四十六話 フウマジンの試練
心の準備もままらないままフウマジンは指を鳴らして扇風機を作動させる。
「うわっ!」
「なっ!」
「きゃー!」
「ひょー!」
不意を突かれる形で僕達は風に吹っ飛ばされて後ろにいたさなえに当たった。
「ごめん」
「大丈夫」
さなえが顔を赤らめて言う。なんでか分からなかったけど後ろに感じる二つの膨らみに気づいて僕も体温が上がるのを感じた。
フウマジンは今度は前に手をかざすと鉄で出来た手すりを僕達の手前からいくつも生やしてきた。
「この棒を使っても構いません、棒のないところまで辿り着いた者を合格とします」
フウマジンが言った。
「そういうことか、やってやるぜ!」
豊太郎が最初の手すりに手を伸ばす。
「ぐぎぎ………とっ」
歯を食いしばって手すりを掴む。
「うわっ!」
けど吹き飛ばされて壁に叩きつけられた。
「いっ、たくない?」
「どういうこと?」
「いや、この壁柔らかい素材で出来てるんだよ」
「ええ?」
腕を後ろに伸ばしてみると壁が後ろに沈む感覚がした。本当に柔らかい素材で出来てるみたいだ。
「ねえ、司………」
さなえが頬を赤くして僕を呼ぶ。
「あ、ごめんさなえ。今どく」
僕は壁伝いに横にずれた。
扇風機の風に向かってくのは初めてだ。けど、暴風に向かってくのは人間界で怪物退治してた時に一度ある。
「まだ、まだ………」
豊太郎がまた手すりに手を伸ばす。
「ふっ、俺も負けてられんな」
「いっちょ行きますか!」
「エルフを甘く見るなよ……」
悠達も手すりに手を伸ばす。
「僕達も行こっか」
「うん」
僕はさなえに呼びかける。
「お、重い………」
手を伸ばしてみて分かる。風が全身に叩きつけられて手を伸ばすだけでも精一杯だ、その上足を進めるなんて無理にもほどがある。
「あ」
足を浮かして前に進もうとすると風の影響をもろに受けて吹っ飛ばされてしまった。何度か繰り返すけど同じように戻されてしまう。横を見るとみんなも同じように壁に戻されていた。
いや、一人いや、二人前に進んでいる。
「大丈夫ですよ先輩、愛する後輩がついてますからね。先輩のことは絶対に離しません!」
アリエルちゃんがアマツカを片手で抱きとめてもう片方の手で手すりを掴むという器用な真似をしていた。
「お前よくもそんな恥ずかしい台詞が人前で言えるな!ていうか離せよ!恥ずかしいだろ!」
アマツカの方は両手が手すりにがっちりしがみついて離れない。
「駄目ですよ、今の先輩は小さいんだから風なんか受けたらすぐ飛ばされちゃいますー、離しませんー」
なんだこれ、バカップルか。人前でイチャつくとかバカップルなの?背丈だけ見ると姉と弟みたいだけど僕二人の年齢が本当は近いって知ってるからね!?もう、ほんとリア充爆発しろって感じ。
「どうしたの司?」
「腹でも崩したか」
近くにいたさなえとガルムが言った。
「別にぃ?あんなの見てなんとも思ってませんけどぉ?」
僕はイラついて嫌味っぽく言った。
「なんで敬語なの?」
「やはり腹でも崩したか」
あの二人見てると腹の底からマグマのような真っ赤なものが湧き出てる感じだ。噴火しないのが不思議なくらい。
ん?何か変だ、なんであの二人だけ吹き飛ばされてないの?人外だからってのは変だ、エルフのアルレイド先生や悪魔のデモリアさんも吹き飛ばされてる。なのにどうしてあの二人だけ…………。
「司?」
「あの二人がどうかしたか?」
「話しかけないで、今あの二人がどうして前に進んでるか考えてるから」
「む、確かにあの二人だけ風の影響を受けていない。天使のくせに生意気だな」
「それはない、それはないはずだよ。でもどうして………」
僕はガルムの言葉を否定するけど考えが浮かばない。
「二人でやってるからじゃない?」
さなえが言う。
「二人?愛の力ってこと?」
バカップルも伊達にくっついてるわけじゃなかったのか。
「違う、そうじゃない。えっと、アリエルの片手はアマツカの身体を抱きしめてるからアマツカは離れないし、アマツカは両手で手すりも掴めるし二人で床に足ついてるから摩擦ついて離れない、て考えたけどどう?」
