスは女に向かおうとするが女はからかうようにサキュバスを止める。
『なに?』
「あの子、ちょっと冷静じゃなかったからあの身体で動いたら壊れちゃうんじゃないかしら?それも、取り返しのつかないくらいに」
その声はサキュバスのような魅惑でありながら相手を見下し嘲るような邪悪さが滲み出ていた。
「ぐっ………」
遥香は怒りにギリっと歯をすり合わせるがすぐに冷静になる。
「ピエロちゃん、いるんでしょー!出てきてー!」
「とう!」
遥香が叫ぶと木々の向こうからピエロッサクラウンが飛び上がってくる。
「はいはいなんでしょう遥香さん、なんでもわたくしめにお申しつけください」
ピエロッサクラウンが威勢のいい声を出す。
「ピエロちゃん、あのいけ好かない女を捕まえて!」
「ラジャー!」
ピエロッサクラウンは敬礼し、女の元に向かう。
「それは、困るわね」
女の周りから光が発生し、その姿を消した。
「おや、逃げられてしまいましたね」
ピエロッサクラウンは振り返ると肩の横で手を広げた。
「だー、もう!なんなの女!お兄ちゃんでもないのにあたしのこと馬鹿にしてさぁ、あたしのこといじっていいのはお兄ちゃんだけなのになんなの!あいつ本当なんなの!?」
遥香は怒りに手をワナワナと震わせた。この怒り、どこへぶつけてやろうか。今の遥香にはそんなことが頭を支配していた。
「ねえ、メタリカちゃんどうなったの?あんな怪我、とても動けるはずないのに」
リッカが泣きそうな声で言う。
「リッカちゃん…………」
遥香はリッカの言葉で冷静になる。そして彼女の頭に手を置いて言った。
「大丈夫、メタリカちゃんはあたし達が取り戻す。ちゃんとリッカちゃんの知ってるメタリカちゃんに戻ってくるよ、ここに戻ってくるかは分かんないけど」
「絶対メタリカちゃんを助けてよ、約束だよ」
「うん、約束」
するとリッカが小指を出した。
「指切り?」
遥香がリッカに合わせて小指を持ってくる。
「うん、指切り。約束を絶対守るっていうおまじない」
そう言ってリッカが遥香の小指に自分の小指を巻き付ける。どうやらこの世界にも指切りの概念はあるようだ。
『指切りげんまん、嘘ついたら針千本………』
「のーます」
遥香の知ってるものなら普通ここで終わりだ、だがリッカの言葉はそこで終わらなかった。
「飲ませてげんこつ万回あーびせる!」
あたしの知ってるのとなんか違う!遥香は自分の知ってる指切りとの違いにカルチャーショックを受けるもリッカの勢いに飲まれそれを口には出来なかった。
「約束、絶対守ってよ」
笑顔で言うリッカ。
「う、うん。あ、メタリカちゃんが来ても大丈夫なように村の人達、じゃない、エルフ達の避難お願いできるかな?」
「あいあいさー!」
リッカは敬礼すると元気にその場を後にする。
「じゃ、あたし達も行こっか」
「はい」
「ええ」
遥香はクイーンサキュバスとピエロッサクラウンに呼びかける。
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司side
あれから機械竜がどうなったか知らない僕達はまた森の中をさまよっていた。
「ねえ、まだ村に戻らないのー?あたし疲れたんだけどー」
「もう、歩きたくない………」
アリエルちゃんとさなえが悲鳴を上げる。フウマジンの試練を受けてる間は平気だったけどまた長時間歩いて疲れてきている。
「しょうがねえだろ、帰り道がわかんねえだから」
豊太郎がイライラしたように言う。
「く、こんなことになるならマッピングでもするべきだったか」
悠が頭を抱える。
「しっかりしてよ悠くーん、作戦担当なんでしょー」
「黙れ、俺はあくまで戦闘時に指示を出してるだけでそこまでの頭は担っていない」
文句を言うアリエルちゃんを悠が睨みつける。
「くけー」
「くえー」
「けー」
近くの岩場にいたまだらのキジっぽい鳥が鳴く。
「馬鹿にしてんのかー!」
別にアリエルちゃんを馬鹿にしたわけじゃないけどアリエルちゃんはその三羽に怒りをぶつける。その声にびっくりしたのか鳥は岩場から離れて飛んでいってしまう。
「アリエル、流石に動物に八つ当たりはよくない」
「うるさいなもう」
さなえの言葉にもアリエルちゃんの苛立ちは止まらない。
「あれ、この子だけ残ってるんだ。色もなんか違うし」
僕はその鳥を見る。他の二羽は茶色に薄茶色のまだらだったけどこっちは濃い緑と薄い緑だ。
つんつん、ちょっと指でつついてみる。ガガガガ!反撃に指をくちばしでつつかれた。
「いったー!ご、ごめん、触っちゃ駄目だった?」
「くけー」
鳥は岩場から飛びさりアリエルちゃんの頭に乗る。
「ちょっと、なんであたしの上に乗るんですか、どいてくださいよ!」
アリエルちゃんは頭を払って鳥を追い出すけどまた元の位置に戻ってくる。
「ちょっとー、戻んないでくださいよー」
また頭を払うけど鳥は元の位置に帰ってくる。
「だーからー」
三度払うけどやっぱり戻ってくる。
「うえーん、せんぱーい」
等々涙まで流すアリエルちゃん。ご愁傷様だね。
「しょうがない、しゃがめ」
アマツカはちょっと嫌そうな顔をしたけど頼みは聞いてくれるみたいだ。
アリエルちゃんがしゃがむとアマツカが鳥に手を伸ばす。
ガガガガ!