僕はさなえの完璧な推理に瞬きした。
「なるほど、そう来たか!」
悠が指を鳴らす。
「それ僕の台詞!」
「司!」
悠が僕に手を伸ばすけど間にガルムとさなえがいて届かない。
「さなえ!」
「うん!」
僕はさなえに手を伸ばし、さなえはその手を掴む。
「ガルム」
「ああ」
今度はさなえが同じようにガルムと手を握る。
「すまないがそこの狼、俺の手を握ってくれないか?」
「構わんが」
「ありがとう」
悠とガルムが手を繋ぐ。悠は今度はレオパルドと手を繋ぐ。
「五十嵐くん、あたしもあたしも!」
「ああ」
今度は絵里香ちゃんが手を伸ばして悠と手を繋ぐ。
「おいで、アンジュちゃん」
絵里香ちゃんは妖精形態のアンジュリアンさんを肩に乗せる。
「あの、絵里香、わたしも………」
エミリアが恐る恐る絵里香ちゃんに手を伸ばす。
「うん、行こう!」
絵里香ちゃんがエミリアの手を握る。
「じゃあ俺も!」
「ひゃっ!」
エミリアが豊太郎に急に手を握られて声を上げた。
「すまん……」
「大丈夫です、ちょっとびっくりしただけですから」
何この茶番、新手のラブコメ?
「ホータロー、オレも!」
「ああ」
ヴァミラが豊太郎に手を伸ばす。
「そこのドラゴンくん、わたしと手を組まないかい?」
「いいよ、組もう」
アルレイド先生がヴァミラに手を伸ばす。何か怪しい話をしてると思うのは気のせいかな。
「そこの悪魔さん、シャルウィダンス?」
「喜んで」
アルレイド先生がデモリアさんに手を伸ばす。別に僕達はダンスをするわけじゃない。
最後に残ったのは元太くんだ、この場合デモリアさんが手を伸ばすのが正解なんだけど別の姿を見せてからデモリアさんは元太くんに恐がられてるのもあって遠慮してしまう。
「ん」
「元太くん、でもわたしは………」
「俺もうデモリアさんのこと恐いとか思ってないし教会に来た時からよくしてもらってるから今さらビビったりしねえよ。だから、さっさと俺の手を掴めよ!」
「元太くん…………ありがとう」
「何お礼とか言ってんだよ」
「はっ!」
全員手を繋いだところで僕は壁に蹴りを入れてその弾力で一気に進んで手すりを掴む。少しずつ足に力を入れて進むと端っこの元太くんも手すりを掴む。すると大分安定して踏ん張りが効くようになった。
「行ける、行けるよ二人とも!」
足を進めるごとに気分が高揚してくる。
「わたし達も、愛の力」
さなえの言葉で僕は顔が赤くなるのを感じた。
「いや、それはあくまであの二人に対する嫌味っていうか皮肉っていうか…………」
「少年、手すりから手を離したら凍りづけだぞ」
ガルムの言葉で一気に高揚感が冷めた。
「それ笑えないし死んじゃうからやめて!」
「おい司、俺達もいるんだが。二人だけの世界に入らないでもらえるか?」
悠が皮肉に言う。
「別にそんなんじゃないから!ヤキモチとか妬かないでくれる!?」
「別に俺はお前達だけ仲よくていいな、とか羨ましいとか思ってないぞ?」
「痛い痛い痛い!五十嵐くんちょっと痛いって!」
口ではそう言いつつ全力で嫉妬してるのかそのとばっちりが絵里香ちゃんに飛んでった。
「何を言う、これくらいでないと手を離してしまうだろ?」
悠が悪びれもなく言う。
「せめてもう少し優しくしてよー、あたし女の子なんだからー」
「お前が?ふっ」
悠は絵里香ちゃんの懇願を鼻で笑った。まあ絵里香ちゃんは威勢がいいから女の子っていうか男の子に近いのかもね。
「あー、今笑ったでしょ!あたしが女の子ぽくないって!」
「気のせいだろ」
「気のせいじゃないもん!あたし見たんだもん!」
「気のせいだ」
「気のせいじゃない!」
やれやれ、こういうのもバカップルって言うのかなー。
「ていうかさー、絵里香を女の子って思う方が無理があんだろ。女子っていうか男?いや、田舎のかーちゃん?」
豊太郎がからかうように言う。いや、その台詞をここで言うのはやばい、やばいって!
「ちょっと!豊太郎くんまでそんなこと言うの?もー!もー!もー!」
絵里香ちゃんが怒りのあまり片手を振る。その煽りを受けてエミリアの腕が振り回される。なんで悠と繋いてる方じゃないのか。
「あの、絵里香さん、腕をあまり振ると……」
「ああ?」
「い、いえ………」
エミリアは腕を振るのをやめてって言おうとしたけど絵里香ちゃんに睨まれて黙った。そういうとこ、絵里香ちゃん、そういうとこだよ。
「なんか、馬鹿ばっか」
さなえが呆れた顔で言う。
「ははは………」
僕は力なく笑うしかなかった。
「あの、皆さんなにしてるんです?」
「その歳で電車ごっことか恥ずかしくないのか………」
しばらく進むと先に試練を終えたアリエルちゃんとアマツカが僕達を見て言った。
「むしろ電車ごっこのがまだマシだと思うよ、強風に煽られてるのに人前でイチャつく男女よりは」
僕は嫌味っぽく返した。
「違うぞ!別にあれはイチャついてたじゃなくてだな…………」
アマツカが顔を赤くして必死に否定する。その態度が逆にむかつく、後輩と合法的にくっつけて役得だったならそう言えばいいのにさ。
「いやん、イチャつくだなんて恥ずかしい。そこははっきり愛を確かめ合ってたって言ってくださいよー」
アリエルちゃんは頬に手を当てて身体をくねられせる。こっちはこっちであからさま過ぎてむかつくぅ。
「司、眉間にしわ寄ってる。落ち着いて、司の手はわたしが握ってるから」
さなえがなだめるように言ってくる。
「う、うん、分かってる」
さなえの言葉でちょっと落ち着いてきた気がする。
そして僕達は苦労と協力の末、試練を終わらせた。
「はあ、はあ………」
なんだろう、別に速く走ったわけじゃないのに足が重い、腕もピリピリする。風に向かってくてほんと疲れる、台風とか春の初めの風が吹いた時よりも疲れる。
「素晴らしい!決して一人の力でやろうとせず、仲間の力を借り、共にゴールを目指す姿、感動的です!」
フウマジンが両手を重ねて言う。モノアイで身体が風で出来てるクリーチャーありながら女の子みたいな仕草をする、すごいギャップだ。
「よろしい、我が力、あなた達に与えましょう。上手く使ってください」
フウマジンが手をかざし、Mギアに光が移動する。これで僕達はフウマジンの力を使えるようになった。
「気をつけてください、妙な胸騒ぎがします」
フウマジンが警告するように言う。
「胸騒ぎ?」
「機械竜のことか」
「それだけで済めばいいのですがその機械竜に恐ろしいことが起きる可能性があるのです。そうなった場合、わたしの力を加えただけで敵うかどうか………」
フウマジンが不安そうに言う。
「大丈夫だって、俺達は勇者だ。負けねえよ、機械竜の野郎もぶっ飛ばしてやるよ!」
豊太郎が力強く言う。
「ふっ、それは心強い限りです。皆さんの健闘を祈ります」
フウマジンがそう言うと風景が体育館から森に戻った。
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