「がぁー!」
アマツカの手が届く前に鳥の口が動いて指にダメージを負った。痛みにアマツカが地面を転がる。僕より大分痛そう。
「大丈夫ですか先輩!しっかりしてください!」
アリエルちゃんがアマツカに駆け寄る。
「くけーくけー」
「あたしだけでなく先輩まで馬鹿にするんですかあなたはー!」
鳥の鳴き声にアリエルちゃんはまた頭を払うけどやっぱり鳥は頭の上に戻ってくる。
「はぁ、はぁ…………く、しょうがないから、今は、このままにしてあげます」
等々アリエルちゃんは諦めて鳥を頭に乗っけたままにすることにした。
「はあ、にしてもこの世界にナビでもあればなぁ、道に迷っても楽なんだけどなぁ」
ないものねだりと分かっていてもつい口にしてしまう。
「人間界のナビ、というのとは違いますが道案内の魔法ならありますよ」
エミリアが言った。
「あるんだ!」
「やってみます?」
「やって、是非やって、お願いだからやって!」
手を合わせながら懇願するアリエルちゃんは大分必死だった。
「分かりました、では………」
エミリアが杖をかざして呪文を唱える。
「我、みーちに迷いしもーのなり、道しるべの神よー、我をー、アルレイド家の邸宅へー導きたまえみーちみちみち道しるべのー神よー我の杖へ現れたまえー」
歌うように言ってるんだけど途中某プー大陸の姫みたいな言葉が聞こえて歌を聞くどころじゃない。
「はっ!」
最後に気合いの一声を出すとパァっと魔法陣が杖の先に出た後杖の向きが変わった。
「こっちです!」
杖の先が本当にアルレイド先生の家に向いてるかはさておきエミリアについてくことにした。
しばらく歩いてるとゾワッと背筋が凍る感じがした。
「なんだ、何かいるぞ」
「身体が、ビリビリする」
「イービルクイーンか、いや違う………」
ヴァミラ達も反応する。イービルクイーンと間違えるってことはこの感覚は邪悪な気配と言い換えてもいい。そのすぐあと上を銀色の物体が飛んで行った。それが通り過ぎる時に気配は強くなって、遠のいていくと弱くなった。
「今の、機械竜?」
銀色で空を飛ぶと言ったらこの辺りだと機械竜しかいない。
「まさか、やつが邪悪な気配を?」
「でも、さっきまで邪悪な感じはしなかったじゃん?なんで急に」
気がつくとリュックから下がった金の方位磁針もカタカタと震えて機械竜の行った先を指している。
「とにかく追うぞ!」
悠の指示で僕達は走った。
町外れの花畑で機械竜を見つけるとドラグナーと戦っていた。
「あれは、この間の!」
「あいつのが早く来てたのか!」
「ドラグナー、竜人の進化系がなぜこんなところに」
機械竜とドラグナーの組み合わせを初めて見たアルレイド先生が言う。
「さあな、だがあの機械竜と因縁があるのは間違いなさそうだ」
「いい加減にしろ!いつまでこんなことを続ける気だ!」
ドラグナーが口を開く。
「イツマデモダ!ハカイハカイ、ハカイー!」
機械竜はタガが切れたように叫ぶ。
「いつまで?」
「あの二人、昔から戦ってるのかな」
「あの機械竜、以前会った時と大分性格が違いますね。当時はもっと冷静だったはず………」
機械竜が拳を振るい、ドラグナーにぶつける。同時にドラグナーからの反撃を受ける。ガキンガキン!装甲と爪がぶつかって火花が散った。機械竜に張られたつぎはぎの鉄板がパキンパキンと外れていく。
「しっかしダサいつぎはぎですねぇ、応急処置にしてももう少しどうにかならなかったんですか?」
アリエルちゃんが機械竜を見て言う。
「確かに、仲間がいるならもっと上手く直せるはずだが」
「全身装甲が穴だらけです、あれでは少し攻撃を受けただけで壊れそう」
「キエロ!」
機械竜が口からエネルギーを発射する。
「くっ」
ズガズガ!ドラグナーがガントレットで防御する。
「グランドフレア!」
ドラグナーは両手の間から赤いビームを発射する。バキュンバキュンバキュン!
「グアァッ!」
三撃受けて機械竜が後退する。ボンボンボン!今度は内部から爆発していく。
「ぶっとべえ!」
最後に強力な一撃が照射される。ズドオォン!機械竜に当たって派手な爆発となる。プシュー、プシューと音を立てて機械竜の身体は内部の基盤やフレームが剥き出しになっていた。見るのも無残な姿だ、これが人間ならすごいグロテスクなものになっていそうだよ。
「メタリカちゃんは?!」
「あ、あれは…………」
「そんな…………」
遥香ちゃんとピエロッサクラウン、クイーンサキュバスが駆けつけた。
「あれ、二人も来てたんだ。ていうかピエロの方は昨日いなかったよね?」
「見えないだけでいたんですよ。それよりも………あれ、なんです?どう見てもあのドラグナーがメタリカを破壊したようにしか見えませんが」
ピエロッサクラウンが言う。
「さあ?アンダーグラウンドでも機械竜と戦ってたけど?」
「壊れちゃったか。ごめんリッカちゃん、約束、守れなかったよ」
遥香ちゃんがいつになく悲しい瞳で言う。
「どうした?そんな顔、らしくないな。お前ならあーあ、がっかり、おもちゃが減っちゃったとか言いそうだが?」
悠がからかうように言う。
「たまにはこういう時もあるの」
ツンとした遥香ちゃんの態度。やっぱり変だな。
「悪いけどそのおもちゃ、まだ壊れてないみたいだよ」
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